空気を入れ替えましょう
楓くん?(いい加減これも馴れ馴れしいとか言われそうだから名字が知りたい)に握手をふざけるなと断られ、そりゃそうっすよねぇと私が納得している間にもなにやら事は進んでいたらしい、です、ね?
「おい!楓、待てって!」
部長さんの少し大きめの声でハッとする。あれ、しまったぼーっとしてた
「嫌ですよ俺は、王子は仕方ないにしてもなんで姫までこんなど素人に渡さなきゃいけないんですか。」
まぁなんとも私の心配していたごもっともな意見をくれる楓くん。いや、私だってわかってますよ、ていうか出たくて出るんじゃないですし
「…確かに若宮さんは素人だけど、とても懸命に頑張ってくれているんだ、感謝はしても貶すことはすべきじゃないだろう」
「さ、咲良部長…私は別に気にしてないので、」
部長の今までにみたことのない表情に私が驚いて制止をかける。うん、そもそもあの楓くんは間違ったことを言っていない、確かにね、口調はね、うん!すっごく腹立つけどね!
「しかも見る限りこいつにあの姫の役は務まりませんよ?絶世の美女なんでしょう?」
「は」
はっ、と嘲笑を浮かべこちらを見る楓くん
こ、こいつめえええええ!人が大人しくしてれば一番気にしているところをおおおおっ!!!
なんだか本気で腹が立ってきたけれどもこれも中々の正論なので反論出来ない、くっそう
楓くんを反論が出来ない代わりに睨んでいると後ろからふわっと引っ張られた、あれ、デジャヴ?
当然構えていなかった私はバランスを崩す
「ねぇ君、さっきから黙って聞いてればさぁ、なんのつもり?」
ぽすっとバランスを崩した(というかこの人のせいなんですけどね!)私を受け止め、以前私が先輩方に呼び出された時のような真っ黒なオーラを浮かべた優人先輩が口を開く。…部長といいこの人達なんか怖いっっ!!
「…っ、」
さすがの楓くんもこれにはビビったのか少し怯む、けど再びもとの強気で先輩に対抗する
「別に俺は間違ったことを言ってないですよ。」
「頼んで来たのはそっちだろう?俺たちはボランティアだ、それに間違ってるよ、こなっちゃんは可愛い。」
「は?可愛いってあれが?!王子は頼みましたけど姫は頼んで無いですよ、」
「もちろん、すごく可愛いでしょ?…うん、それじゃあ俺も出るのやめ…」
「ストーーーーーップ!!!」
思わず先輩の腕をすり抜け二人の間に割り込み大きな声でストップをかけた。
なんなんだこの人達は!ていうか間に私の話混ぜるのやめてくれません?!恥ずかしいったらないんですが!!
「先輩!!」
「はい?」
大体この人はっっ
「あなたが私をどう思うかは勝手ですけどね!世間一般的には私は可愛くないんです!いや、ていうか先輩からみても可愛く無いですよ!それに、役も、なんですか!簡単にやめていいと思ってるんですか?!引き受けたんだったら最後までやってください!じゃなきゃ今まで私が」
「はいはい!若宮ちゃんも落ち着こうねー!」
「もごっ!!?」
涼先輩が横からにゅっと出した手によって口を抑えられる。け、結構力強くありません?!
「皆で暴走しちゃったら意味ないでしょー??かえちゃんも!どうしてそんなに嫌がるの?若宮ちゃんが嫌い?」
ゔ、ちょっとストレートすぎません先輩?!収めるつもりなのか悪化させるつもりなのかどっちかにしてくれません?!?!
すると予想外にも楓くんは一瞬言葉を詰まらせた。…即答で嫌いって言われると思ったから驚いたけど
「…べ、つにそんなんじゃ…」
楓くんはぼそっと聞こえるか聞こえないか位の声でつぶやくものだからもっとよく聞こうと耳をすませると
「嫌いですよ!そんなブサイクなチビ」
「んなっっ?!」
そう言い切ると楓くんはスタスタとドアの近くに行きバンッと音をたててそのまま出て行ってしまった。
…な、なんだったんだ本当に。
まるで嵐が去った後の様に静かになった部室に部長さんのため息がもれた。
「若宮さん、上条、ごめん!普段はあんなやつじゃないんだが…」
「部長、様子をみてきましょうか?」
「かえちゃんなんかおかしかったね?」
どうしたのかなぁと心配する委員長と涼先輩。…なんだか私は罪悪感でいっぱいになってきた。
これはマズイ。こんな黒っぽいドロドロとした気持ちで、演技なんかとてもじゃないけど無理だ
「ごめんなさい!ちょっと失礼します!!!」
「え?!」
後ろから皆が驚きの声をあげているのをききながら、私は部屋から出て行った楓くんを追った。




