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若宮さんの憂鬱日記  作者: 咲野 音葉
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気のせい…ですよね?

「好き、好きだよ、君が好きだ。」


「え、」


いきなり手首を掴まれたのであわてて逃げようとした、、


はずだったのだが予想よりはるかに強い力で掴まれている為振りほどけない。


「…っ、」


「なんで…逃げる?」


「あなたが…突然変なことをするからです…。」


私がそういうと不思議そうな顔をしてさらに距離を縮めてきた。


「変?」


逃げる私の腰を掴み、さらに距離を縮めてくる。


「は、離して…」


「好きな人に、こうやって触れたいと思うのは…普通の事だと思うけど…?」


「……っ!」


体はぴったりとくっついていて、腰も掴まれているから動けない。


顔が…どんどん、触れそうなほどに近づいてくる


「ねぇ…?こなっちゃん?」


「す、ストーーップ!!!!」


どんっ、ととりあえずものすごく近くなった距離を離す。


「えーー…せっかくいいところだったのにー」


その人、上条優人先輩は唇をとんがらせていかにも不満そうだった。


「えー…じゃないですよ‼︎あんな近さなんて台本に書いてないですし!それにもう後半は役じゃなく先輩そのものだったじゃないですか!!」


「いやー…だってあまりにも君が動揺するから、可愛くて」


「半笑じゃないですか!!」


バカにされてる…!!


いきなりの事で驚かせてすいません。ただいま劇の練習をしているのです。前回、先輩が宣言をした通り特訓がはじまったのですが…こんな感じで優人先輩がからかうものですから、私はすごく疲れています


「あれー、こなっちゃんどうしたのいきなり変な方向向いて」


「気にしないでください、状況説明してただけなので…で、先輩、この特訓はいつまでやるんですか…?」


かれこれもう1時間はぶっ通しだ。いい加減疲れてきたんだけどなぁ…


「えー?もう?こなっちゃん軟弱だねぇ」


「先輩が狂人的なだけですよ…」


ていうか本当になんでこんなことに…先輩演劇そんなやる気だったっけ?


「じゃー15分休憩ね!そしたらまたはじめるからー!」


「ええぇ短っっ!」


私の文句も聞かずに先輩は飲み物買ってくるーと走っていった…私の分…なんかないよね、ですよね、はい。


「まぁ、いいか、それより…ねむい。」


それもそうだ。今は放課後。授業も終わって、もうすぐ部活をやっている人だって帰りそうな時間帯。


これまさか…夜までなんてやらないよね…?


そんなことを考えているうちに自然とまぶたが落ちてきた。



***


「えーーっと…?」


戻ってきたら、、驚いた。それは目の前で小那都が爆睡してたからで…


「15分休憩って言ったじゃん。」


つい、ふ、っと息がこぼれる。

なんでこの子はいつも俺の予想してないことをするんだろう。いつもあんなに警戒してるのに…


「あーらら、安心しきった顔してる。」


それは子供の寝顔のそれで、小さい小那都がさらに小さく見えた


「ふっ、ほんと、こなっちゃんは」


「んー…」


夢でも稽古をしているのか…なんだか眉間にシワが寄ってきた。寝ていてもこんなに面白いのかこの子は。


試しに近づいて見ても、つついてみても…反応は無し。


「うーんこれはちょっと…。」


いつ起きるだろうか。


「まぁ、いいか。こんなところで寝てる方が悪いよね。」



***



???


あれ、なんか、変だな。さっきまで、先輩と特訓してて…特訓


「特訓っっ?!」


「あ、あははっ起きた?」


「って、え?!先輩?!」


…先輩…というか、目の前にみえるのは…先輩。いや、先輩なんだけど………なんで頭?


「あ、あんま暴れないでねー暴れたらその辺に捨てるからー」


「え、ちょっ、先輩!!なぜっっ」


そうだ、なぜ、なぜ私は今先輩におぶられているんだろう!?だめだ!全然覚えてない!!


「こなっちゃん休憩中に寝ちゃってさー、あまりにも気持ち良さそうで起きないもんでこのまま持ってきちゃった☆」


嘘だーーーーーーーーー!!!!

うわぁ嘘だ!信じたくない!!私はまたこの人の前で寝たのか!!しかも寝顔ばっちりみられてたのかっっ!うわああもうやだ!からかわれる!絶対ネタにされる!…じゃなくて!!


「せ、先輩!もう大丈夫ですので!!お、おろしていただいても…」


「あー本当に覚えてないんだね、そっかぁ…ごめんね、じゃあ降ろせない。」


「はい?!」


な、な?!覚えてないでしょ寝てたんだから!!…でもなんか…ん?いや、気のせい気のせい!て、今の状態がものすごく恥ずかしい!!


「やです!降ろしてください!歩けますから!!」


「俺…珍しく失敗したんだよね、あぁもうバカした…。あー…こなっちゃん面白かったよ?君の寝顔と寝言」


「えっ」


びくっとなる。え、ね、寝言


「特訓ーとか、先輩のばかとか先輩大好きとか」


「最後のは嘘ですよね?!」


「あはは!まぁこれを今後のネタにするかどうかは今のこなっちゃんにかかってるよ?」


「…重いですがよろしくお願いします。」


「ははっ!了解!まぁ俺のためと思っておぶられててよ。」


…?そういえばさっきから、失敗だのバカしただの、先輩らしくない言葉が多々出てくるんだけどなんのことなんだろう?


ていうか私をおぶって先輩になんの得が…。あれ


「…先輩。」


優人先輩の肩が私でもわかるくらいにピクッとゆれた。


「わかりましたよ、先輩…あなたもしかして」


「…はぁ、なんでわかったのかなぁ…。うん、ごめん謝る、ていっても俺もなんでやったかわからないんだよね、体が勝手にというか…」


「やっぱり!先輩!あなた体調悪いんじゃないんですか?!」


「…は?」


「だって先輩あついですよ?!明らかに熱ありますって!私の前で弱味をみせたくないのはわかりましたから!もう顔とかみないんで!なにも言わないので!おろしてください!」


「…。」


バカだなぁ私、先輩が誰かに弱味をみせるタイプじゃないってわかってたのに。きっと先輩は今私にみられたくないんだ。だから


「…ふっ。」


「…え、先輩?」


何故、今、笑うんだこの人は


「…いや、うん。半分正解で半分はずれ…ははっ!やっぱり君はそのままがいいよ、ずっとね」


「…なんの話…ていうか、え?半分はずれなんですか?!」


「うん、だからやっぱり降ろしてあげない。」


うええええええええー…。何故、ていうか君はそのままでって、完璧にバカにしてるよね?またいつものパターンでバカにしてるよねえぇ?!


「…はぁ。本気で焦ったよ。」


「え?何か言いました?」


「ん?ううん?こなっちゃん大好きって言ったー」


「私の勘違いだったみたいですね、すいません気にしないでください。」


「えー、ひっどいなぁ。」


…そういえば先輩風邪が半分はずれならなんで熱かったんだろう?やっぱり気のせい??




日がもう暮れかかっているこの時間。気のせいだとは思いつつも少し口になにかの違和感を覚える少女をおぶる、自分のしたことに顔が赤くなるのをとめられない少年は、らしくない自分の姿を見る人がこの時間帯のおかげでほとんどいないことに本気で安堵したのでした。




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