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夢見亭のお嬢さん  作者: かじひろ
第2章
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はじまりの色が舞う



その後、『お腹が減った』と言う真朱の一言で、場は会食の席へと移された。

淡藤は遠慮して帰ろうとしたが、話が途中だと真朱に引き留められている。

月白としても、ここで弟に帰られては心許ない――ではなく、話がややこしくなるので居てもらわなくては困る。

元より月白を招く建前だったからか、夕食は豪華なものが並んでいる。淡藤が増えたところで困らなかったようだ。


「これは何?ちょっと辛いね」

「牛と野菜を炒めて、塩と胡椒で味をつけてあります」

料理を取り分けたりと給事をする傍ら、丁子が淡藤に捕まっている。

「胡椒?」

「はい。倭の伝統的な料理には、あまり使用されない香辛料かもしれません。発祥は吐晏だと聞いております」

「吐晏とは、あまり交易がないはずだけど、王都まで普及してるの?」

「それは……」

料理以外のことは対応できる範疇にないのか、丁子が答えに詰まった。

視線で助けを求められた藍は、

「ウチの料理人が南の地方出身なんだ。国境近くの村だから、倭と吐晏の文化が混ざってるらしい」

「へぇ。これは国内で流通させれば売れるかも」

「残念ながら、国内に行き渡るほどの生産力は、あの田舎にはないな」

「小さな村だからね」

真朱たちが和やかに円卓を囲んでいる間、月白は一人で別の思考に耽っていた。


目先の問題に限るなら、最善なのはヒースガルドとの戦争を避け、できるなら王弟の権力を削ぐこと。最悪はこのまま開戦を止められず、両国に被害が出ることだ。

つまり、真朱の言う通りにヒースと不侵条約を結べばとりあえずこちらの勝ち。逆に、要である彼女の存在が露見して王弟に手を下されたら負け、と言うことになる。


開戦を避けられても王弟の権力は削がれないし、負ければ失脚どころの話で済まない。

分の悪い勝負にためらう一方で、己の力不足は認めなければ仕方がないことも、既に分かっている。どう言い繕ったところで、ない袖は振れないのだ。



「それで、具体的にどんな策を考えているんだ?」

まずはそれを聞いてみようと月白が箸を置くと、真朱は匙の先をくわえて小首を傾げた。

凶悪なほど可愛らしい仕草に、胸が高鳴る――が、やはり彼女は外見を裏切りまくる性格だった。

「少しは自分で考えられないの?その頭は何のためについているのかな」

腕を組んだ真朱の、ちっとも可愛くない瞳が月白を睥睨する。

「もう少ししっかりしてくれると嬉しいね。貴方を動かそうって言う私の思考が疑われるじゃない」

「な…にを…」

(このガ――いや待て、これでも王孫だ。ガキはまずい)

卓の下で袴を握り締め、月白はひきつる口元を無理やり上げた。

「完璧な駒扱いに聞こえるんだが」

「貴方は私の下僕でしょう。忘れたの?貴方の血筋と肩書きだけは、十分に利用できるんだからね」


(このクソガキっ!!)


よく分かった。この生意気な子供に遠慮は必要ない。

駒でも下僕でも言うがいい。その通りに動いてやろうではないか。

ただし開戦が回避できたなら、その後は王弟を失脚させるのに彼女を利用してやる。

本人にその気はないようだが、真朱を次期女王に仕立ててしまえば、王弟の権力を削るのに役立つはずだ。

そのために、頭くらい下げてやろうではないか。


「大変に申し訳ないことでございますが私では力不足で殿下の期待に十分応えることができかねますこの下僕めにそのお考えをご高説賜りたく存じますがっ」

一息で言い切って、月白は真朱を睨んだ。

「………」

暫時、部屋を沈黙が支配する。

「……丁子」

「は、はい」

ことりと匙を置いた真朱が、侍女を呼ばう。

「今のを何と言う?」

「……い、慇懃無礼、ですか?」

ぽろりと溢れた丁子の言葉をきっかけにして、淡藤が笑いの発作を起こした。

「あははははっ!兄さんがキレた」

「黙れ藤!」

捨てきれない羞恥心に顔が熱くなるのを感じた月白は、照れ隠しに弟を一喝した。

しかし淡藤は八つ当たりを受けてなお笑い続け、しまいには目尻の涙を拭う始末である。

「ふふっ……兄さん、情けないなぁ…ふっ」

「うるさい、黙れ、自覚している」




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