はじまり
初投稿です。どうぞお手柔らかに。
ガラガラと大通りを疾走していく馬車を避け、腕の中の包みを抱え直す。
主人からの頼まれものだ。落として汚しでもしたらことである。
丁子(ちょうじ)は今年十五になる。この大通りの先、王都の外れにある夢見亭で働く侍女だ。
もとは王族が所有していた離宮だが、二十年ほど前に払い下げられて現在は夢見亭と呼ばれている。
「丁子、丁子!」
通りの左右に軒を連ねる屋台から、威勢のいい声が丁子を呼び止めた。
見れば、八百屋の女将が麻の袋を片手に彼女を手招いている。
「こんにちは、おかみさん。何かご用ですか?」
「そろそろ通る頃だと思ってたんだ。これ、持って行きな」差し出された袋には、ジャガイモや玉ねぎ、ゴボウなどの野菜類。言うまでもなく店の売り物だ。
女将は丁子が通りかかる度に、こうして何かを持たせてくれる。
「いつもありがとうございます。商品なのに…」
「いいんだよ。ここのところ、商品の値を上げちまったから、売れ残りが多くてね」
「値段を上げた?」
「税金が高くてなぁ。こっちも値を上げなきゃ利益にならねぇんだ」
丁子が首をかしげると、隣で話を聞いていた乾物屋の主人がそう教えてくれた。
「税金…」
「そう。まったく、政治は何をやってるんだかね」
「仕方ねぇさ。近頃じゃあ王弟殿下が議会を仕切ってるって話だ」
女将は麻袋の口を縛って丁子に渡し、ため息をつく。
「陛下はもう高齢だしねぇ。逆に宰相閣下は若すぎて、王弟殿下の言いなりなんだろう?」
「だからって好き勝手やられちゃ困る。ウチは魚なんか扱ってるから、シャレにならねぇよ。大体なぁ――」
長くなりそうな気配を感じ、彼らから一歩足を退く。
夕食の支度もあるので、あまり油を売ってはいられないのを思い出したのだ。
「あの、私そろそろ」
「あぁ、夢見のお嬢さんによろしく」
「はい。野菜、ありがとうございました」
一礼すると、丁子はまだ話を続ける女将たちを残して再び家路についた。




