カーテンの向こう側
誰にでも起こりえるかもしれない体験4
「痛い、足がジンジンする」
俺は2日前、交通事故で、近くの病院に搬送された。
大腿骨の骨折と診断され、現在ベッド上安静中。足を牽引していて動けない。
「くそ。来週の手術までこのままかよ」
夜中、ベッドの上で、ひとり愚痴る。
俺が入院している病院は、田舎の3階建ての中核病院。
一応、救急外来もやっているが、夜間帯に医師は1人しかいない。
病棟は3病棟、急性期と慢性期とリハビリ病棟。
本当は急性期病棟に入院予定だったが、満床で2階の慢性期病棟に振り分けられた。
始めに入院した4人部屋は、ナースステーションには近いが、寝たきり老人の部屋。
俺の隣が、一日中「助けてくれ~」と叫ぶ老人。
向かいが、頻繁に痰が絡み、呼吸がおかしくなる老人。
斜め前が、抑制帯を付けられて、柵をガシャンガシャン外そうとする老人。
俺は痛いし、牽引で動けず、1日で発狂しそうになった。
看護婦さんに泣きついて個室を希望。個室は満床だからと2人床へ。
移動した2人床は、病棟の一番端の部屋。
廊下側のベッドに俺1人。窓際のベッドは空いている。
夜0時過ぎに、年配の看護婦さんが巡回に来て、寝るように促された。
実質1人、痛みは強いがこれで寝れると安心していた真夜中。
ガサガサガサ
人の気配がする。
始めは看護婦さんかと思ったが、窓際の空いているベッドの方からだ。
俺は、スマホを付けて時間を見た、1時半。
気のせいだったか?
耳を澄ます。
ガタガタガタガタ
古い天井に付いている空調の音。
ピンポン。
遠くで、ナースコールの音が聞こえる。
やっぱり、気のせいか。
俺は、また眠りについた。
ぎし、ぎし、ぎし
音で目を覚ました。
また、窓際の空いているベッドの方からだ。
仕切りのカーテンが、かすかに揺れている。
光りに照らされた、人影がよぎった。
「ひぃ」
声にならない音が、俺の口から洩れた。
逃げ出したいが、牽引中の俺は動けない。
仕切りのカーテンを凝視する俺。
「・・・・。」
長いようで、一瞬のような時間。
・・・・何もおきない。
・・・・音もしない。
・・・・カーテンは揺れてない。
俺の心臓がバクバクしている。
このままではいられない。
ナースコールを押そうと思ったが、何もなかった時に恥ずかしい。
・・・・隣のカーテンには手が届く。
少し開けてみるか・・・・。
意を決して、ゆっくりカーテンを開けると、
ベットに横たわる女と目が合った。
「ぎ、ぎがあぁ~~ああああああ!」
俺は、大声をあげて、のけぞった。
足を骨折してるとか、牽引しているとか関係ない。
ベッドに横たわっていた女も驚いて。俺のベッドの方へ歩いてきた。
「大丈夫、石橋さん。ごめんね、驚かせてしまって」
「え?看護婦さん?」
よく見ると、夜間担当の年配の看護婦さん。足は付いている。幽霊じゃない。
俺の叫び声を聴いて、他の看護婦さんも集まて来た。
「すいません。俺の早とちりでした」
俺は、恥ずかしくて平謝り。
年配の看護婦さんも、他の看護婦さんも、ナースステーションの方に戻って行った。
なぜ、年配の看護師さんが、隣のベッドに寝ていたのかは不明。
気になるが、こんな夜中に大声をあげて迷惑をかけてしまった手前、今すぐ理由を聞くわけにもいかず、朝確認しようと思いながら、眠りについた。
「おはようございます。石橋さん」
「おはようございます」
あれ、年配の看護師さんじゃない。
「昨日はどうしたんですか?夜間、叫んましたね。怖い夢でも見ましたか」
「すいませんでした。寝ぼけたわけではなく、隣のベッドに寝ていた年配の看護婦さんに驚いてしまったんです。年配の看護婦さんは、今、休憩中ですか?」
「・・・・。少し待っててくださいね」
朝の看護婦さんは血相を変えて、病室を出て行った。
「え?」
朝の看護婦さんが、もう一人の年配の看護師さんを連れて来た。
「・・・石橋さん。年配の看護師さんは、この人ですか」
「いいえ、もっと細くて、小さい看護婦さんでした」
「「・・・・・。」」
二人とも、顔面蒼白。
「今日、夜勤したのは、私達二人です」
「うそだ・・・・。お願いします。元の部屋でいいので、戻して下さい」
俺は、また、泣きそうになりながら、看護婦さんに懇願した。
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