無能力者
白い世界。
果てのない空。
遠くで誰かが叫んでいる。
ただ必死だった。
「カイ様!!」
だが身体が動かない。
胸の奥が熱い。
何か大切なものを失いそうな感覚。
次の瞬間。
眩い光が胸を貫いた。
世界が砕ける。
そして――。
視界は真っ白に染まった。
◇◇◇
「また、この夢か……」
少年は目を覚ました。
額には汗が滲んでいる。
見慣れた木製の天井。
クロスロード家の自室だった。
カイ・クロスロード。
7歳。
今日は人生を決める日だった。
能力適性測定の日。
大炎亜全国家では、7歳になると能力を測定する。
能力レベルによって進路も待遇も変わる。
言わば人生の分岐点。
誰もが緊張する日だった。
巨大な測定会場。
数百人の子供達が並ぶ。
壇上には国家認定測定器。
能力を数値化する特殊装置だった。
測定結果は巨大モニターへ表示される。
会場には保護者も集まっている。
順番に名前が呼ばれていく。
「次、カイ・クロスロード」
カイは測定器に手を置く。
淡い光が身体を包み込む。
数秒後。
結果が表示された。
会場が静まり返る。
誰も言葉を発しない。
測定官ですら固まっていた。
「……レベル0」
モニターに表示された数字。
0。
たった一文字。
それだけだった。
カイは肩を落とした。
周囲は動揺した。
「史上初の無能力者」
「学園で何を学ぶのか?」
笑い声。
嘲笑。
憐れみ。
◇◇◇
「気にしてる?」
帰り道。
水色髪の少女が隣を歩いていた。
ルナ・クロスロード。
カイの幼馴染。
唯一の友人だった。
「気にしてないと言ったら嘘になるな」
「そっか」
「でも慣れた」
「慣れちゃ駄目」
ルナは少しだけ眉をひそめた。
「カイはもっと怒っていい」
「怒ったところで数字は変わらない」
「数字が全てじゃない」
「この国では全てだよ」
ルナは何も言い返さなかった。
ただ悲しそうな顔をした。
◇◇◇
能力。
それは人類の常識だった。
約百年前。
天から現れた天使達によって世界は滅亡寸前まで追い込まれた。
多くの人々が死んだ。
国家は崩壊した。
文明は焼き払われた。
しかし人類は滅びなかった。
その戦いの中で能力に目覚めたからだ。
炎を操る者。
雷を纏う者。
鋼鉄の肉体を持つ者。
傷を癒やす者。
そして空間や時間さえ歪める者。
人類は能力によって生き残った。
だからこそ。
能力を持たない人間など存在してはならなかった。
それなのに。
カイはレベル0だった。
◇◇◇
6年後。
中等部入学式。
巨大な校舎がそびえ立つ。
全国から才能ある子供達が集まる能力者養成機関。
大炎亜中央学園。
入学式会場。
巨大モニターにクラス分けが表示される。
Sクラス。
Aクラス。
Bクラス。
Cクラス。
そして。
最後に。
Dクラス。
会場がどよめく。
「無能力者枠」
「というか一人だけじゃん」
表示された名前。
Dクラス
カイ・クロスロード
以上
「……一人か」
思わず苦笑する。
会場中の視線が集まっていた。
その時だった。
隣から声が聞こえる。
「良かった」
振り返る。
ルナだった。
「何が?」
「同じ校舎だから」
「慰めになってないぞ」
「でも一人じゃない」
そう言ってルナは微笑んだ。
不思議だった。
周囲がどれだけ見下しても。
ルナだけは昔から変わらない。
まるで。
ずっと見守り続けているかのように。
◇◇◇
入学式終了後。
校舎裏。
一人で歩いていたカイは立ち止まった。
頭が痛い。
まただ。
最近増えている。
夢を見る頻度も。
頭痛も。
そして。
知らない景色が見える。
白い神殿。
果てのない空。
翼を持つ人影。
そして。
泣いている銀髪の少女。
『お願い……生きて……』
誰の声だ。
なぜ知っている。
なぜ懐かしい。
その瞬間。
頭痛が消える。
気付けば景色も消えていた。
「なんなんだよ……」
カイは空を見上げた。
雲一つない青空。
平和な世界。
だが。
その空の遥か向こうでは。
百年前に閉ざされたはずの門が。
ゆっくりと。
音もなく。
再び開き始めていた。




