5話
「アラン」
名前を呼ばれるのは慣れない。
それでも師匠の最後の贈り物だから、名前を呼ばれるのは嬉しい。
僕の中で師匠が生きているみたいで。
いや、みたいじゃない。
師匠は僕の中で生きているんだ。
「なんだ、ノア」
「これから魔女狩りの砦に奇襲を掛ける前に何か食べて行きませんか」
「そうだな……」
確かに、夕飯にはちょうどいい頃合いだ。
ノアは嬉しそうに昼に悩んでいた定食屋を提案してきた。
魔女狩りに恨みがある魔女同士、気が合ってこうして二人で魔女狩り撲滅の旅を続けている。
他人が苦手な僕がノアと一緒にいられるのは、ノアがどこか師匠に似ているからだろうか。
「ほら、アラン!そんなに少食だとこれからが持ちませんよ!」
そう言いながら自分で頼み過ぎた料理をこちらに寄越してくる図太さとか、やはり似ていると思うのだが。
あと、こう見えて世話焼きなところも。
「ねぇ、アラン。ここの砦を壊滅したら次はどこへ行きます?寒くなる前に北へ行きません?」
「そうだな」
師匠が言った通り、魔女狩りは復活した。
そしてまた方々で魔女だと嘯いて金持ちを殺して地位や財を奪ったりして私腹を肥やしている。
僕は師匠までこの手に掛けたのに、魔女狩りはまた現れた。
魔女狩りと称して悪事を企てているのが許せなかった。
同時に、師匠の言葉も甦る。
魔女も魔女狩りも所詮は人間。
……師匠の言いつけを守って、立派な魔女になるために、魔女狩りを撲滅するために旅をしているが、これでいいんだろうか。
師匠が望んだのは、本当にこういうことだったのだろうか。
そういった疑問を最近持つようになってきた。
人を殺すことに慣れ過ぎて、魔女と言われても仕方がない。
こんな人間を、師匠は立派な魔女になったと褒めてくれるだろうか?
鬱々と考えていると、ノアが僕の両頬を抓る。
「ほら、アランはすぐに暗い顔をする。笑わなきゃ福の神様も来ませんよ」
「……そうだね、ノア」
師匠は魔女狩りを狩ることを望んでいた。
僕はその意志を継ぐだけだ。
時折ノアにも尋ねられる。
「それ、本当に師匠さんの意思ですか?」
ネックレスが鈍く光る。
ノアに尋ねられると、師匠に言われている気になる。
顔も知らない実の両親。
……やっぱり、僕の両親を殺されたからって、その殺した相手が師匠かもしれなくったって、僕は師匠を信じている。
僕の親は……師匠だけだ。
「ほら、アラン。早くいきますよ」
「ああ」
ノアの呼ぶ声に、視線をそちらへ向ける。
まだ、旅は終わらない。
考えが終わるか旅が終わるか。
魔女狩りを狩る魔女の旅はまだ終わらない。




