1話
「魔女狩り?」
走って帰ってきた子供が肩で息をしてそう叫んだ。
思わず聞き返したって許されたい。
「魔女狩りが流行っているんです、師匠!」
「そっか。それはそうと今日の晩ご飯は買えたのかい?」
手ぶらの姿を見るに、街へ買い出しに行った途端にそんな噂を聞いて慌てて戻ってきたんだろう。
帰ってくるのに早すぎる。
「それは、その、ごめんなさい。今から買いに行きます」
「もういいよ。あるもので食べよう」
そう言うと、子供はしょんぼりとして持っていたお金を返してきた。
余ったらお菓子でも買ってきていいよって言ったのを思い出したんだろう。
まったく、いつまで経っても子供だねぇ。
夕飯のついでにクッキーを作って、夕飯前だから2枚だけだよって釘を刺して手渡すと、綻ぶような笑顔。
この子供は赤ん坊の頃に捨てられていたのを森で拾った。
持たされていたネックレスの紋章から、やんごとなき出自だと察せられたけれど、捨てられたのなら拾っても問題ないだろう。
泣く赤ん坊を抱き抱えて、自宅へ戻ったのは十年にも満たない短い時間。
それでも子供の成長は早いもので、すくすくと育っていった。
子供は私を魔女だと思っているけれど、本当は魔女を殺してきた人殺しだと知ったらどんな顔をするだろう。
お前の両親を殺したのも私かもしれないよ、そう言ったらどんなに悲しむだろう。
私はくるくると鍋をかき混ぜながら、そんなことを考えていた。
「魔女狩りなんて、私は狩られないよ」
不安そうにネックレスを握り締める子供を安心させるように言う。
なんせ、元魔女狩り部隊の総指揮者だ。
罷り間違っても魔女として私を処分出来る者はいないだろう。
そもそも、実力で私に勝てる者がこの世に何人いるものか。
この子供は、私のすべてを教えてきたのにまだ実力が分からないみたいだ。
この子は筋がいい。
若い頃の私みたいだ。
いずれは最強と呼ばれるかもしれない。
そんな子供を育てる楽しみを、魔女狩りなんて無粋なもので削られるのが嫌になって総指揮者を辞めたのはほんの数年前。
魔女狩り部隊がこの子を見つけるのが先か、この子が返り討ちにするのが先か。
私は久々に楽しくなって鼻歌を歌い始めた。
「師匠、楽しそうですね」
「楽しいねぇ、これからの世の中が」
さて、これからどう転ぶのだろうか。
子供のネックレスがキラリと光っていた。
それが答えだろう。
その時、外に数人の気配を感じた。
やれやれ。まだ作り終わっていないというのに。
「来るなら来い。魔女狩りを狩るのも楽しそうだ」
私の呟きは、誰にも聞こえなかっただろう。
「ちょっと、外へ出てくる。お前は出るんじゃないぞ」
そう言い残して鍋の火を止めて外へ出る。
私が出ても驚きもしないということは、新人か下っ端か。
「子供を渡せばあなたに危害は加えない」
「どこの世界に自分の子供を危険に晒す馬鹿がいるのさ」
そう言って、戦いは一瞬だった。
弱い。
子供にバレないように、すべてを燃やし尽くした。
家の中に戻ると、子供が不安そうにしていた。
「大丈夫だよ」
この感情は、親心か贖罪か。
分からないけれど、私はこの子が愛おしい。
だから守りたい。
「親はね、子供を守るためならなんだってするよ」
それが、魔女狩りを狩ることでもね。




