+2〚魁漆座〛
大通りに出ると、酔っ払いのおじさん……ではなく、白髪の髪の長い高校生くらいの女性を囲んでいるガラの悪い、同じ赤の魚骨が背中に刻まれたフード付きパーカーを着ている連中が十五人ほど。
俺は彼らが何と言っているか分からない。
けれど、彼らが踏みしめるアスファルトの振動が、怒りや嘲笑で細かく震えているのは伝わってくる。
癒宮のスマホに書いてあった通り、先行していた魁漆座二年座長・戈山 湊がそこにいる。
彼は女性を背にかばいながらも、髪で両目を隠して、いつもの「笑顔」で立っている。
俺は、戈山の喉の震えを見て、彼が「優しく、けれど冷徹に」相手を突き放していることを察した。
あれは、バカな相手に程効く特効薬みたいな笑顔。
相手を突き放しつつ、笑顔で距離を保つことで逆に相手を激昂させる技、と言っても過言ではない。
〈テメェら、俺にその顔見せてお家に帰れるとか思ってねぇよな?この言葉も知らねぇ赤ん坊がよ〉
〈いえいえ。そもそも俺達、ここから退くつもりないので。お構いなく〉
〈そいつを今すぐ返してくれたら、お前たちに危害は加えない。だから早く寄越せ〉
〈あ、あのっ……、私……!〉
彼女の唇が、必死に何かを伝えようとして動いているが、戈山は腕で彼女を制止し、何も言わない。
変わりに、また男に目を向けた。
〈ここは魁漆座の縄張りです。勝手な事、しないで貰っていいですか〉
〈だから言っているだろう?俺らはその女を返してもらえればこの街から出て行くって。
なのにお前が、わけのわからねぇ事言い出して庇ってるからよぉ〉
〈っ……〉
相手が拳を握りしめ、戈山が身構えた。
その一動だけで俺が間にはいる理由は十分だ。
そう思い、敵の方へと飛んで、その大きい図体に足に精一杯込めた力をぶつけると、彼は一撃で人気のない路地裏に吹っ飛ぶ。
相手が二人に夢中で一度も振り向かなかった事が幸いだった。
いや、それもこれも全部、一度も目が合っていないあいつに仕組まれていたのかもしれない。
大男の仲間とも思われる奴らは、彼に駆け寄ることも無く、無残に、地響きだけを残して散っていった。
〈あ、あの、お二人ともっ……、本当に本当に、ありがとうございました〉
〈いえいえ。それよりも怪我はない?奴らに追われていたみたいだけど……〉
地響きが止み、張り詰めた振動が消えた後に、彼女の「安堵の表情」が瞳に映った。
何度も何度も俺達に頭を下げている。
きっとお礼を言っているのだろう。
〈あ、はい。大丈夫です〉
〈良かったら、追われていた事情とか聞いてもいい?〉
〈……私も、詳しくはわからないんです。この街の手前でウロウロしていたら、いきなりあの人たちに腕を掴まれて……〉
二人が何を話しているか気になり、手を動かすと、戈山は慌てて制服のポケットから透明なケースが着いたスマホを取り出し、何か入力し始めた。
そして、そのスマホを俺に手渡してくる。
【彼女は大和くるみさん。この街で暮らす中学生なんだって。この街の手前でウロウロしていたら、いきなりあの人たちに腕を掴まれてここの路地裏に連れてこられた所を俺が見つけたんだ。
あ、酔っ払いのおじいさんは交番に連れて行ったよ】
その文章をすべて読み、改行して俺も言葉を入力した。
【そうか。それよりもあのチームって、この辺りを転々としてるって噂のGRAILじゃなかったか?】
書いて、戈山にスマホを返す。
すると、彼はまた文字を入力し始めた。
戈山の特技は高速フリック入力。
その名の通り、まるで光の速さの如く指を動かしている。
そして、また俺にスマホを手渡して来た。
くるみと言う女は俺と戈山を交互に見つめていた。
【うん。どうして追われていたのかは分からない。でも、くるみさんをどうにかしようとしていたみたいだよ。
しかもこの子】
そこまで入力された文章に違和感を抱き、戈山の方を見ると、彼の後から物凄い新幹線の様なスピードで走って来ている大柄な男が見えた。
男が近づいてくる度にまた地鳴りが響く。
くるみを背後に移動させ、俺と戈山が前に出て拳を構えたその瞬間―――。
ドクン。
聞こえないはずの心音が音ではなく動きとして胸に伝わった。
先程までの男たちとは圧倒的に圧が違う。
その男は立ち止まること無く、俺たちの所まで一直線に来て―――……。




