+12〚唯一無二〛
カチャ、カチャ。
鼻を突く様に甘い蜂蜜と、バターの香ばしい匂いが溢れた空間の中に、音が響く。
真っ白な皿の上に乗った生地に刃が差し込まれ、その生地に3本に枝分かれしたナイフが突き刺さる。
〈……!……たい(美味い)!〉
〈あ、美味しい?良かった。ここのパンケーキ僕も好きだから、九条くんに気に入ってもらえて嬉しいよ〉
〈ん〜……!〉
〈もう、詰め込みすぎると喉詰めるよ?〉
美味しさに悶える蓮に戈山はナイフとフォークを置き、ペーパーを蓮に差し出した、その時だった。
ビーッ、と言う悲鳴のような音が、戈山と蓮の左胸辺りからその幸せな空間に鳴り響いたのは。
戈山は一瞬蓮の人工心臓のアラート音かと思ったが、自分の胸から音がも流れている事を知ると、ホッと息を吐き、赤い制服のポケットが四角く切り取られた真ん中にある黒いボタンを押す。
〈こちら、戈山と九条です。何かありましたか?〉
〈慶、蓮!大変なの、雫と零が依頼を解決しに行ってから帰ってきてなくて……!RIRIERUの近くでこの街の外のチームを見たって、TIAVEの客も言ってたからもしかしたら巻き込まれてるのかも……!
少し様子を見てきてくれない?〉
〈一さんはいないんですか?〉
〈惣一?あぁ、あいつはもう良いのよ〉
〈あ……今朝喧嘩したんでしたっけ……?〉
〈違うわよ、あいつが姉である私の言う事を聞かずに自分を蔑ろにするから!……で、頼まれてくれる?〉
〈もちろんです。九条くんと向かいますね。場所は大通りで良いですか?〉
〈うん!ありがとね。あ、後……〉
〈一さん、ですよね?街にいないか見てきますよ〉
〈……うん。ありがと、慶〉
戈山はもう一度黒いボタンを押して通話を切る。
そんな戈山の様子を蓮はポツンと、見つめていた。
戈山も蓮の様子に気づいたのか、スマホを叩き始める。
そこに書かれてあった文字は、優しい言葉だった。
【水戸くんと藤堂くんがいなくなったみたい。後、一さんも癒宮さんと喧嘩して出ていったらしいんだ。
探しに行こう?】
蓮は頷いてナイフとフォークをその場に置き、制服を整えながら考える。
一が喧嘩をして出て行く……それは弐ノ座の座員にとっては日常茶飯事だ。
一もアレで意地っ張りなところがある。
癒宮は強く言いすぎな所がある。
でも、お互いがお互いにとって唯一無二の存在なはずだ。
この世にいる家族が、お互いしかいないから―――……。




