+10〚終わりの手前〛
―――拘束型心筋症(RCM)
心筋症の中でも非常に稀で、難病に指定されている疾患だ。
心臓の筋肉が、石のように「硬く、広がりにくく」なってしまう病気で、全身に酸素が届きにくいため、階段を上るだけで肺が破れるような苦しさを感じることがある。
だから普通、運動は出来ないし、喧嘩なんてもっての外。
今は補助人工心臓を埋め込み、日々を過ごしている。
根本的治療は心臓移植のみだが、俺は移植を受けられない。
さっきも言った通り、一人だから。
通常、移植手術には親の同意が必要だ。
だが俺には親がいない。
文字通り、捨てられたのだ。
幼い頃両親は良く言っていた。
「誰かがいないと何も出来ない」
「あんた何か生まなければよかった」
そう言って、両親は俺から去っていった。
でも、不思議と哀しいとは思わなかった。
その頃の俺は今の俺以上に諦念と言う心しか存在しなかったからと言うのもあるが、幼いなりに感じていたのだろう。
自分は愛されていない事に。
だから、小学校にも中学校にも通えなかった。
もちろん高校にも通っていない。
勉強も、したことがない。
……いや、中学生の時に一度だけしたことがある。
そう思って、机の引き出しの奥に手をいれると、ほこりを被ったひらがな練習帳が出て来た。
当時のことは今でも鮮明に覚えている。
一さんがこの練習帳を買ってきたから。
〈く、じょ、う、れ、ん。これがお前の名前な〉
そう言って微笑んだあの顔は一生忘れられないだろう。
けれど同時に、今でさえ自分の名前すら書けない俺自身に嫌気が差す。
当時もそうだった。
一さんは善意で教えてくれている。
そんな事分かっているのだ。
でも、勉強をしようとこのノートを差し出される度に自分の無力感に吐き気がした。
部屋の電気を消し、ふわっと膨らむ綿地の掛け布団とさらっとした冷えたベッドの間に入り込んで考える。
魁漆座から卒業したら自分には何も残らない。
きっと公揺党に行くだろうけれど、喧嘩以外なにもできない。
もちろん、外に出ればいくらだって仕事が存在する事知っている。
就労支援事業所や家で仕事をする事も出来る。
けれど、その仕事が自分に出来る予感がしない或いは、その仕事だけじゃ少し物足りなさを感じるのだ。
そんな事を考えながら、俺は目を瞑る。
明日も、明後日も、この日常が続く様に―――……。




