+1〚音の存在しない世界〛
あなたにとって、音とは何だ。
うるさい雑音?
聞きたくない声?
そのどれも、俺には分からない。
なぜなら。
―――俺・九条蓮の世界に〝音〟は存在しないから。
ネオンの光がまばらに散っている中を、俺は歩く。
この街じゃ有名な赤い制服を着て、ベージュ色のマッシュに少し隠れた、両耳に一端の高校生には見合わない両耳に青い高価な宝石の様に光る補聴器を着けて。
ここは界区。
夜の店が奥深くまで広がる繁華街だ。
今日も今日とて、またチンピラがそこかしこで暴れ回っているが、そんな騒音、俺の耳には届かない。
代わりに、喉の奥に響く振動と、肺に刺さるネオンの匂いだけが、俺にとっての『街』だ
重度な先天性難聴を患ってから早17年。
チンピラに絡まれる前に、界区の入り口に位置する茶色い塗装が全体に施された探偵事務所・RIRIERUの透明なガラス扉を開く。
〈いらっしゃいま―――あら、蓮じゃない。おかえり。えっと……〉
扉を開くと、そこには茶色い大理石のテーブルと、二つのベージュのソファが置かれている。
カウンターと思しき場所に立っている茶髪ボブの女の子がこちらを見て辺りをキョロキョロしだした。
きっと、俺のためにスマホを探してくれているのだろう。
彼女の名は一 癒宮。長机の端においてあった手帳型ケースのスマホを手に取り、何かを打ち込んで、俺に見せる。
【今日の依頼は二つあって、一つは惣一達が片づけているけれど、もう一つ残ってるの。
道で酔っ払ってるおじさんの介抱。場所はここの大通り。今来た時も通ってるはずよ。
来たばっかりで申し訳ないけど、頼めない?湊が行ったんだけど、通信途絶してて……】
困ったように眉を下げている癒宮に俺は首を上下させる。
すると彼女は途端にぱぁっと顔を明るくし、玄関を指さす。
癒宮に指さされた方向――大通りへと足を進める。
俺が着ているこの赤い制服は、この街『界区』を統べる自警団『魁漆座』の証だ。
先程も説明した通り、ここは繁華街。
あくまで俺たちはこの街にいるみんなが安心して芸を楽しみ、店を営める様にサポートをするだけ。
どこぞのヤンキー漫画みたいに喧嘩か絶えない街、と言うわけでもない。
ただ、極稀に。
特に最近は魁漆座の噂を聞いて、別の街からチームがやってくることもある。
そう、今みたいに―――。




