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「メリッサ・スー魔法古物店」シリーズ

石巨人の少女は今日もダンスを踊る

作者: 浅葱裏
掲載日:2025/11/12

連載中の「メリッサ・スー魔法古物店へようこそ  ~魔法古物の査定、鑑定、買取、販売いたします~」の番外編になります。

こちらだけでも読めますが、よろしければ本編もよろしくお願いいたします。

 私は今日も岩山でダンスを踊っている。


 大の月が満月で岩山の上の平らな石舞台を明るく照らしている。石舞台は私がクルクルと踊りまわれるくらい広く、この辺りでは一番高い岩山なので森の景色はどこまでも見えて、伸ばした手は星々に届く様でとても開放感がある。


 人間の吟遊詩人の女の人に教えてもらったワルツを今日も踊る。ゆっくりと優雅に流れるような動作でと言われたが、どうしても足運びで「ドシン、ザザッ」と音が立ってしまう。これでいいのだろうか?

 合っているかいまいち自信はないが、でも晴れて明るい夜に踊るのは楽しい。

 本当は男の人と女の人が一組になって踊るものだそうだが、私はまだ一人でしか踊ったことがない。

 いつかきっと男の人と踊りたいとは思っているが難しいだろう。


 足運びや腕や顔の角度に注意し、吟遊詩人さんに聞いた舞踏会の会場を夢想して踊る。

 大理石の床や壁に掛かったタペストリー、天井から下がったシャンデリア?が煌めき、流れる楽団の音楽、綺麗なドレス?を着た人間の女性、タキシード?を着た人間の男性がホールで踊っていくつもの花が舞う様だと。

 聞いた話の半分も分からなかったけど、煌びやかに人間が踊りまわる姿はきっととてもきれいなのだろう。吟遊詩人さんの聞かせてくれた音楽を思い返しながら踊る。


 私は今家出中である。五年ほど一人で暮らしている。ここは家族が暮らしている山の奥の集落から随分と人間の暮らしているところに近いところだ。

 今も目を凝らせば遠くに人間の街の明かりが微かに見える。

 三年位前から夜の間ずっと明かりが灯るようになった。

 本当は人間の街を見てみたくて、舞踏会?を見てみたくて家出してきた。

 でも、怖い。

 五年前に森から出てきて、人間に街道で話しかけようとしたら、剣を抜かれて弓を射かけられて逃げ出されて‥‥‥。

 言葉も通じてなかったみたい。

 家族のいる集落に年に一回来る人間の商人たちも、私たちと話せるのは一人だけだった。あとは五年前に偶々同行したっていう吟遊詩人さんくらいだ。

 人間の街?っていうのはどんなところなのだろう。人間がいっぱいいて、色々なお店?があって、市場?があってとにかく賑やかで楽しいところらしい。

 でも、怖い。

 また、襲われたら。人間の射った矢なんか全然効かないけど、怒った顔で怒鳴ってきて怯えられて‥‥‥


 星々がきらめき、月が輝く夜空を見上げる。

 ああ、今日はいい天気だ。暗い考えなんか捨てて楽しく踊ろう。

 そうだ踊ろう。




 って顔を上げて、月を見上げていたら何か?いる。


 四角い何かがゆらゆらと揺れて、大の月をバックに浮いている。

 そして高度を下げて、段々近づいてきている?

 ぼーっと立ちすくんでいる私の目の前にその四角い何かはやってきた止まった。

 その四角い布の上には女の人?

 輝く金色の髪とワンピース?の人間?が座っている。


「こんばんは。石巨人の方、私はメリッサ。あなたのお名前は?」


 その人間は私の目の前に浮いたまま私たちの言葉、「巨人語」で話しかけてきた。


「グラニット、ストーンジャイアントのグラニット」


「グラニット、良いお名前ね」


「あなたは人間? なんで浮いているの?」


「そうね、人間よ。この『魔法の絨毯』の力で浮いているの。」


「凄い、『魔法の絨毯』って吟遊詩人さんの話しで聞いたことがある。『風の精霊』さんの力を借りなくても空を飛べるって言ってた」


「そうね。精霊とお友達じゃなくても飛ぶことが出来るわ。そういえばお楽しみを邪魔してごめんなさい」


「いいの、気にしないで。休憩していたところだし。ところであなたは何しに来たの?」


「ええ、実はあなたをスカウトに来たの。でもその話の前にまずはあなたとお友達になりたいわ」




 メリッサと名乗った人間は私を恐れた様子もないので私も怖くない。

 私が普段使っている石の椅子に座ってもらい、私は寝転がって両手の上に顎を乗せたらだいたい良い高さになった。


 メリッサは私の事を知りたいというのでここが私の踊りの練習場なこと、いつかダンスパーティで踊りたいこと、吟遊詩人さんに聞いたこと、家出のこと、人間の町に行こうと思って攻撃されてこと、山の奥の家族のことなど取り留めもなく話す。

 私は久しぶりの会話で色々一方的に話してしまったが、メリッサは時たま相槌を打ちつつ静かに聞いてくれている。




 一息ついたところで、メリッサは腰の『魔法収納袋』から樽を出してきた。里に来る商人さんも使っていたので『魔法収納袋』の事は知っている。いっぱい物が入る便利な袋だ。


「エールっていう人間のお酒だけど良ければどうぞ」


「ありがとう」


 お酒はアップル・サイダーとかを里でも良く作って飲んでいたので座り直して頂くことにする。

 そういえばこの辺にあるリンゴの木は実は小さくて、いくら食べてもお腹の足しにならない。

 エールはお父さんたちが作って飲んでいたモルト・ブッシュ・ビールより口当たりが良くて美味しい。苔と木の根とは違う物を原料に使っているのだろう。


 メリッサも筒状の物を出してカップで何かを飲み始めた。柑橘の爽やかな匂いが漂ってくる。

 私がじっと見ていると、メリッサは困ったように言った。


「これはそんなに量を用意してないのよ」


 それからポンッと手を打った。


「グラニットは人間のダンスパーティに興味があるのよね?」


「そうです。吟遊詩人さんから聞いてどうしても見てみたくて‥‥」


「じゃあ、人間になりたいってこと?」


 私は大きく肩を落とす。そう人間は私の膝位の大きさもない。一緒に踊ることなんて出来ない。今、横に座っているメリッサだってちょっと触ったら怪我をさせてしまいそうだ。

 人間になることなんて出来ない。

 魔法使いに魔法でも掛けてもらわなければ。


「人間になりたい?」


 メリッサが見上げてきて私の目を見て言った。

 私は黙って頷いた。


「わかったわ。じゃあ立って」


 訳が分からず立ち上がると石の椅子の上でメリッサが『木の棒』を出してこちらを見上げている。


「いい? 今からあなたに人間になる魔法を掛けます。気を落ち着かせて受け入れて、びっくりしないようにね」


 と言い『木の棒』を振るうと『木の棒』から眩い白い光が放たれ私を包んだ。


「抵抗しないで受け入れて」


 びっくりしていたがメリッサが言うので目を瞑って心を落ち着かせて身を任せた。


 バササッという音と共に、目を瞑っていても眩かった光が収まって周りが暗くなった。

 恐る恐る目を開けてみると周りは暗く、何か布地に周り中を覆われている。


「グラニット、大丈夫?」


 布の向こうからメリッサの声が聞こえる。


「大丈夫ですけど、これは?」


 ごそごそとメリッサが布の下を捲って顔を出して、手を差し出した。


「とりあえず、出ましょうか?」


 あれ? メリッサが大きくなった?私と同じくらいの大きさ?

 布の下を潜って外に出てみると、布の正体が分かった。

 私の着ていたチュニックとベルトが脱ぎ捨てられて山になっている。

 そして私は裸だった。

 いや、それどころか月明かりに照らされた腕は、足は、体は人間の物だった。

 岩と同じようだった肌や爪はすべすべで柔らかく、とても傷つきやすそうだ。


 体のあちこちを触っているとメリッサが目の前に大きな鏡を出してくれている。

 お母さんがお父さんに強請っていた高価な手鏡を思い出す。


 映し出された姿はどこからどう見ても人間の少女だった。

 元の顔立ちの面影はあるが、石巨人の要素は一欠片もない。


「これ、どうぞ」


 メリッサが青いワンピースと、白くて薄い何かを渡してきて着方を教えてくれた。

 何かはワンピースの下に着るシュミーズという物らしい。

 メリッサは着替えの最中、私の胸や腰、お尻をチラッと見て本当に軽く溜息をついた。

 もしかして人間を基準にすると私の体は何か問題があるのだろうか?

 気になって「何かおかしいですか?」と聞いてみたが「問題ない」と明るく返された。

 ちょっと胸が重く、腰が細い気がするが問題ないなら一旦気にしないでおこう。

 最後に紐で絞める革の靴を履かせてもらったら踊り出したい気分になった。


 巨人でいる時よりも随分大きくなった石舞台でワルツのステップを踏む。

 とても体が軽い気がする。足運びで大きな音も出ない。

 巨人でいた時よりもとても脆く儚いものになったようで、とても心許ない気がする。


 気が付くとどこからかワルツの調べを流れており、メリッサは髪を纏めタキシード姿で私に手を差し出している。

 知っている! これは私とダンスを踊りたいってサインだ。


「一曲、踊っていただけますか?」


「はい」


 どんな魔法を使ったのか、さっきまで小さくなった私よりも更に頭半分低かったメリッサが今は頭一つ大きい。

 少し顔を上げメリッサの顔を見上げながらワルツを踊る。

 メリッサは男性パート?を苦も無く踊っている。

 私は吟遊詩人さんが教えてくれた女性パートしか知らない。

 私は何度もステップを間違ってしまうが都度、メリッサがフォローしてくれる。

 月明かりの下、二人でクルクルと廻り踊り続ける。


 気が付けば随分時間が経っていた様で大の月が中天まで上がっている。


 慣れない人間の体で踊ったからかちょっと疲れてきたところでダンスは自然と終わりになった。


 メリッサはまた何やら出してきて、大きなテントの中に絨毯、テーブル、クッションなどなどであっという間にこじんまりした柔らかくて居心地が良さそうな空間を作った。


「さぁ、喉も乾いたでしょう。時間は遅いですが、ナイトティータイムを始めましょう」


 それからメリッサとはまたいっぱい話しをした。

 辺りには柑橘の爽やかな匂いが漂っている。




 朝方には魔法の効果が切れるという事で服を脱いで置き、貰った毛布を羽織っておいた。朝日が昇る頃、体が大きく皮膚は固く変化してゆくのが今度ははっきりと観察できた。

 元の石巨人の姿になった私はチュニックとベルトを付けてメリッサとお別れの挨拶をする。


「じゃあ、こちらの準備が出来たらまた来るわ。多分次の満月の時に」


 メリッサは私にお知り合いの贈り物と言ってワンピースとシュミーズ、靴、革鞄、毛布をくれた。

 私はグレイホーンウルフの毛皮と角をお返しにあげた。


 メリッサはまた『魔法の絨毯』に乗って飛び去って行った。




 一月後、私は人間たちの街道建設?の現場のお手伝いをしている。

 木を引き抜いたり、土を掘ったり、小さい石やもっと小さい石を敷いたり均したり、私用のスコップやローラーなどいろんな道具も用意してくれている。

 石を敷いた後、締め固めるにはローラーを使ってもいいらしいが、私がその上をまんべんなく踏むのでもいいという事で、ダンスのステップの要領で転圧している。

 最初は慣れなかったし人間と話すのは怖かったけど、メリッサが一週間ほど居てくれて怯えた人間の責任者?の男の人と「巨人語」で話す時も仲を取り持ってくれたり、それ以外の人間に私の事を怖くないと言ってくれてるみたい。

 責任者?の人だけ「巨人語」が話せる。

 私が手伝うと人間の街道建設?が早く進む様で人間たちからは感謝されているとメリッサが教えてくれた。

 その内、責任者?以外の人間の人たちも朝には「巨人語」で「おはよう」と挨拶してくれたり、作業を手伝った後は片言の「巨人語」で「ありがとう」と言ってくれたりするようになった。

 私も人間の言葉の「おはよう」と「ありがとう」などは覚えたがまだ会話をするのは難しい。


 村から村への街道建設?は一ヵ月から二ヵ月で終わることが多く、その区間が終わると新しく街道が通った村では祭りが開かれる。

 祭りでは工事の人間や村の人間、周りの村々の人間が集まって食べ物が出て、お酒が出て、皆で踊りが踊られるそうだ。


 その時にはメリッサがやって着て『変容:ポリモーフ』の呪文を掛けてくれることになっている。

 ワルツとは違うがかがり火を囲ってみんなで踊るらしく、今から参加するのが楽しみである。




 私は今日も敷石の上でダンスのステップを踏んでいる。


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