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傀儡の蟲(クグツノムシ)

後書きにクドクドと補足を入れています。



『コノセカイハ クルッテイル!ワレラノ シソンノタメ スベテヲ ハカイスル!!』

と叫びながら、男は真っ赤に充血した目を見開き、両手に持った鎌を振り回して警官隊のバリケードに突っ込んで行った。

やがて、何発かの銃声が響き渡り男は倒れ込む。

握りしめた鎌を地面に刺しながら這いずる男は、やがてその充血した目を閉じて静かに息を引き取った。



----



「また異物混入か〜」と仕事場のホームセンターの食堂でスマホのネットニュースを見ながら鎌田桐男かまだきりおがつぶやいた。

「何々〜、ファミリーレストランのサラダバイキングにカマキリと思われる昆虫が混入って…うわっ、家族で行った店じゃないか、最悪〜」と、サラダバイキングから大盛りに取ったサラダを食べる嫁と娘を思い出す。

そういえば、自分が食べたサラダにも何か棒のような硬くて細いものが混ざっていたような?と当時の事を振り返り、頭を大きく振った。

「よし、この記事は見なかった事にしよう」と我が家の平和の為に、この件については触れないことを決めた。





「お父さん、お風呂に入ってよ。最近何だか臭いよ」と娘から言われたくない言葉No.1(自分調べ)が桐男に突き刺さる。

桐男も風呂に入らなければまずいと頭では分かっている。しかし、いざ風呂に入ろうとすると、自分の中の何かがそれを邪魔する。

「いや、風呂に入ると身体の中から何かが出てきそうな感じがするんだよなぁ」と言うと、「何それ汚い〜。お父さん最低!!」と娘の拝里はいりが汚物を見る様な目で桐男を見た。


桐男も風呂好きであり、娘に嫌われたくない一心から風呂に入ろうとするが『マダ ミズニハイルノハ ハヤイ!』と自分の中の何かが桐男を引き止める。

自分の中に何か違う意思を感じて桐男は愕然がくぜんとするが、次の瞬間にはその愕然とした感情を忘れていた。


「もう〜、お母さんからも言ってよ。お父さん本当に臭くなってるよ」と拝里が母親の蟷子とうこに言う。

「本当に変よね。あんなにお風呂好きだったのに」と蟷子も首を捻る。

「一度お医者さんに診てもらった方が良いかしら。何だか目も充血してるみたいだし」と普段と違う桐男を気遣った。



"ソレ"は戸惑っていた。

"ソレ"は宿主に寄生し操ることで生きていた。本来の宿主であれば、餌を捕獲する事と繁殖の事しか頭になく、簡単に操ることができるはずである。

最も、"ソレ"が寄生した宿主は生殖能力を失い、宿主は"ソレ"を育てる為に栄養を摂るだけの存在となる。

そして"ソレ"が宿主の中で十分に成長すると、役目を終えた宿主を操り水に飛び込ませる。そして、"ソレ"は宿主から抜け出しつがいを見つけ産卵する。

そう、"ソレ"は【ハリガネムシ】と呼ばれるただの寄生虫のはずだった。


しかし桐男に寄生した"ソレ"は、人体に寄生し操ることに成功したことにより、本来ではあり得ない進化をげようとしていた。

だが、突然のあり得ない進化に"ソレ"も戸惑い、初めて経験する宿主を支配する事に苦労をしていた。

『コノ ヤドヌシハ 【カマキリ】デハナイ?ワレハ【カマキリ】ニキセイシテイタ ハズダガ?マアヨイ イズレニセヨ サイゴニハ ミズニシズメルダケダ!!』とこの宿主の支配を強めるため、更に成長することにした。


その日、桐男は仕事場のホームセンターにある園芸コーナーの一角で呆然としていた。

「何故、殺虫剤がこんなに怖く感じる?」と自分の中から感じる恐怖感に戸惑う。

『コンナモノヲ ヒロメテハイケナイ!スベテ ハカイスルノダ!!』と自分の中で何かが叫ぶ。

辛うじて意識を保ちながら、自分は一体どうしたんだ?と思い悩む。

「きっと疲れが溜まっているんだな。明日病院に行ってみるか」とつぶやくが、次の瞬間には病院に行くことなど思いもしなくなっていた。

『ケンサナドサレタラ ワレガミツカルヤモシレヌ!カンゼンニ ヤドヌシヲ アヤツルマデハ ミツカルワケニイカヌ!!』


"ソレ"は桐男の脳にアクセスする事で知識を吸収し、ある程度まで行動を支配するまでに成長していた。

"ソレ"は桐男を通じて殺虫剤を見ながら、本能に迫り来る恐怖心に震えていた。

『サッチュウザイヲ スベテハカイセヨ!』と桐男を操ろうとするが、桐男の意識はまだ辛うじて保たれており、完全には操ることが出来なかった。


桐男はホームセンターの食堂で落ち着こうと、水道の蛇口を広げ水を口に含んだ。

『ナンダ コノマズイミズハ?シカモ コノミズハ ワレワレニハ ドクニナル!!』

慌てて口に含んだ水を吐き出した桐男を見て、同僚たちが心配そうに「鎌田さん、最近体調悪そうですね。目も充血してるし」と声をかけた。

「あぁ、大丈夫だから」と言葉を濁してその場を立ち去る桐男を見て、「鎌田さん雰囲気が変わったよね?優しい人だったのに、最近は目も真っ赤で何だか獰猛どうもうけものみたい」と同僚達がささやき合った。


自宅に帰りながら桐男は周りを見渡してみた。

『ナンダ コノセカイハ?クウキモミズモヨゴレ クサキモスクナイ!コノセカイヲ ジンルイカラ マモラナケレバ!!』と、自分の中から違う意識が流れ込む。

その意識は明確に桐男の心に刻み込まれていった。




その日は、朝から蒸し蒸しとした不快な日だった。

桐男が職場のホームセンターに着くと、品出しをしていた同僚が「鎌田さん、大丈夫ですか?」と声をかけ「顔色が真っ青で目が充血してますよ」と心配そうに桐男を見た。

『アア ダイジョウブダ!キョウハ ナンダカ チョウシガイイ!!』と桐男が、いや桐男の姿をした"ソレ"が応える。

最早、桐男の精神は完全に"ソレ"が支配していた。


「お大事になさってくださいね」と言いながら園芸コーナーで殺虫剤を補充する同僚を見て、『ソレヲ ナラベルナ!』と突然桐男(ソレ)が叫び声をあげ、陳列していた鎌を両手に持ち無茶苦茶に振り回し始めた。

その鎌が殺虫剤を並べていた同僚の背中を切り裂き、大量の血が流れ悲鳴が響き渡る。

騒ぎを聞きつけたホームセンターの職員が慌てて警察に連絡する。


「鎌田さん、落ち着いてください。一体どうしたんですか?」と同僚達が呼びかけるが、最早"ソレ"に完全に支配された桐男に声は届かなかった。

桐男ソレは園芸コーナーの殺虫剤や農薬を鎌で切り裂き『ワレラノ セカイヲマモル!セカイヲ ハカイスル ジンルイヲ ワレハユルサヌ!!』と叫びながら両手の鎌を振り回す。


やがて、何台ものパトカーがサイレンを鳴り響かせ、多数の警官が駆けつけた。

警官が桐男ソレを取り押さえようとするが、何かに操られるかの様な動きと、尋常ではないパワーで振り回す鎌により警官にも負傷者が増えてきた。

暴れまくり、民間人にも被害が及びかねない状況に、警察幹部は決断した。


「仕方ない。発砲を許可する」





その記者は名刺を差し出しながら蟷子と拝里に頭を下げた。後ろにはカメラを持ったカメラマンもいた。

「この度は取材を受け入れて頂きありがとうございます」とその記者が気遣いながら挨拶する。

「夫があの様な事件を起こした以上は、家族として出来る限りご説明と、被害者の方への謝罪は当然です」と気丈に蟷子が応えた。

「ただ、顔出しはご勘弁頂きたく、サングラスをさせていただきます」と蟷子と拝里が頭を下げた。

「どうぞ、お水しかございませんが…」と拝里が2人にコップに入った水を差し出した。

「では、桐男さんの事件についてですが…」と記者が質問を始めた。



「ご主人は、何か思想などがあった訳では無いのですね」と記者が問いかける。

「あの人はそんな大それたことを考える人ではありませんでした。行動も直情型で深く物事を考える事は無かったと思います」と蟷子が応える。

「そうそう」と拝里が続けて「考える役目はお母さんか私でした。何かするなら計画的に…っていつも言ってたのに」と呟く。

「そうなんですね」と応えながらコップの水を飲む記者とカメラマンを見る拝理の口元がかすかに上がった。



「今日はありがとうございました。お水美味しかったよ」と記者が挨拶すると、拝里が「この水は自分達で汲んできた天然水を少し加工しているの。その内に販売を始めるから、良ければ宣伝…シテネ!」と別れの挨拶をした。




「あんなに良い家族がいて、何であんな事件を起こしたのかな〜」と蟷子と拝里の取材を終えた記者がカメラマンに話しかけた。

それを聞いたカメラマンが「ああ、気が付いたか?あれから1週間が経つのに、あの2人未だに泣いているんだろうな。サングラスの横から見えた目が真っ赤だったからな〜」としみじみ言う。

すると記者が「何だ、お前ももらい泣きか?目が赤くなってるぞ」と揶揄からかうと「そう言うお前だって真っ赤じゃないか」とカメラマンが言い返した。

「そうだ。2人の為にも、あの水が売り出されたら大々的に宣伝しよう」と記者がつぶやき「そう言えばこの前飲料水メーカーの社長に名刺を…モラッタヨナ!!」と赤く充血した目がくらく光った。





歩き出した2人を照らす夕陽はその目のように…そして未来を予言するかのように、血のように赤く染まっていた。







       〜 initium finis 〜





ちなみに、ハリガネムシが人を操ることは無い…と言われていますが、果たして本当に無いのでしょうか?

最近貴方の周りで変なことが増えていませんか?

時々記憶が飛んでいることは…?


"ソレ"は貴方の知らない内に 知らない所で…




水とホラーで真っ先に思い付いたのがカマキリを操り溺死させるハリガネムシ。そこから、定番?の寄生物をハリガネムシを題材に書き始めましたが、『水のホラーになっているか?』といった内容になってしまいました。

猟奇的な食事シーンや日常の展開を広げたい思いもありましたが、年齢指定無しの短編にまとめるため端折っています。


拙文をお読み頂きありがとうございました。



※ initium finis:終わりの始まり  ラテン語



ー---


以下は、桐男と家族に症状が出るのに時間差があったのを補足した部分ですが、あまりにも説明しすぎてくどくなるのと、余韻を考えてボツにした部分です。

気になられた方は、ご参考まで



記者達を見送ると…

『ショセンハ セイチュウデ キセイシタ ハンパモノ!ヤクタタズダッタ!!』と蟷子の姿をした"ソレ"がつぶやく。

『ワレラノヨウニ ヤドヌシノナカデ ウマレタ エリートトハ クラベモノニハナラヌ!』と拝里の姿をした"ソレ"がうなずく。

『コトヲ オコスノハ ナカマヲ フヤシテカラダ!』と蟷子ソレが告げると『タマゴナラ イクラデモ…!マズハ ニヒキ!!』と拝里ソレが奥にある水槽を見つめて口元を緩めた。

『シゼンヲ コワス ジンルイナド イラヌ! コノセカイハ ワレラガシハイスル!!』と2人は真っ赤に充血した目を光らせ…不敵に笑い合った。




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