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水辺に住んでるスイコさん

作者: セロリ

こんな都市伝説があるのはご存知だろうか?

『午後5時55分、浦上池の水面を覗くと、池の中からスイコさんが現れて引きずり込まれてしまう。』

というものだ。

我が校に伝わる都市伝説の一つだ。


私、水守かなでは女子高生である。

そして、スイコさんは私の姉である。

私は妖怪ではない。

ただの女子高生で今年2年生の代だ。

ちなみにちくわとエビチリが好物。


姉は妖怪ではない。

ただの引きこもりニートである。

ちなみにたこ焼きとBLが好物だ。


姉は髪を切らない。

ハサミが怖いらしい。だから髪も伸びまくりで地面についている。とても汚い。

お風呂も嫌いというから本当に汚い。

だから、私が都市伝説を作った。

浦上池の近くに住んでいるからだ。

誰にも姉は見せたくない。

家に引きこもっているなら誰にも見られないでしょ?

と思ったそこのあなた。

姉はBL好きなので、毎日決まった時間に本屋に向かう。

新刊のチェックが欠かせないらしい。

それが午後5時55分だ。

正確には午後6時くらいかな。

でも、私は5が好きだし、午後5時55分の方がなんか都市伝説っぽいでしょ?


そんなわけで、私が作った都市伝説の話。

あ、そうそう、引きずり込まれてしまうって言うのは嘘じゃないよ?

本当に引きずり込んでしまったことがあるの。

本屋で声をかけられたんだってさ、

嬉しそうに言ってた。

世の中不思議なこともあるものね、なんて思ってたら友達になったって言うの。

本当、天と地がひっくり返った衝撃だったわ。

あんな姉とお友達なんてね。

驚きよ。

どんな話をしたのか聞いたら、BLの話で盛り上がったんだって。

相手の人はあまり読んだことなかったらしいんだけど、姉があまりに勧めるもんだから、入門編の何かを買ったらしいのね?

そしたらもうドップリよ。

見事BLの沼にハマっちゃったらしいわ。

だから、姉は引きずり込むの。

注意してね。

私は読まないわ。

姉が好きなものは嫌いなの。

でも勘違いしないでね?

姉のことは大好きよ。

ほら、野良犬とか野良猫とか、汚いけど可愛いじゃない?その感じ。

そういう好きよ。


姉はほとんど喋らない。

でもこの前『ぐふふ』と笑った時があったのよ。

たしかBLを読んでる時に笑ってたわ。

あまりに楽しそうに笑うものだから、気になって少し借りて読んでみたの。

全然笑えなかったわ。

私には合わなかっただけかしら?

この世の中には姉と同じようにBLを読んで『ぐふふ』と笑う人もいるのかな。

それなら是非姉と友達になってあげてね。

可哀想なんだもの。

それに私の前で『ぐふふ』されるのは気持ち悪いわ。

誰かの前でやってほしい。

だからお願いね?




私の名前はスイコといいます。

今巷で流行っている都市伝説の女、スイコです。

毎日引きこもって過ごしています。

1日に1度だけ外に出ます。

こんな生活がもう何年も続いています。


以前の私は活発的なほうでした。

休みの日には必ず出かけるし、仕事終わりにはよくカフェにも行っていました。

友達も多く、髪は短かったです。

好きなものはオムライスと読書です。

主にミステリを読んでいました。

今と全然違うとお思いでしょう?

そうです。

今と全然違う生き方をしていました。

何かに挫折したわけでも、失望したわけでもありません。

変えられてしまったんです。

都市伝説の女に。


ハサミが怖くなったのは、あの子が切りつけてきたから。

お風呂が嫌いなのは、あの子に溺死させられそうになったから。

外に出ないのは、あの子に鍵をかけられているから。


1日に1度だけ外に出してくれるようになったのは、近所の方の目を気にしているからかもしれませんし、ただの気まぐれなのかもしれません。

私は決まった時間に外に出されます。

本屋は人が少なく、唯一許可された場所でした。

もちろん、あの子の監視はついています。


私はある日、思いきって行動に移しました。

本屋に来ていたお客さんに声をかけて事情を説明し、助けを求めたんです。

初めは、驚いて声を上げられてしまったのでとても焦りました。

ずっと監視されているので、バレてしまったら何をされるか分かりません。

家に戻ったあと、私は、彼女とは友達になり、盛り上がって話をしただけだと説明しました。

すごく驚いていましたが、それだけでした。

心底安堵したのを覚えています。


彼女とは警察に連絡を入れてくれる約束をして別れました。

すぐに警察が来たら、助けてくれた彼女を逆恨みしてしまうかもしれないので、数日後に通報してくれるそうです。

嬉しくて仕方ありません。

たまに笑いが溢れてしまうほどに。

でもバレてはいけません。

笑いを必死に堪えても、こぼれてしまう。

『ぐふふ』と笑う私を、あの子は気味悪がっていましたね。

でもそんなことはどうでもいいのです。

だってもうすぐ助けが来るのだから。

何も知らないで、可哀想な子。



ピンポーン。

家のチャイムが鳴りました。

『あぁ、、、これでやっと解放される。』


私は希望に満ちた思いで扉に向かいました。



ピンポーン。

家のチャイムがなった。

『あぁ、、またか。』

また姉の妄想に乗せられたみたいね。

警察ってホント暇なのかしら?

他にやる事がないのよ、きっと。

以前にもあったわ。

『私は監禁されているんです!助けてください!』

って。

あの時も警察が来て、いろいろ大変だったわ。

あんな人を監禁して私になんの得があるのかしら?

自分は本当はこんな人間じゃないって、誰かの陰謀のせいだわって。

いい歳して情けない。

いい加減認めなさいよ。

あなたはただの都市伝説の女よ。


またいろいろ聞かれるんだわ。

本当面倒。


私は絶望に満ちた思いで扉に向かいました。



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― 新着の感想 ―
食い違う2人の「真実」。 「事実」に近いのは、果たしてどちらの「妄想」なのか…。怖いですね。
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