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第二話

 桜も散り始め段々と春らしさを通りすぎ、夏へ向かうように気温も高まっていく頃。


 世間では新学期や新生活といった新しい生活も始まり、多くの人が新しい環境へと順応しようと躍起になっている。


 そんな中、僕は今までとあまり変わらない生活を送っていた。


 学校生活ももう10年近くになる。


 今さら新学年になったところで生活に変化はない。中高一貫の5年目、高校2年生であればなおさらだ。

 周りの同級生とほどほどに付き合い、ほどほどな関係の友人を作り、多くを1人の時間にあてていた。


 別に人と付き合うのが嫌いなわけではない。

 友人と遊ぶことは楽しいし、何か大きな不満があるわけではない。

 学生の悩みとしてよくあげられる虐めがあるわけでもない。


 周りの人たちと自身の間にはズレのようなものがあるのではないかと感じていた。


  何故そんなものがあるのかは分からない。

 アイデンティティとなる自身の過去にも思い付くような綻びは思いつかない。


 しかし、心のどこかで決定的に自身がいる場所はここではないという直感めいたものが残り続けている。


 そんな感覚に苛まれながら、今日も僕は1人どこかで時間でも潰そうかと道を歩いていた。


「そんなこと思っても仕方ないんだけどなあ...とりあえず今日は図書館にでも行くか。新作入ってるかもしれないし。」


 これ以上中二病にかかり始めの子供じみた不安に浸っているのも心の健康に悪い。


 さっさと忘れて図書館への道を急ごうと歩みを進めると、突然周囲の鳥たちが騒ぎ始めた。

 何かにおびえるように大きな鳴き声を発して騒いでいる。そしてすぐにその場から飛び去って行った。


(いつものか...準備をしないとな。)


 そう思い、頭を鞄で覆った次の瞬間、全身をがくんと揺れが襲う。


 その揺れは周囲の電柱や塀を揺らすが、倒れるほどの勢いはない。

 しかし体の動きを止めさせるには十分な勢いがあった。


 揺れは一瞬で収まり、その後は小さな揺れが少し続いた後完全に収まる。


「最近の地震の回数やっぱりおかしいよなあ。こりゃ人工地震だとか言ってるやつらを笑えないかもしれないな...

 なんて、ンな訳はないだろうけど。」


 そう思い周りを見回すと、特に何かが落ちて壊れているような様子もない。


 道沿いの塀には補強工事が施されており、もはや地震があることを前提とした対策がなされていた。

 それほどまでに最近の地震の回数は多くなってきている。


 今はそんなことを気にしていても仕方がない、と僕は図書館へ向かう道を急いだ。図書館の席は意外と激戦区なものだからだ。当たり前のようになりつつある地震に構っているほどの余裕はない。

 歩く早さにかけては自信がある。ここで活かさずして何の足だ。


 そう思い一歩踏み出した時、ふと足元に違和感を覚えた。


 ぐずり、と何かを踏み潰したような感覚が足元から伝わってきた。 

 踏みしめた地面がなんだかやわらかい感触がしたからと気が付いたのはすぐのことだった。

 ここは舗装された一般道の上だ。コンクリートを流したてだったのならばまだしも、周りを見回してもそれらしき表示はされていない。

 そもそもそんな状態だったのならば足を踏み入れる前に何かしらの違和感を感じ取っているはずだろう。


 僕は視線を地面へと落とした。するとそこには思いもかけない光景が広がっていた。


 足が踝近くまでアスファルトの地面に突き刺さっていた。

 まるで熱したスプーンをアイスに突き刺しているかのように滑らかに足は地面に突き刺さり、動かしてみると田んぼの泥の中ように少し抵抗を感じさせるが、ゆっくりと動く。


「なんだこりゃあああ!アスファルトが解けてるだけじゃ説明つかねえぞ!!」


 思わずそう叫ぶがそんなことはお構いなしに事態は進行していく。


 先ほどまで踝ほどだった足は、脛を通り越してひざ下まで埋まり始めており、足を持ち上げようにも相当の力をこめないと動かせないようになっていた。


 このままではいずれ頭の先まで沈んでしまう。


 そんなことはさせるかと思いっきり足を上に引っ張り上げるが、どろどろとした感触が足にまとわりつくだけで一向に抜ける気配がない。


「いやいやいや、このままだと訳もわからず地面にめり込んで溺死ルート一直線じゃねえか!誰かー!引っ張り上げてくださーい!!助けてーー!!」


 そう叫んでみるが、一切人の気配はしない。

 左右の塀の中にあるアパートや一軒家に声は届いているはずだが、何も聞こえていないかのように静かだ。それどころか人の気配すらしない。こんな時間帯に住宅街に人が一切いないなんてことがあり得るのだろうか。

 そう考えている間にも体は沈んでゆき、ついには首元まで地面が迫っていた。


「嫌だ――――――!」


 そんな叫び声もむなしく僕の体は地面へと完全に飲み込まれていった。


 後に残るのは人通りのない住宅街の道路だけ。残されたものは何もなく、異変が起こる前と変わらない様相を呈していた。



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