いつか一人で歩く道
「あら?これお兄ちゃんお弁当。困ったわね」
おそうじちゅうのおかあさんがこまってる。
ぼくがとどけにいくっていうといっしょにいこうねっていうだろう。
(いそがしそうなおかあさんにかわってぼくがひとりでいってこよう!)
もうすぐようちえんってとこにかよう。
だからひとりでできるはず。
はりきってぼくはこっそりとじゅんびをはじめた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「んしょっと」
おにいちゃんのおべんとうとすいとうをリュックにいれてかつぐ。
ぼくのかたにかけたすいとうがブラブラとゆれる。
ぼうはんブザーもポケットにいれた。
「ちゅっぱーつ!」
ドキドキワクワクしながら、ぼくはげんかんからいっぽふみだす。
「あちょうちょしゃん」
ひらひらとまうちょうにすこしみとれる。
「にゃ~お」
「こんどはねこしゃん!にゃ~お」
ちょうがパタパタと飛んでいくと、こんどはねこがすがたをみせた。
へいからスタッとおりて、ねこはみちをあるいていく。
「ねこしゃんまってー」
「え!」
ねこをおいかけようとすると、だれかのおどろくこえがきこえた。
さがそうとするとねこはスタスタとおざかる。
「まってー」
ねこにみちびかれ、ぼくはポテポテとぼうけんにでかけた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ★
「ここどこー?」
ねこがへいをのぼってすがたをけすと、ぼくはまいごなことにきづく。
「みずでものんでおちゅつくのでつ!こういうときは!」
もってきたすいとうのストローにくちをつけ、ゴクゴクとおちゃをのむ。
「まるいのでつ!せかいは!あえるのでつ!あるけば!にーにに!」
ケホケホとむせたあと、ぼくはまたみちをあるきだす。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ★ ★
「むー」
みちをまがろうとしたらじてんしゃがとおせんぼしている。
「みゃがりたいのに……ここ。どうしようかにゃ」
かんがえていたらうしろからペットボトルがころがってきて、ぼくをおいこす。
「まってー」
ぼくはひろおうとペットボトルをおいかける。
コロコロコロ
てくてくてく
コロコロコロ
てくてくてく
コロコロコロ、コン
てってって、ぱし
へいにぶつかったペットボトルをぼくはひろう。
あたりをみわたすと、ぼくのみぎがわにはゴミおきばがあった。
『このゴミ置き場に背中を向けてまっすぐ行くと公園に出るんだ』
おにいちゃんのことばをおもいだす。
『公園のすぐ近くに僕の通う高校はあるんだよ』
まえにいっしょにこうえんにいったとき、おにいちゃんがおしえてくれた。
「ならまっつぐでつ!」
ごみおきばをみちしるべにぼくはひだりをむき、ビシッとひとさしゆびをさす。
そしてぼくはまえだけをみてあるきはじめた。
みちをすすんでいくとくだりざかがあり、そのさきにはのぼりざかがある。
『これはオバケ坂と言って、平坦な道が上り坂に見えるんだよ』
おにいちゃんのことばをしんじて、まっすぐまえだけをみてぼくはすすむ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ★ ★ ★
「こうえんだー」
おすなば、すべりだい、ぶらんこ、たのしそうなこえがきこえる。
「ようちえんにかようのでつ!ここであそぶのはそつぎょうしたのでつ!」
ウズウスとあそびたいこころをおさえ、てをグーにした。
べキッとおとがひびく。
「ペットボトルしゅててくりゅのでつ」
こうえんのなかをしばらくあるいて、じどうはんばいきをみつけた。
じどうはんばいきのとなりのペットボトルいればにキャップとわけていれる。
「どうしたんだい?一人かい?お父さんやお母さんは?」
おっきなひとがひざをまげてしせんをあわせ、ぼくにはなしかけてきた。
「ふゆ?」
「もし一人で来たならおうちはどこだい?送ってってあげるよ」
このおっきなひとはぼくをおうちにかえそうとしている。
「あお!おべんとう!ゴミばこ!」
ぼくはここにきたもくてきをはなした。
「空が青かったから公園にお弁当を食べに来てゴミ箱を探しているのかな?」
このひとはなにをいっているんだろう。
ぼくはおにいちゃんのあおいろのおべんとうばこをとどけにいく。
(そのとちゅうでペットボトルをひろったからゴミばこにきただけなのに……)
「とにかくお父さんかお母さん、もしくは一緒に来た人はいるかな?」
おっきなひとがまたぼくにきいてきた。
(どうしよう、またはなそうかな、ぼうはんブザーならそうかな)
いろんなかんがえがあたまのなかをグルグルまわる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ★ ★ ★ ★
「あ、いたいた。カズちゃん、ありがとう。ペットボトル捨ててくれたんだね」
「ねーね!」
うしろからかけられたこえにふりむくと、となりのいえのおねえちゃんがいた。
かけよってだきつくぼくをおねえちゃんはだっこしてせなかポンポンする。
「見た感じ中学生だね?学校は?」
「私の学校、今日は創立記念日なんです。はい」
おねえちゃんはカバンからちいさいほんをだし、おっきなひとにわたす。
ほんのうえにはスマホがあって、すこしきになった。
おっきなひともむねポケットからちいさなほんをだし、よみはじめる。
「確かにそうだね。生徒手帳ありがとう」
「巡回お疲れ様です」
「幼児を一人でいさせると危険だからね。なるべく一緒にいるんだよ」
おっきなひとはそういうと、どこかにあるいていった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ★ ★ ★ ★ ★
「もー、心配したよ。どうしたの?公園まで一人で来て」
おねえちゃんがぼくをだきなおし、はなしかけてきた。
「あお!おべんとう!にーに!」
「……お兄さんの青色のお弁当がどうしたの?」
「いく!おうち!ひとりで!」
「ああ。お兄さんが忘れていったお弁当を届けに一人でここまで来たのね」
「そう!」
りかいがはやくてたすかる。
おねえちゃんをそんけいのめでみあげているとあることにきづく。
「おんぶ!おんぶがいいの!」
「へ?おんぶ?」
おねえちゃんはぼくをいちどおろす。
そしてよいしょとせなかにのせてかつぐ。
「これでいいの?」
「うん!これで!」
だっこはまもられている。
だからおんぶにかえてもらった。
ぼくはおねえちゃんにおんぶされて、こうえんのでぐちにむかう。
「このじてんしゃ、さっき、みた」
「そ、そう?」
おねえちゃんはびっくりしたようすでなにかをかんがえだす。
「このあたりで自転車売ってるのは一ヶ所だけだから同じのは多いと思うよ」
(そっか。だからおかあさんがのってるのとおなじなんだね)
「それでどうする?高校までの道わかる?」
コクコクとくびをたてにふっているとおねえちゃんがぼくにきいてきた。
「そっか。なら乗ってく?それとも歩いてく?」
ぼくがくびをナナメにしているとおねえちゃんがしつもんをかえてききなおす。
「のりゅ!」
「前がいい?後ろがいい?」
「まえ!」
おねえちゃんはおんぶしていたぼくをじめんにおろす。
「ヘルメットひとりでできるかな?」
「できりゅもん!」
もたもたもた。
わたわたわた。
カポッシュッカチッ。
「できゅた!」
「一人でできたんだね。お姉ちゃん助かっちゃった。ありがとう」
ヘルメットをしたおねえちゃんにほめられ、ぼくはうれしくなってわらう。
おねえちゃんはぼくをだきかかえ、じてんしゃのまえにすわらせる。
「高校はすぐ近くだからね。行くよ」
ぼくとおねえちゃんをのせたふたりのりのじてんしゃはこうこうへとむかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ★ ★ ★ ★ ★ ★
「とうちゃーく。ここがお兄さんの通う高校だよ」
じてんしゃをとめ、ぼくをおろし、ヘルメットをはずしておねえちゃんはいう。
「えーっと職員室目指せばいいのかな?」
なにかつぶやいているおねえちゃんにぼくはヘルメットをはずしてわたす。
「ありがと」
おねえちゃんからのおれいにてれていると、だれかがこっちにはしってきた。
「シアちゃんにカズちゃん!どうしたんだい?高校まで来て」
「ニカイドウ先輩!お久しぶりです!」
はしってきたひととおねえちゃんはしたしそうにはなす。
「シアちゃんまた奇麗になったね。どう?今度一緒にお茶でも」
「お母さんから出された課題、やってくれるのなら」
「それはシアちゃんの課題だろ?俺がやるのはな」
「ならそのヒゲ剃ってください」
「これは俺のポリシーだからなあ」
はじめてみるおヒゲがこわくて、ぼくはおねえちゃんのうしろにかくれる。
「でしたらまた今度ということで」
「こいつは手厳しい。カズちゃんは俺のこと覚えてる?」
はなしをふられぼくはきおくのいとをたどってみた。
「こえ、きいた。どこかで」
「そうか!どこかで聞いた声か!それはお兄ちゃんの家に遊びに行った時だな」
ぼくのことばをつうやくしおヒゲのひとはうれしそうにぼくのあたまをなでる。
「俺の声を覚えていたお礼だ。そおれ」
おヒゲのひとはぼくをヒョイともちあげるとかたにのせた。
「これが肩車ってやつだ」
「おー」
きゅうにたかくなったしかいにぼくはかんどうする。
「ちょっとおろすぞ」
おヒゲのひとはかたぐるまからおんぶにぼくのいちをかえた。
「これが俺やお兄ちゃんの視界。いずれカズちゃんが見る視点だよ」
おヒゲのひとのかおがぼくのとなりにある。
(ぼくもいずれここからみるのかー)
キョロキョロとしゅういをみわたすとおねえちゃんがこまったかおをしていた。
☆ ☆ ☆ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
ピョンとおヒゲの人のせなかからおりておねえちゃんのまえにたつ。
「こまりゃせりゅ!ねーね!にゃりゃあいてににゃりゅぞ!ぼくが!」
おヒゲのひとはおヒゲにてをあててなにかをかんがえはじめた。
「なあシアちゃん。俺なんか困らせることした?」
「え?えーと……カズちゃん軽々持ち上げたことで困惑してました」
「それでか。子どもって重いからな。俺は妹いるから」
ぼくのずじょうでことばがとびかう。
「だい、じょーぶ?」
おねえちゃんのズボンをクイッとひっぱっておねえちゃんにきいてみた。
「大丈夫よ。ありがとね、カズちゃん」
おねえちゃんはぼくをまただきかかえる。
「こっちもお姉ちゃん困らせちゃってごめんなカズちゃん」
「先輩。今はごめんなさいをありがとうに変える時代ですよ」
おねえちゃんがおヒゲのひとにいう。
「ありがとうに変えるのならまずはごめんなさいの意味を知ってからだと思うぞ」
おヒゲのひとがおねえちゃんにいうと、おねえちゃんはなにかをかんがえこむ。
「それでカズちゃんはどうしてここに?」
「おべんとう!にーに!とどけに!」
「そっかお兄ちゃんが忘れたお弁当を届けに来たのか」
ことばをならびかえておヒゲのひとはぼくにはなす。
「よし、おねえちゃんを困らせたお詫びだ。お弁当は俺がお兄ちゃんに届けるよ」
「おヒゲ、ともだち?にーに」
「そうそう。俺はお兄ちゃんの友達だから安心してくれ」
ぼくはおヒゲのひとのことばをしんじ、リュックごとてわたした。
「よし。あとはやっとくよ。先生に見つかるとややこしくなるし」
「ありがとうございましす。ニカイドウ先輩」
「いいってことよ。次が体育でよかった」
「カズちゃん、一緒にバイバイしてお別れしよっか?」
「バイバイ?」
おねえちゃんはバイバイといって、おヒゲのひとにてをふる。
「バイ、バイ」
ぼくもまねててをふった。
「おう!バイバイ」
おヒゲのひともバイバイとてをふって、たてものにむかってはしっていく。
☆ ☆ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
「私たちもおうちに帰ろうか」
「うん!ぼくこんどはうしろ!」
ヘルメットをしたぼくをおねえちゃんはこうぶざせきにすわらせる。
じてんしゃはしゅっぱつし、ぼくはおねえちゃんのせなかをみつめていた。
(いつかおねえちゃんもおかあさんみたいになるのかな)
まえにいるおねえちゃんをみて、ぼくはぼんやりとそうかんじる。
「坂だからちょっと飛ばすね」
オバケざかにくると、ペダルをこぐおとにかすかにモーターのおとがまざる。
ふたりのりのじてんしゃはゆっくりといえじをたどっていった。
☆ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
おねえちゃんはぼくのいえのまえでじてんしゃをとめる。
「あとはやっとくからカズちゃんはお母さんに会ってきてね」
ぼくをじてんしゃからおろし、ヘルメットもはずしてくれた。
いわれるままにぼくはいえにかえり、おかあさんをさがす。
おかあさんとあうと、かなしげなおかあさんはぼくをやさしくだきしめた。
「ごめんなさい?ありがとう?」
おぼえたてのことばをみつけたおかあさんにいう。
「……そうね。心配かけてごめんなさい。抱きしめてくれてありがとう、よね」
じぶんにいいきかせるようにおかあさんはぼくにはなす。
「これだけは約束してね。出かけるときはお母さんに言うこと」
「うん。やくそきゅ……」
やくそくしたところできゅうにねむけがおそってきた。
おかあさんはぼくをりょうてでだきかかえベッドまではこぶ。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
「じてんちゃ、コロコロ、ペットボトル」
「道を曲がろうとしたら自転車があってペットボトルが転がってきたのよね」
よこになったぼくのおふとんをポンポンしながらおかあさんはいみをくみとる。
おかあさんはまるでそのばにいたようにぼくのいうことをりかいしてくれた。
(ひょっとしておかあさんはまほうつかいなのかな?)
トロンとしためでまわりをみてみる。
ちかくにはカバンとスマホがあるだけだった。
ポンポンとくりかえすリズムがここちよくて、ぼくをねむりへといざなう。
「とてもいい冒険をしてきたわね、カズちゃん」
「いっちょにいこうよこんどまーまも」
おかあさんとやくそくしてぼくはゆめのせかいにだびだっていった。
※シアちゃんはカズちゃんの少し後ろから見守ってました。
幼児のカズちゃんだけでは危険すぎますので。
一人称一視点の醍醐味ですね。