二人の真実
桜が目を開くと、そこはランズール領の外壁の外、フェイの《絶界》が発動する前にいた場所だった。
周りを見渡すと、フェイが離れたところにいて、自分との間に見覚えのある男がいた。
(あれって…?)
「屋台の人!?」
「お昼ぶりですね、桜さん。」
桜の脳内を疑問が埋め尽くす。
(なんであの人がこんなところに?ていうか口調違うんだけど、別人?でも本人だと思うし?そもそも名前教えたっけ?)
「取り込み中だったのだが?」
桜が絶賛混乱中の間、フェイは屋台の男に話しかける。こころなしか少しジト目のような気がする。
「申し訳ありません。」
リオンは、頭を下げて答える。
「しかし、フェイ様はあのお方を殺してはなりません。」
「…?何故だ。」
正直、フェイにはリオンが何を言っているか分からなかった。敵対したやつは殺すのがセオリーだ。特にこの女を野放しにしておくのは危険すぎる。
「それは…。」
ここで、最大の爆弾が落とされた。
「桜様は、フェイ様の妹様であるからです。」
「「…………………は?」」
あまりにも予想の斜め上を行く答えに、フェイと、混乱しながらも聞き耳を立てていた桜は思考停止に陥った。
◇ ◇ ◇
フェイ、桜、リオンはテーブルを囲って座っていた。
桜が口を開く。
「リオン…だっけ?」
「何でしょうか?」
「なんで屋台のおっさんが美少女メイドになってるのかとか、この部屋が何なのかとか、色々聞きたいことはあるけど何より…」
桜は一度深呼吸をして、フェイを指差し、リオンに尋ねる。
「この人が兄ってどういうことよ?」
「同感だ、たしかに俺には妹がいたことはある。だがそれは俺が誘拐される前の話だ。その後は一切連絡がついていない。仮にこいつが妹だとして、そもそもなんで『紅の悪魔』なんてやっている?」
「順番に説明しましょう。」
リオンは、虚空から紙の束を出す。
「桜様を調べるきっかけになったのは、今日の昼、桜様が屋台に訪れたときです。」
「そんなに早くから?」
リオンは桜に首肯する。
「そもそも私の目の前でゲルド・ランズール、貴族に喧嘩を売っていたではありませんか。その時点で科学サイドの人間ではないことは確かですよ。警戒するのは当然でございます。」
桜はこてんと首を傾げる。こいつはもしかして頭が弱いのだろうか?
リオンは話を続ける。
「あのあと、あなたについて調べてみたのですが、驚きました。まさか情報が殆ど出てこないとは思いませんでしたよ。」
「まあ、そこらへんは一応気をつけてたからね。」
自慢気に胸を張る桜にリオンはため息を吐く。機械のはずなのに、いちいち仕草が人臭い。
「でもそこからどうやって調べたの?実際八方塞がりだったんでしょ?」
「......異能力を遡ったのか。」
フェイが突然声を出す。
「正解です。」
「どゆこと?」
「これまで、あなたは様々な研究所を襲撃してきました。その中で、証拠を隠滅してきました。これは確実ですね?」
「だからそう言ったけど。」
「今回はその方法が駄目だったわけです。ここで質問ですが、桜さんはどうやって監視カメラや魔力警報の解除をしましたか?」
「そりゃあ私の能力で消し飛ばしたけど......それとなにか関係が?」
「異能力の痕跡ですよ。」
リオンは指を掲げて魔法を唱える。
「魔術発動・《雷弾》。」
小さな電気の球体がリオンの指の上でバチバチと音を立てながら浮かぶ。
「《解除》。」
今度は電気の球体を消滅させた。
リオンは説明を始める。
「今、私は魔術を発動し、解除しました。これにより、魔術の発動によって引き起こされた現象は解除により完全に消滅しました。しかし、魔術の発動、事象改変で消費された異能力素は『残骸』としてその場に残ります。本来、『残骸』は少し時間が経てば異能力素に戻ります。ですが、桜様の起源魔法には、異能力素の再生をも阻害する力があるようなのです。」
「結果、いつまでたっても消えない異能力素の残骸を辿ったというわけだな。」
「正解でございます。」
「まじかぁ〜。盲点だったなぁ〜。」
桜が自分の失態をぼやく。だが、いくら起源魔法が使えるとはいえ、根本的な知識がない桜にそこまで気をつけることは不可能なものだ。
「話を戻させていただきます。桜様の異能力をたどり、私はマスターとともに桜様について調べ上げました。そして、一つの場所に行き着きました。科学王国のアレス領です。」
「せいか〜い。そこで10年くらいママと暮らしてたよ。」
「アレス領の過去の記録を遡り、あなたの母親の名前がわかりました。天翔恵さんです。」
「母さんと同じ名前か…。」
「私も、フェイさんから母親の名前は聞いていましたからね。名字は違うとはいえ、流石に怪しいと思いました。そして、決め手になったのはアレスに引っ越してきた時期と、何処から引っ越してきたかという情報です。」
「「…………。」」
もうすでに、フェイと桜は、次の展開をだいたい予測できていた。
「小さな島国、ピースフォリア。フェイ様が生まれ育った国から、桜さんは大陸に来ています。ちょうど、フェイ様が誘拐され、イザード様が死んだ日の、わずか2日後に。」
「そうだったんだ…。」
「お前も知らなかったのか?」
「うん……。ママ、お兄ちゃんとお父さんの話ばっかりだったから、何処から来たとかほとんど話してなかった。」
「そうなのか…。」
「お父さんがどれだけかっこいいかとか、お兄ちゃんがどれだけ可愛いかとかいっぱい話してたんだ。」
「おおう…。」
そこまで話していて、逆にどうして他のことを聞いていなかったのか。フェイは少し引いていた。フェイの記憶の中では、母さんはそうやってのろけることは少なかった気がするのだが。
「コホン、話を戻します。」
リオンが咳払いする。
「偶然とするには、あまりにもできているとは思いませんか?同じ場所で生まれ、同じ名の親を持った者が存在することは。」
桜は息を呑む。フェイは相変わらず無表情だ。
「明確な証拠があるわけではありません。今話したことはすべて憶測に過ぎません。しかし、この『帝国の頭脳』によって造られた『電脳の支配者』が断定します。フェイ・ユランと天翔桜は兄弟であると。もし確証が欲しいなら、毛髪の遺伝情報を調べれば陽性と出るはずです。」
フェイは息を吐いて立ち上がる。
「リオンが断定するなら、きっとそうなのだろうな。」
「どこに行かれるのでしょうか?」
「まだ任務が終わってない。あと3時間は猶予がある。それに…」
フェイは桜を一瞥する。
「そいつ…いや、桜も感情の整理がいるだろう。」
桜は、席に座ったまま固まっていた。唐突な情報の嵐に、脳がストップしているようだ。
そのまま、扉から出て行ってしまった。
リオンは、未だ動かない桜を見つめる。
「無理もありませんね。」
機械人形であるリオンに、本来感情はないはずだった。しかし、もうすでに作られてから10年くらいの時間はたっている。すでに感情というものについては学んでいたし、似たようなものならリオンには宿っている。
まだ未熟で、人の情について解らないことばかりであるリオンでも、常識に照らし合わせて桜の思いは理解できる。
「自覚できるはずがありませんよね。自分が記憶にない人間の妹であるなんて。」




