二人の決着
桜に憑依して一体化した邪霊が先に動いた。
「《消えろ》ぉ!!」
邪霊の纏う兵器群から一気に紅いレーザーが発射される。
フェイは空高く飛び上がることですべて回避する。
黒い大地に炸裂した砲撃は、轟音を立てて巨大な穴を刻み込んだ。まるで空間に穴ができたようなあとを見てフェイは戦慄する。
(空間そのものの破壊?かなりまずいな…。)
恐らく防御ができなさそうなタイプの攻撃なので、いかにフェイといえども一発でも当たれば致命傷は免れないだろう。
「魔術多重発動・《天撃・連》!!」
「超能力発動《身体強化・10000倍》!!」
フェイの周囲と正面に10個の魔法陣が展開される。その全てから無数の魔力弾が解き放たれる。
対する邪霊はそのまま弾幕の中を突っ込んでくる。驚くことに、フェイの魔力弾から一切のダメージを受けていないようである。どうやら、体にまとった破壊のエネルギーで打ち消しているようだ。
「アハハハッ!!」
「チッ!!」
二人の剣が一瞬交錯する。しかし、有利な高所を陣取っていたにもかかわらず、フェイは更に空高く打ち上げられた。
まだ吹き飛ばされたことですぐに追撃が来ないだけマシだが、今の感触から、このままでは死ぬとフェイの経験から推測する。
「本気で行くか…。」
小さく呟いたあと、フェイは空中で飛行魔術で体勢を立て直す。
「魔術多重発動・《天撃・水爆》《天撃・炎爆》!!」
「きゃっ!!」
フェイの放った水と炎が邪霊の目の前で衝突し、凄まじい爆発を起こしたあと、高密度の水蒸気を撒き散らす。
桜は思わず目をかばう。そして、閉ざされた視界の中で、聴覚に集中して、更に上空から声を認識する。
「世界はどうしようもないほど理不尽で溢れている。
体を粉々に砕かれるような痛みも、
心を蝕む絶望も、
忘れられないほど此の身に刻まれた。
それでも俺は止まらない。
どうしても果たしたい約束がある。
どうしても叶えたい願いがある。
だから俺は戦い続ける。
どのような苦しみも悲しみも、
この俺を止めることはできない。
覚悟はもう昔に決めた。
あとはただ、この想いを、生き様を、貫き通すだけだ。
《覚醒する意志》。」
『概念の起動を確認。システムへの接続を開始、完了。
「意志」の概念を発動します。』
まばゆい輝きとともに視界が晴れる。
上を見上げると、何かがいた。
人間の言葉、いや、神の言葉ですら到底説明できないであろう美しいオーラを纏い、二本の剣を両手に提げ、黄金の輪を頭の上に浮かべ、彼は地に立つ邪霊を睥睨する。
呆然とする邪霊に宣言する。
「もののついでだ、桜を助けさせてもらう。
死ね、ゴミ。」
「っ!!ナメるなぁぁ」
その言葉に我に返った邪霊はフェイに肉薄し、ダインスレーヴを振り下ろす。
しかし、その攻撃は空中に現れた小さい障壁に、実に呆気なく防がれた。
「軽いな。」
「アアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
そこから桜は連撃を開始する。しかしそれも無造作に防がれる。そして…
「ルルカノン流異能剣術・霊魂の型《双月・魂撃》、
ルルカノン流体術・霊魂の型《地獄落とし・魂撃》」
大ぶりの一撃で隙を晒した邪霊に、素早い二刀流からの二連撃、そしておまけと言わんばかりの踵落としがクリーンヒットする。
地面に叩き落された邪霊は、想像以上の激痛に思わず戸惑う。思わず自分の体を確認するも、外傷はなかった。
「驚いたか?魂に直接ダメージを与える技だ。」
いつの間にかフェイが頭上に立っていた。
剣を逆手に持ち心臓の位置に狙いをつけている。
次に何をされるかは明確だった。
「待っ!!」
「終わりだ。」
無慈悲な刃は振り下ろされた。
剣が胸、いや、魂そのものに刺さったことを本能で感じた邪霊は、途方も無い激痛の嵐に飲み込まれる。
(アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!イダッ、イダイ、シニタクナ、キエル、ナグナル!!アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!)
そして、桜に取り付いていた悪霊は、跡形もなく消滅した。
◇ ◇ ◇
フェイは、倒れた桜に今度は近づかないでおいた。そもそも兵器群が纏っているノイズはまだ消えていないし、確実に生きている。まぁ、そもそも霊魂の型は物質でないもののみに影響を与える技ではあるし、基本的に人を殺せないので当然である。最大出力ではなってもせいぜい廃人化するだけだが、桜に憑いていた邪霊が身代わりになったことで、結果的に魂も無事だろう。
少し待つと、桜が立ち上がる。
「何のつもりだ?」
驚くことに、まだ桜はこちらに銃を向けてくる。邪霊も消滅した以上、増幅した悪意もある程度収まっているはずだが、まだ戦意があるようだ。
桜が、まるでこちらの思考を読んだかのように答える。
「あたりまえでしょ?どんだけこっちが人を恨んでると思ってんのよ。居候がいなくなったからといって何も変わらないわ。だからさっさと再開しましょ、ぶっ殺してあげる。」
そう述べた桜の瞳には途方も無い憎悪と怒りが渦巻いていた。なぜだろうか?邪霊がいなくなって、彼女の悪意が更に深く、昏くなった気がする。
「ならば殺すまでだ。」
フェイには再生能力が、桜には頭のおかしいほどのタフネスがある。
チマチマやっていたらいつまで時間がかかるか分からない。故に…
「「一撃で終わらせる。」」
二人は、どこまでも異能力を高め始める。
世界を形作る概念と概念のぶつかり合い。際限なく高まる力に、フェイの作った世界がひび割れ、崩壊してゆく。
消えゆく世界で、二人は構える。
そして、お互いの最強の攻撃が放たれる……その寸前。
「神術発動《空震》」
世界が完全に崩壊した。




