二人の戦争
「昼ぶりだな、天翔桜。」
フェイから少し離れたところで顔を伏せて止まった桜の表情はこちらから見えない。しかし、何処か様子がおかしいのは理解できた。
「どうした?体調が悪い……ッ!!」
フェイは素早く体をそらした。その顔の横を、銃弾が通り過ぎ、後ろの外壁にクレーターを作る。
みると、桜がフェイに拳銃を向けていた。
フェイは、変わらない無表情で桜を非難する。
「唐突に殺意高すぎないか?」
「…殺す。」
「は?」
「殺し尽くしてやる......!魔術発動・《展開》!」
桜の周囲に無数の魔法陣が現れる。その全てから武装が出てきて、桜に装着されていく。
「これは…。」
フェイは感嘆の声を漏らす。それも無理はなかった。
今の桜には、小柄な体を包み込むようにして無数の銃器が取り付けられていた。それはまるで巨大な翼を思わせるようなシルエットだった。
「光と闇よ、世界を統べよ。神術展開・《絶界:光と闇の世界》。」
フェイは、すぐに神術を展開する。すると、周囲の景色が塗り替えられていく。
変化が収まると、そこは不思議な空間だった。
地平線が何処までも続いている。半透明な地面が広がるだけで、他にはなにもないただ灰色の世界が永遠と目に映る。
ー 神術《絶界》 ー
神々の中でメジャーな術。主に強すぎる力を遠慮なく振るうために、現世とは別の次元に対象を自分とともに閉じ込める異能である。この異次元の中に存在するものは術を使うものによって変化する。
要するに、本気を出す時に周囲に被害を出さないための処置である。フェイたちの中でもメジャーな神術で、全員重宝している。
更に、フェイは両手を左右に広げる。すると、魔法陣が左右に展開され、二本の直剣がフェイの手に収まる。そして、握った剣を構えると、フェイから紅い魔力の光が立ち上る。無属性魔術の《身体強化》だ。効果はその名の通り、身体能力のブーストである。
「フェイ・ユラン、戦闘を開始する。」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
フェイの宣言と、桜の絶叫によって、戦いの火蓋は切られた。
◇ ◇ ◇
先に仕掛けたのは桜だった。
巨大な兵装のガトリング砲を乱射する。
フェイはそれらを一瞥すると、「フン」と鼻で笑う。そして、最小限の動きでそれを回避し、剣で捌く。昼間も黒服相手に見た銃弾がフェイを避けているように見える回避行動だ。
(やっぱり強い…まさか重機関銃4門の掃射を捌ききるなんて。)
正直予想しなかったといえば嘘だが、いくらなんでも化け物すぎやしないかと思う。因みに、桜も同じことができないことはないので、完全に自分のことを棚に上げた状態である。
このままでは埒が明かないので、一気に弾幕を増やしていく。超電磁砲、小型ミサイル、ライフル弾が数え切れないほどフェイに襲いかかる。
流石に避けきれないと判断したのか、フェイは次の手札を切った。
「《天撃・盾》。」
フェイの正面に半透明な壁が作られる。その壁は桜の攻撃をすべて受け止めてしまった。更に、放ったミサイルがすべて爆発したせいで、周りが殆ど見えない。桜はこれ以上無駄だと判断して、索敵に集中するため一度銃撃をやめる。
感覚を集中させて周囲を探ると、一つ反応があった。その反応の場所は…
「上ッ!」
フェイの右手の剣が真上から振り下ろされる。その刃を桜は背中から生えた銃器の一つで受け止める。結果、銃身に傷が多少ついたものの、目立った被害はない。
しかし、フェイは、まだ攻撃を終わらせていない。
フェイが今度は、左手の剣を掲げる。そして、魔力をまとって紅に輝く剣を銃身にいまだ触れていたもう片方の剣に叩きつける。
ルルカノン流異能剣術《破砕刃》
両手にそれぞれ持つ二本の剣のうちの片方を相手に振り下ろした後、更にもう片方の剣で上から叩きつけると同時に、無属性魔術《魔力衝撃》で衝撃を直接相手に打ち込む技だ。
衝撃を受けた銃身は呆気なく切断され、桜の肩口に浅い傷をつけた。
「ぐぁっ!!」
桜は一気に飛び退る。しかし、フェイの方もそう素直に距離を取らせるわけもなく…
「逃さんっ!」
ルルカノン流異能剣術《疾風斬り》
風をまとい速度を上げた状態で突進し相手を切りつける技。高速の剣閃が桜に命中する。
そのまま桜を追って更に連撃を繰り出す。桜は周りの兵器でなんとか防ぐが、いくつかの攻撃は防御網を掻い潜り、桜にさらなるダメージを与える。
「クソがっ!!」
「チッ!!」
なんとか距離を取ろうと、ミサイルポッドのミサイルをすべて至近距離で発射させる。
この攻撃にはフェイも対処せざるを得ず、ロングコートを焦がしながらもほぼ無傷で回避する。
ようやくフェイと距離を取ることに成功した桜はフェイの方を見る。そちらはちょうどわずかに焼けた肌とロングコートが再生しているところだった。
「ちょっと、魔道具はずるくない?」
フェイは鼻で笑った。
「これは戦争だ。卑怯もクソもないだろう。」
「何者なのよあんたは、その肉体の再生は超能力でしょ?科学王国の人間がなんで魔道具を持ってんのよ。それとも逆?魔術王国の人間が超能力使ってんの?」
「何者でもいいだろう。俺が何処の誰かはお前の知る必要のないことだ。」
そして、フェイは剣を構え直す。一方桜は、兵器をすべてアイテムボックスにしまってしまった。
「どうした?投降するのか?」
「まさか。魔術発動・《展開》!!」
桜が、虚空から一振りの片手剣と、一丁の拳銃を取り出した。そして…
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「!?」
一気にフェイに接近し、思い切り剣を振るった。
「ぐぁっ!」
想定外の攻撃の重さに、フェイが吹き飛ばされる。
フェイが地面を転がりながらなんとか受け身を取るが、体制を立て直したときにはすでに桜が目の前にいた。
「まだまだァァ!!」
「チッ!」
今度は衝撃をなんとか逃せた。一度距離を取る桜を尻目に、手を見る。途方も無い攻撃の重さと衝撃でかすかに痙攣していた。
「化け物かよ。」
「紅の悪魔だからね!もっと行くよ!!」
桜は、もう一度接近し、連撃を繰り出す。一発一発が致命傷になりかねない重い攻撃だ。
対するフェイは、そのすべてを力を受け流すようにしていなす。
(もう対応されてる…今は反撃する余裕はないみたいだけど…形勢逆転は時間の問題になっちゃう!!早く決着をつけないと!!)
しかし、その決意も虚しく、次のフェイの言霊で、すべて無駄になってしまった。
「闇よ、喰らい尽くせ。」
「きゃぁぁぁぁ!!」
地面に闇が広がる。その闇から無数の黒い槍が生えてきて桜を串刺しにして、地面に縫い止める。
「光よ、照らせ。」
「アアアアアアアアア!!」
こんどは空から光の砲撃が降り注ぎ、動けない桜を容赦なく撃ち抜く。
桜は必死に抵抗するが、ほとんど意味をなしていない。
激痛が絶え間なく襲い、だんだん朦朧としてくる意識の中で、桜は思う。
(嫌だ、負けたくない。嫌だ、死にたくない。この恨みも、怨念も、何一つ晴れてない。)
(殺さないといけない。滅ぼさないとといけない。まだ終われない。)
(マダシネナイ)
桜の意識は、そこで途絶えた。
◇ ◇ ◇
(死んだか?)
フェイは安堵していた。まさか《絶界》の本領の一つを発揮しないといけなくなるとは思わなかった。
《絶界》には個人差がある。発動して作られる世界は、その人の本質や司る概念に大きく依存するし、どのような機能が付随するかは千差万別だ。
フェイの《絶界》は天が光、地底が闇の世界を作り出し、その光と闇を完全にコントロールする能力だ。
あのクソ野郎がどこから見ているかわからない以上、あまり使いたくなかったのだが。
(まあまあ強かった。)
とはいえ、あそこまでしてなお、まだ本気まで程遠かったのだが。
フェイは、無惨な姿で転がる桜に近づい…
「アハッ!!」
「!!」
一気に飛び退った。
見ると、桜はノイズをまとっていた。まるで、桜本体が世界に存在する何らかのバグかのように。
でも、何よりの変化はその顔だっただろう。その顔に浮かぶ笑顔は、悪意に満ちていた。
「邪霊か。」
「アハハハッ!!そうだよぉ〜〜。この小娘の悪意が美味しいから乗っ取ってるんだぁ。」
《邪霊》
それは人の負の感情を糧にして生きる怪物。場合によって知性ある存在に取り付き、そのまま支配し続け、悪意を増幅させ、喰らう存在である。
(この少女に憑いていたとはな。)
「面倒だな。」
「美味しいご飯をくれるこの小娘をころさせないよぉ?だから死んでね?」
足元の剣を拾い上げると、桜、いや邪霊が詠唱を始める。
「人は愚かだ。
ずっと争いを続けている。
人は残酷だ。
己の欲望のためならなんだってする。
私は嫌いだ。
ゴミみたいな人間しかいない世界が、クソッタレみたいな世界を作った神が。
だから、壊そう。
私の大切なものを奪った人も、理不尽な世界も、性悪な神も、みんなまとめて…
壊し尽くそう。
起源魔法展開・《虚無の破壊神》。」
『概念の起動を確認。システムとの接続を開始、完了。
「破壊」の概念が発動します。』
唱えるは桜の心の絶叫。世界への恨みと呪詛。その正体は…
「起源魔法だと!?」
本来、起源魔法とは『超越』というプロセスを経たもののみが使える異能だ。発現条件は未だにわかっておらず、未だ神々の間で研究されている代物だ。
(俺たち以外に使えるやつがいるだと!?)
一体この娘が何者であるかは皆目検討もつかないが、場合によってはいよいよ本気で当たらないとフェイでも死にかねない。
桜が起源魔法・《虚無の破壊神》を発動すると、変化はすぐに現れた。
桜の体のノイズが一層ひどくなり、武器の色が変わっていく。
片手剣「ダインスレーヴ」と拳銃「デスブロッサム」はまるで血液に濡れた紅へと塗り替えられる。更に、先程仕舞われた兵器も紅い光をまとって今一度、小さな体に接続される
「サァはじめよぉー?コロしてあ・げ・る♡」
邪霊が構えるのを見て、フェイも構えを取った。




