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ニュー・デイブレイク  作者: 榊原葵
5/10

二人の食事

(なんで今誘ったんだろ......。)


フェイと少女は広場近くのファミレスに来ていた。


正直言って、別に隣の少年に嫌悪感を抱いているわけではない。だが、これまで桜は初対面の人間を食事に誘ったことはなかった(そもそも人とあんまり関わってこなかったので)。今回も、別に能動的(のうどうてき)に誘ったわけではなかった。唐突に口が動いて、気づいたらもうすでに提案をしていた。


フェイは物珍しそうに周囲を見回す。


「こういうところに来るのは初めてだな。」


「へ〜。まぁでもわかるかも。」


「どういうことだ?」


「だって絶対..........名前何?」


フェイは、聞かれて初めてまだ名乗り合っていないことを思い出す。


「フェイだ。フェイ・ユラン。」


「桜よ、天翔桜。よろしくね〜。」


「こちらこそ。」


軽い自己紹介のあと、少女こと桜は話を戻す。


「どこまで話したっけ?…そうそう、だって雰囲気的に人と馴れ合わない人で、外食もほとんどしないでしょ。」


「別に友人ぐらいならわりといるぞ。まぁ外食にはほとんど行かないが。飯はほとんど友人が作っている。」


フェイはジャンヌたちの手作り料理を思い出す。


ちなみに、フェイが好きなジャンヌのご飯は唐揚げである。


「へぇ〜、羨ましいな〜。私料理できないしいつも冷たい保存食だよ。」


「店で食ったりしないのか?」


「いやぁ〜私は街にいる時間より外にいるほうが長いからね。」


「旅でもしているのか?」


「まあね〜。そっちはどう?」


「近くに友人がいてな、そいつを訪ねてこっちに来た。」


(戦時中に一人旅だと?この年齢とさっき見たレベルの超能力ならもうすでに徴兵がかかっているはず。もし無視しているのなら王国法的に犯罪だぞ。ワケアリか?)


ストローを咥えてメロンフロートをチューチュー吸う桜を見てフェイは疑問に思う。


一方で、ミートドリアを食べるフェイを見て桜は疑問に思う。


(この人こそ何してるんだろ。多分この人魔術師だよね。科学王国で何してるの?スパイ?それになんか見覚えある気がするんだけど、どっかで会ったことあったけ?)


桜の方も、フェイがただ友に合うために来訪した旅行者ではないと察していた。このご時世なら誰もが護身用に持っている光剣も銃器も持っていない。ただ服の下に隠しているだけかもしれないが、そもそもやましいことがなければ隠す必要がない。なにせほとんどの人が見えるところに持ってる。


((怪しい……。))


そして不審者同士の食事会は、双方有力な情報を手に入れることのできないまま続くのであった。


◇ ◇ ◇


不毛な腹の探り合いを終え、桜と別れたフェイは、先程の広場に戻ってきていた。


もうすでに今朝の騒動の跡はなく、元の賑やかな様子に戻っていた。


(しかし流石(さすが)は戦場と人の生活圏を繋ぐ中継都市(ちゅうけいとし)だな、かなり豊かだ。まあ、技術の発展のおかげで数百年前の戦争のように物資が枯渇せず潤沢(じゅんたく)なおかげでもあるのだろうな。)


フェイは過去に読んだ歴史書の内容を思い出す。科学にせよ魔術にせよ、技術は偉大だ、人は飢えることを知らなくなり、より大きな挑戦ができるようになった。


(戦争をして殺し合っている限り大した意味はないのだろうが。くだらん。)


フェイはフンと鼻を鳴らすと、コロッケを揚げるいい匂いが漂う屋台に向かう。


(今朝ぶりだな、リオン。)


似合わないエプロンを身につけるダンディな男がこちらを向く。


(今朝ぶりでございます、フェイ様。)


無表情を顔に貼り付けて、抑揚のないロボットのような声で答える。相変わらず「マスター」の前以外では無表情のようだ。


勘の良いものは気づいているかもしれないが、この男の名前が今朝同じテーブルを囲んだメイド少女「リオン」と同じ名前であるのは決して偶然ではない。


この目の前の男(女?)はアンドロイド、現代最高の人工知能「リオンtype-0(ゼロ)」によって操られる人形で、世界各地にばらまかれている数多くの分体のうちの一体である。


因みに、今朝のメイドリオン(リオンtype-Ω(オメガ))は一番本体に近い分体で、大好きなマスター・イアンのために健気に頑張る個体である(一番強い)。


(例のものを。)


フェイが代金を渡すと、リオンがコロッケと手渡すのと同時に小さなカードを渡してくる。


(変なところでアナログなのだな。)


(これなら情報を抜かれる心配ないので。)


(なるほど。)


必要なものを受け取ったフェイは、長居して怪しまれないようにその場を離れようとする。


(フェイ様。)


(なんだ?)


(もう一つ報告したいことが。)


(聞こう。)


リオンは話し始める。


(今朝、妙な少女がいました。赤髪の少女ですが、かなりの手練と見受けます。ですが、これまで調べた者たちの中で情報が一致する者はいませんでした。何者かわからない以上、警戒は必要かと。)


(その女はさっき見た。おそらく超能力者としてのランクは最低でもSはある。最悪俺たちレベルの実力は覚悟するべきだろうな。)


(それは大丈夫なのですか?アイク様を援軍として呼んだほうがいいのでは?)


(いや、多分あいつは来ない。何せあいつが俺一人で十分だと判断したからな。『黄昏の道化師』の勘だ。少なくとも俺が再起不能という事態にはならないだろう。)


(なら問題はありません。ご武運を。)


(了解。)


フェイはリオンと別れ、路地裏へと戻っていく。十中八九、今夜あの桜とか言う女と戦うことになる。先に装備の確認と休息を取ろう。


◇ ◇ ◇


時はすでに一時をまわっていた。フェイはランズールの外壁にもたれかかり、空を見上げていた。


(星が見えないな。きれいな空も楽しめなくなったのも文明が進んだ影響か。)


昔、アルアリア帝国ができる前、フェイが滞在していたところはもっと星がよく見えた。もっとも、その頃は自然を楽しむような心の余裕はなかったのだが。


フェイが楽しく、辛かった記憶に思いを馳せてたそがれていると、手首に振動が伝わってくる。


空を見上げたまま、魔力を使ってスマートウォッチの通話モードを開く。すると、頭の中に慌てた声が響く。


『ふぇ、フェイさん!!』


フェイは、唐突に脳内に響き渡った轟音に思わず顔をしかめる。


「ッ!!何だ、イアンか?どうしたこんな唐突(とうとつ)に。ビビったぞ。」


『ごごごごごめんなさい!ああああああああの!!』


真夜中に電話をかけたのは美少女風少年のイアンだったようだ。


「落ち着け、何かあったのか?」


『すぅ〜はぁ〜。』


イアンは深呼吸で気を落ち着けているようだ。


「落ち着いたか?」


『はい。』


「聞かせろ、何があった、みんなは大丈夫か。」


『こちらは何も問題はありません。しかし、フェイさんのみた赤髪の少女について時間遡行システムを使用して調べていたところ、すごいことがわかりました。』


「なんだ?」


『それは…。』


ここでフェイは、近づいてくる人影を見つけた。


「すまん、切るぞ。」


『ちょっとフェイさん!?重要なことです!!聞いてください!!』


「後にしろ。」


『まッ!!』


フェイは通話を切った。


そして、目の前の少女に話しかける。


◇ ◇ ◇


アルアリア帝国の一室。壁際にはコンピューターなどの機材が所狭しと並び、中央に巨大な樹木を思わせるコンピューター『リオンtype-0(ゼロ)』が立っている部屋、通称『オペレータールーム』で、少女にしか見えない少年、イアン・ルーカスは『リオンtype-0(ゼロ)』の前で頭を抱えていた。


「まずいですまずいですまずいです!!」


イアンはきれいな青い髪を掻きむしりながら必死に考え込んでいた。


「フェイさんに桜さんを殺させてはいけないです!!でも通話を切ったってことはもうすぐ戦い始めるってことですよね!?早くなんとかしないと!!でも...そうだ!!リオンさん!!」


『何でしょうか?』


イアンの頭の中に声が響く。答えたのは、『リオンtype-0(ゼロ)』だった。


「至急、ランズールにいるリオンさんに連絡を、早くフェイさんのところに向かわせてください!!伝令をフェイさんに伝えて!!」


『了解いたしました、マイ・マスター。』


リオンは、その伝令の内容を完全に理解していた。故に、わざわざ確認するという無駄な行為を省く。今はその時間すら惜しい。


イアンは、祈るようにして両手を組んでいた。


「どうか間に合ってください。あの二人は戦っちゃだめです。あの二人は…。」


◇ ◇ ◇


桜は、フェイと別れた後、今朝キャンプをしていた地点に戻ってきていた。


時はすでに深夜。桜は最後の装備点検を行っていた。


「デスブロッサム…デビルウイング…ダインスレーヴ…全て良し!!魔術発動(マギ・アクティベート)・《収納》!!」


先程まで手に取っていた装備をすべて片付ける。ふと、昼間にあった謎の少年を思い出した。


(多分あの人まだ街にいるよね。じゃあ戦闘になるのかな?)


桜はため息を吐いた。


「嫌だな。」


そこで桜ははっとする。


(いま私なんて言った?)


桜は邪念を振り払うようにして頭を振る。


(こんな考えはだめ。人間は皆殺しにするの。どうせみんな屑だから殺したほうがいいの。そう、これは単に強そうだったからめんどくさいだけ。でも大丈夫、私は強い、本気を出せば誰にも負けない。)


頭の中に浮かんできたあの顔に銃弾を撃ち込むところを想像する。しかし、その顔はすぐまた浮かんできた。


桜は頭を掻きむしる。


「あの人とは絶対どこかで会ったことがある。でも誰か思い出せない…。でも…、大事だった気がする。」


(さくら!!)


ふと、何処か幼い響きのある声が頭の中に響く。


「ッ!!」


わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない。


(もういい。)


「アハッ!!」


桜は顔を上げる。その表情は不気味な笑顔に変貌していた。しかし、その瞳は一切の光をともしていなかった。


「こんなもの、いらない。全部消えてしまえばいい。私には、必要ない。」
















「コロシテヤル」











斯くして悪魔は解き放たれた。その影は瞬く間に加速し、真っ直ぐにランズールを目指す。


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