二人の出会い
〜商業都市ランズール9:30AM〜
少女は、ランズールの高さ20mを超える外壁を街道沿いで見ていた。エピスティニィの街ならどこにでもあるものではあるが、個人的にはなんとなく気に入っている。特に理由などない。
壁の外見をのんびり楽しんでいると、不審に思ったのか、街の出入り口の門を管理している警備員に声をかけられる。
「おい貴様、何をしている。こっちも暇じゃないんだ。入るならさっさと入れ。」
初っ端から随分と刺々しい態度を取ってくる。
少女はため息を吐く。
「ごめんごめん......ほい。」
少女は自身が科学帝国の一員であると証明する身分証明書(別の町で違法に作った)を門番に渡す。門番はそれを腰につけた機械でスキャンすると、少女に返す。
「さっさと通れ。」
「ありがと。」
本当にイライラする。後で覚えてろ。ぜってーころしてやる。
少女はそう思うも、決して顔には出さない。そのまま門を通って街の中に入る。
科学王国において、都市の中のデザインはどの都市も一貫していて、機能美に全振りしている。だから見た目に華やかさも派手さも一切ない。そもそも戦時中に観光しに来る人なんていないので、わざわざそうである必要もない。往来には武装した人が行き来している。
少女は街を歩き、時には魔術をも使って周囲の警備を暴くいていく。といっても、都市ごとに大して違うわけでもなく、だいたい同じセキュリティシステムをつかっている。これまでいくつかの都市を潰した少女にとってほとんど必要ないものであった。
少女はあくびをしながら街を歩いていると、ふと美味しそうな匂いを感じ取った。
そちらに歩いていくと開けた広場になっていて、屋台市場を見つけた。
途端に少女のお腹がなり始める。そもそも朝食をカロリーメイトだけで済ませていたので、当たり前だ。
少女は適当な屋台に寄る。そこの屋台主は、コロッケを揚げていた。
「いらっしゃい嬢ちゃん!!」
「コロッケ1つちょーだい。」
「あいよ!!もうちょっとで揚がるから待っといてくれ。」
少女は広場真ん中の噴水を見つめながらコッロケの完成を待っていると、ふと店主が聞いてくる。
「そういや嬢ちゃん一人で来たのかい?」
「......そうだけど。」
少女は少し店主から距離を離す。
そんな少女を見て店主は慌てたように手をふる。
「いやいや別に嬢ちゃんに何かするつもりはないぞ!!ただ…。」
店主は周囲を一瞬見渡すと、少女に囁く。
(この街はな、ほぼ領主の独裁状態になってるんだよ。見えるだろ、あちこちに立ってる領主の私兵が。ここの政治は殆ど国から干渉されてないんだよ。)
(それっていいの?)
(良くはないんだろうさ、けどここのの領主はな、戦争を終わらせうる技術開発の研究をやってるみたいでな、国からもかなり大目に見てもらってるんだとよ。)
(へ〜。)
(嬢ちゃんみたいなよそ者は格好のカモだ、向こうは証拠も隠滅し放題だからな。いざというときはいつでも逃げられるようにしとけよ?)
そうこう話してるうちにコロッケが完成する。
「ほらよ嬢ちゃん、特製コロッケだ。」
「いろいろありがと。感謝するわ。」
少女は片手でコロッケにかじりつきながら手をふる。
店主は、少女が歩き去ると、小さくつぶやく。
「……あの少女は油断できませんね。確かフェイ様の次の任務の場所はここでしたか?一応報告しますか。」
一瞬だけ先程とはまるで違う雰囲気を放った店主だったが、周囲の人間が気づく前にはすでにもとに戻っていた。
◇ ◇ ◇
少女は噴水に座りながらコロッケを食べていた。
(衣がサクサクで美味し〜。)
嬉しそうに食べ進める少女に近づく影があった。
「おいそこの貴様!!」
(じゃがいももホクホク♪)
「聞いているのか!!」
(ソースもいいアクセントになってるぅ〜。)
「ふざけているのか!!」
(あ〜あ、食べ終わっちゃった。)
「おい!!」
(なんか別のもの買おっと。)
「テメェ!!」
「(ボソッ)さっきからうるさいなぁ。」
少女は先程から食事の邪魔をしている騒音の方を見る。
そこには豚がいた。
まず視界に入ったのが大きな腹だ。肉塊には短い足と手がついていて上にブッサイクな顔が乗っていた。鼻がフラットで豚っぽさに拍車をかける。
「ああかわいそうに……。」
「今度はあの子か……。」
周囲の人間も、いつの間にか遠くに離れていて、ボソボソと互いに話している。
「???」
「人の話を聞けと親に教わらなかったのか!?」
「えっと......知らない人とは話すなといわれてるので......さよなら。」
少女が(表面上は)申し訳なさそうにして立ち去ろうとするのを、豚の取り巻きの黒服たちが取り囲む。
「ちょっと何?早く行きたいんですけど?」
「俺が誰かわからないだと???」
「え???逆になんで知ってると思ったの???」
このセリフには周囲から遠巻きに眺めていた人たちも絶句していた。
「はあァァァァァァァァァ!?」
豚の絶叫が響き渡る。
「え?え?」
少女はひたすら頭の上に疑問符を浮かべていた。
「私達って初対面だよね?別に知ってなくてもむしろ当たり前だと思うんだけど?」
そう、別に初対面なのだからこの豚がよっぽどな有名人でもない限り知らなくて当たり前なのだ。この豚が有名人でなかったのなら。
豚が顔を真っ赤にして怒鳴る
「馬鹿な貴様に教えてやる!!俺の名はゲルド・ランズール、この街の時期領主だ!!」
少女はぽんと手のひらに拳を打ち付ける。
「ああ!!ごめんごめん、つい今日この街に来たばかりだったから。」
「テメェ!!」
「今度は何??」
せっかく謝ったのにこの豚は何が不満なんだろう?
少女は首をかしげる。
「俺のほうが身分上だろうが!!敬語使え!!敬語!!」
「ふーん。」
少女はつまらなさそうに髪の毛をいじっている。
「テメェ!!」
少女はため息を吐く。そして…
「はぁ〜〜〜。だいたいさぁ〜。」
口が不気味な笑みの形に裂け、おぞましい量の殺気が放たれる。
「いつから君のほうが身分が上だと思ったの?」
「お前…まさか俺より上だというのか?!」
「まあ嘘だけど。」
「おい!!」
豚がもはやこれ以上ないくらいにブチギレている。
「もういい!!お前らこいつを捕まえろ!!」
黒服たちが一斉に身構える。こちらの方はまだ冷静だった。さっき見たこの少女の殺気は一朝一夕で身につくようなものではなかった。少なくとも簡単に行く相手ではないことを彼らの本能が告げていた。
「こないの??それなら…」
少女の口がもう一度裂ける。
「わたしがさきにいくよ??」
少女は、黒服たちへと踏み込もうと…
「邪魔だ。」
「ファ!!!!」
盛大にずっこけた。
「いったぁ…。」
出鼻をくじかれた少女にもう一度声がかかる。
「邪魔だ。」
少女は恨めしそうに上を見上げる。
そこにいたのは黒髪の、どこか違和感を感じる少年だった。
黒いロングコートに手を突っ込んで無表情で立っていた少年は、上から少女を見下ろして繰り返す。
「邪魔だ。」
何故かは分からない。しかし、その声はどこか聞き覚えがあるような、その顔はどこかで見たことがあるような気がした。
◇ ◇ ◇
フェイは空を一直線に飛んでいた。
そろそろ科学帝国の領海に入るところでスマートウォッチの画面の操作をする。すると、フェイの周囲がかすかにジジッと音を立てる。
これはイアンが開発したスマートウォッチの機能の一つ、ジャマー機能である。カメラやセンサーなどから一切感知されなくなるすぐれものである。更に、他の人から認知されにくくなる効果もある。まぁ、こちらはほとんど気休めみたいなものであるし、一度認知されたらほぼ無意味ではあるのだが。
影の薄くなったフェイは科学帝国の領海に突入する。そのまま目的地...商業都市ランズールへと直行した。
◇ ◇ ◇
フェイは上空からランズール領を見下ろす。
ジャマーのおかげでセンサーに認知されないフェイはそのまま塀を越えて人気のない路地裏に着地する。
「さて、アイツを探すか。」
科学帝国と魔術王国のすべての街にはそれぞれアルアリア帝国の間諜が潜り込んでいる。これからその間諜に情報を貰いに行く。
(まぁ、探すと言っても居場所はすでに本人から聞いている。本当はその時に情報をもらっても良かったが、アイツは、というより本体は特に大忙しだからな、仕方がない。)
フェイは路地裏をスマートウォッチのマップ機能に従い、どんどん突き進んでいく。
5分ほどして、間諜が働いている広場に辿り着く。そこでは何やら揉めているようだ。沢山の人が遠巻きに見つめていた。
「いつから君のほうが身分が上だと思ったの?」
「お前…まさか!!」
「まあ嘘だけど。」
「おい!!」
(…………あの女アホなのか?)
貴族に真正面からバカにするやつは珍しい、アルアリア帝国以外の人間ならなおさらだ。今どきの大陸の国では貴族を極端に恐れるか、極端に崇拝する者しかいない。どちらにせよあんなに貴族とコントを繰り広げるようなことをする人は、正気を失っていない限りありえない。
そこでふとフェイは気付いた。
(この女、かなり強いぞ。体感にもブレがないのに加えて能素の漏れを全く感じない。)
本来、あらゆる生物は異能力を使うためのエネルギーを持っている。そして生きている限りはそのうちの僅かは体から周囲に漏れ出るものだ。しかし彼女にはそれがない。これは彼女が一切の能素を無駄に垂れ流さず体内に溜めているという事だ。これはかなり能力に対する理解と練度がなければできないことだ。
「もういい!!お前らこいつを捕まえろ!!」
ふむ、豚はともかく他はかなりできるな、あの女の戦闘力を警戒して様子を見ている。おそらくだが彼らにも彼女の異常性が分かるようだ。
「こないの??それなら…」
「わたしがさきにいくよ??」
そろそろ介入したほうがいいだろう。あの女が負けるとは思えないし、目立つのは得策ではないが、下手に騒ぎが大きくなって警備が強化されると面倒だ。
「邪魔だ。」
「ファ!!!!」
少女が思い切り躓いた。そのまま強かに打ち付けた頭を抑えながら悶絶する。
「邪魔だ。」
少女が一瞬こちらを呆けたように見つめたあと、頭を向けて恨めしそうにこちらを見てくる。
「邪魔だ。」
「急に何すんのよ!」
フェイはため息を吐く。
「公共の場で喧嘩するな、邪魔だ。」
「ウッ。」
マナーに欠ける自覚はあったのか。少しだけうろたえている。
「テメェ!」
今度はうるさい豚が吠え始める。いい加減少し黙るべきだと思う。
「何しやがる!!」
「貴様には何もしていないだろう。」
「邪魔するなよ!!」
豚が犬のように吠えている。豚なのに。
「邪魔なのはお前らだろうが。明らかに迷惑だぞ。」
「俺が俺の街で何をしようが俺の自由だろう!!」
「貴様の街?」
フェイが豚に聞くと、豚が得意げに話す。
「そうだ!!俺はこの街の次期領主なんだよ!!だからな!!この街に住む人間も!!金も!!全部俺のものなんだよ!!」
なんだろうこのアホな生き物は。そのうち暗殺でもされそうだな。もう色々めんどくさくなってきた。
「ハァ。」
「アァ!?」
「うるさいから怒鳴るな。早死するぞ。」
ブチッ。
何かが切れる音がした。
「そぉ〜かそぉ〜か。」
豚はあまりにもキレすぎたせいで一周回って冷静になったらしい。豚は傍の黒服に号令をかける。
「この二人を捕まえろ。屋敷で俺の恐ろしさを教えてやる。」
黒服たちが拳を鳴らしながらこちらに向かってくる。
「悪いな兄ちゃん。こっちも仕事だ、大人しく捕まってくれ。」
「ハァ。」
なんでこうなったのだろう。………………………俺のせいか。
とりあえず先頭の黒服に拳を叩き込む。
「ゴブァ!!」
5m位吹っ飛んだ黒服はそのままピクピクとしたまま立ち上がらなかった。どうやら一撃で伸びたらしい。
「やりやがったな!!」
残りの三人が一斉に懐から拳銃を抜いて発砲する。あくまでこちらを殺さないつもりか、すべて急所を外すようにしている。
「甘い。」
体をひねるだけですべて回避する。
「なっ!!」
黒服たちは更に撃ち続ける。弾切れを起こしてはリロードし、フェイを狙って撃ちまくる。しかし、フェイはただ避け続ける。あまりに自然なその動きは、まるで銃弾がすべて彼を避けているかのようである。
やがて、黒服たちはすべての弾丸を撃ち尽くした。
「なんで当たらないんだ…‥……。」
「もう終わりか…………。それならこちらも行かせてもらう。」
敵の黒服は残り4人。一気に踏み込んで黒服Aの腹に手を添える。
「シッ!!」
「がはっ!!」
花音流体術『発勁』
細く息を吐くとともに体全体を使って対象に小さな動きで大きな衝撃を与える。
フェイの放った発勁で黒服はバランスを崩す。そのままフェイは正拳突きで黒服を弾き飛ばし、黒服は崩れ落ちる。
ここまでわずか約0.5秒。周りはとっさのことで反応できていない。
フェイは神速で黒服Bに接近すると、姿勢を低くしてくるりとからだを回転させながら足払いをかけ、そのまま逆の足で落ちてきた顔面を蹴りつける。
花音流体術『双輪脚』
すぐさま昏倒した黒服Bを片手で拾い上げると、黒服Cに投げつける。見事命中した人間魚雷は、当たった勢いそのままに黒服Cごと吹き飛んでしまった。
「これでも喰らいやがれ!!」
最後の黒服Dは他の味方がやられている間に最後の抵抗を試みる。
「超能力発動・『念動』!!」
フェイは、自身になにか不快なものがまとわりつく感覚を覚えた。うまく体が動かない。
「くらったな!!これでお前は終わりだ。」
たしか超能力・『念動』は割とメジャーな能力の一つで、能素を消費して物体をコントロールする超能力だったはず。数もかなり多いが、感覚からして(通常の人間の中で)中の上レベルの実力だろう。
しかし、面倒だ。素の身体能力では抜け出すのは骨が折れる。魔術を使ってもいいが、バレたら面倒だ。
「このまま全身の骨をへし折ってやる!」
体全体に負荷がかかるのを感じる。
どうしようか迷っていると、戦闘に介入する人がいた。
「私のこと忘れないでよ。」
黒服Dは殴られた衝撃で10メートルは吹き飛んで壁にぶち当たった……すごい音がしたのだが死んでないのだろうか。
黒服が意識を失うのと同時に、『念動』による拘束が解ける。
フェイは手首を回し、調子を確かめながら少女に話しかける。
「手助け感謝する。お前、強かったんだな。」
「それほどでも……ありますけど?」
少女はえっへんと胸を張る。悲しきかな、まな板が強調されただけだった。
「なにか変なこと考えてない?」
少女がじろりと睨んでくる。フェイは目をそらした。
「いや、なんのことだ?」
じぃ〜〜〜〜〜〜〜。
「で、こいつはどうする。」
フェイは豚を指さして話題の転換を図る。
豚は恐怖に顔を歪ませ、失禁しながらへたり込んでいた。
少女はちらりと豚を見ると、豚は「ヒッ!!」と悲鳴を上げた。
「もうめんどいから放置でいいんじゃない?この様子だともうなにかしようとは考えないだろうし、殺したら面倒そうだし。」
(できれば殺したいし、今は周囲も呆気にとられていて、殴った豚は怖がりすぎて誰も何もできてないけど、今殺人罪をやっちゃうと流石に誰かが捕まえようとしそうだし。)
「そうか、ならさっさと離れよう。」
ここで、無意識に桜の口が動いた。
「そーだ!お礼もしたいし、どっか食べに行かない?」
(あれ?いま私なんて言った?)
このまま別れると思っていたフェイは一瞬考える素振りを見せる。
(ここまで強いと、敵対した場合、作戦に支障が出かねない。ここは話にのって情報を集めるのが最善だ。)
「ああ。」




