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ニュー・デイブレイク  作者: 榊原葵
3/10

二人の出立

商業都市ランズール、科学王国エピスティニィに存在する都市の一つで、王国の都市同士をつなぐ中継地点を担っている。


そのランズールから5km離れた地点にぽつんとテントが一つ建っていた。


赤髪の少女がテントから出てきて、う〜んと伸びをする。


「ん〜、今日もいい天気ね。」


体格は少し小柄で、赤く長い髪が腰まで伸びている。赤いというよりも紅い瞳の目はパッチリとしていて、とてもかわいい。黄色のショートパンツと黒いパーカーを着ていて、どこかボーイッシュな印象を与えてくる。


「さ・て・と、魔術発動(マギ・アクティベート)魔術発動:《展開》。」


少女は伸びをやめると、虚空からスティック状のカロリーメイトを取り出す。そして箱と包装を開けて、中身を一本、口に咥える。


「今日はどんなニュースがあるのかな?魔術発動(マギ・アクティベート):《展開》」


今度はスマートフォンを虚空から取り出し、その端末を開いてネットニュースを閲覧する。


そこには、「紅の悪魔」という存在についての特集が組まれていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

《特集:紅の悪魔とは一体何者だ!?》


世界を騒がせる極悪人、通称「紅の悪魔」。その正体は未だ不明で、容姿すら定かではない。今回はそんな紅の悪魔について徹底的に掘り下げていこうと思う。


まずはすでに判明している事実からだ。一番最初に紅の悪魔が現れたのが五年前の10月5日、エピスティニィ帝国、アレス領の領都アレスであり、あの領都を消し飛ばした大爆発は「紅の悪魔」が起こしたものである。人によれば爆発はただの事故で、「紅の悪魔」による初の襲撃は一ヶ月後の11月8日のナーズ襲撃事件であるとの主張もあるが、状況証拠としてアレスの爆発とナーズで「紅の悪魔」が使用した異能が同種のものであることが挙げられているので、アレスの爆発は「紅の悪魔」が引き起こしたと見てほぼ間違いないだろう。


犯行の動機は一切不明で、ナーズ襲撃後も5年の間で王国内にある6つの研究機関と3つの都市が被害に見舞われている。興味深いのが被害に遭っているのは何も科学王国のみでなく、魔術王国内でも、同じように「紅の悪魔」の仕業と思われる事件が多発していることである。これにより「紅の悪魔」が敵国の資格である可能性も限りなく低いと思われる。(以下省略)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「私もずいぶん有名になったな〜。」


少女は記事を見て満足気につぶやく。


何を隠そう、この少女こそが「紅の悪魔」の正体である。


少女は最後のカロリーメイトを食べ終えると、包装をポイ捨てした。


※良い子はゴミはゴミ箱に捨てましょう。


「それじゃあ、そろそろ行こっかな?魔術多重発動マギ・マルチアクティベート・《収納》、《展開》」


少女が1つ目の言霊を唱えると建っていたテントが光の粒子となって消え、2つ目の言霊で外套が出現する。


少女はバサリと外套を羽織ると、3つ目の言霊を唱える。


超能力発動アルス・アクティベート・《身体強化:100倍》」


異能、この世界の人間なら誰もが使える奇跡。その淡い紅の輝きが少女を包む。


少女の姿はかき消え、あとに残ったのは、風に舞う土埃とカロリーメイトの包装だけだった。


◇ ◇ ◇


とある少女が野営をしていた場所から10万km以上は離れた島郡にはアルアリア帝国という国家が栄えていた。その国の城の一室で外見にそぐわない、それこそ少し広い家なら、どこにでもあるようなダイニングホールでは賑やかな朝食の時間が展開されていた。


『いただきま~す!』


机の上には所狭しと料理が置かれ、とても食欲をそそる香りが立っていた。


「おいし~んだよ!」


小さな幼女が手作りバターロールにかぶりつきながら、満面の笑みを浮かべている。


幼女の隣りに座っていた黒髪の少年、フェイ=ユランは幼女の顔についたパンくずを拭いながら、小言を言う。


「フローラ、あまり早く食べすぎるな。喉に詰めるぞ。」


「フローラは悪くないと思うんだよ。悪いのは美味しすぎるパンの方なんだよ!」


「はぁ〜。」


フローラ=ユランがキリッとした顔でパンを咥えながらのたまうと、少年はため息をつく。


「まあいいじゃないですかフェイ様、作った私としてもとても嬉しいですよ?」


光の当たった宝石、または太陽の光のような輝かしい笑顔の少女、ジャンヌ=セイクリスがフフッと笑いながら軽くフローラをフォローする。


「そうだぞフェイよ、ジャンヌの言うとおりであろう。微笑ましくて結構ではないか。そうカッカすることもあるまいて。」


「メイ、別にカッカしているわけではないのだが・・・。」


「そうかそうか、ならばよい!」


黒髪少年を挟んでフローラの逆側に座ってカラカラ笑うメイ=ユーディリアは、ベーコンにフォークを突き刺す。


一方、テーブルの向かい側では、


「なんだろうね、この疎外感というか、言葉にできない場違い感は。」


「そうですね、アイクさん。なにかとても気まずい気がします。」


死んだ目で目の前に展開される光景を見つめる銀髪に七色のメッシュが入った小柄な少年、アイク=アールヴァンテインと、隣に座る茶髪で中性的、というより女の子そのものの顔立ちの少年、イアン=ルーカスがボソボソとささやき合う。


居心地悪そうにもじもじするイアンは無性に恥ずかしい気持ちをごまかすため、目の前のスープをスプーンで(すく)って口に入れた。そして目を大きく見開き、自分の左側に座っていた少女に声をかける。


「このスープ、レオンさんが作ったんですか?」


「さすがです、マイ・マスター。その通りでございます。どこか至らない点でもありましたか?」


アメジスト色の瞳と髪の無表情な少女、リオンは無機質そうで、でも奥にわずかな不安を宿した目でウィリアムを見つめる。


「いいえ、とても美味しいですよ。」


「ありがとうございます。」


イアンがリオンの頭を撫でると、リオンは少しだけ照れたような仕草をする。


「ボクに仲間はいなかったようだね。」


もはや目からハイライトが完全に消え去り、死んだ魚からブラックホールへと進化(?)したアイクは、黙々とフォークを動かし始めた。


全員がご飯を食べ終わり、ジャンヌとリオンが片付けを終え、戻ってきたテーブルでは『第7689回目くらいアルアリア虚星級(ホロウスターズ)会議』が始まっていた。


フェイは全員が着席しているのを確認すると話し始める。


「さて、会議を始めようか。」


なお、今席についているのはフェイ、メイ、ジャンヌ、アイク、イアン、リオンの六人のみである。この場にいないフローラは今学校にいる。立派な小学三年生だ。


「情報局、報告はあるか?」


「いくつかございます。」


リオンが前に手をかざすと、青白いウィンドウ画面が現れる。そこを操作して一つの画面を皆の前に表示する。


「こちらをご覧ください。」


「超能力者強化システム…ですか。」


「これはなんなのだ?」


「それは僕が説明します。」


メイがリオンに質問すると代わりにイアンが答える。


「これは、今科学王国が開発しているもので、端的に言えば、超能力者の能力を、体内の能素(のうそ)、つまり超能力の発動に必要な燃料を無理やり活性化することにより、一時的に引き上げる事ができます。」


「なるほど、そのままだな。それで、副作用みたいなものはあるのかの?」


「ええ、このシステムの仕様上、魂への負担が大きいです。科学軍の実験ではすでにすべての被検体が魂のキャパオーバーによる五感、身体、及び記憶障害の他に、ひどいパターンだと廃人化してしまったパターンがあります。」


「それは………ひどいですね………。」


ジャンヌは、その恐ろしい効果と、それが分かっていてなお実験を続ける科学軍に半ば呆然としていた。


「ですがかなりの成果もあるようです。副作用が出る前の一部の初級能力者被検体は、一時的に中級、下手すると上級能力者に匹敵する能素を出したそうです。」


「単体でフル装備初級能力者の大隊一つ堕とせる力が手に入るのか。」


フェイは少し思案する。


「その力を我々が使うことは可能か?」


「・・・・え?」


「基本的に俺たちは神の超越に成功した存在だ。それに(ともな)ってある程度魂も強固なものにも育っている。その影響で魂の容量にはまだまだ余裕があって、正直かなり持て余している。このまま修練を続けてもキャパシティが埋まるまで数十年単位の時間が必要だ。それならいっそ道具に頼ってしまうのもありだと思うが。」


「たしかにそれなら………。リオンさん。」


「はい、計算を開始します。」


イアンとリオンはあらゆる可能性を瞬時に脳内でシュミレーションし試行錯誤を繰り返した上で答えを出す。


「「十分に可能です。」」


「加えて、増幅させるのは能素だけでなく、魔素(まそ)神素(しんそ)、その他異能力エネルギーも可能だと思います。どれも、元は同じ素子(そし)というエネルギー体ですから、超能力だけでなく、機器に少し手を加えれば、魔術や神術、もしかすると起源魔法に転用できる可能性は十分にあると思います。」


イアンがそう付け加えると、フェイは満足そうにうなずく。


「そうか、なら誰が出る?」


「それならフェイがいいと思うね。」


腕を組んで聞いていたアイクは提案する。


「なぜだ?これはどちらかといえば情報局の管轄(かんかつ)だと思うが。」


アルアリア帝国では、3つの組織が国を運営している。


フェイを局長として、国外で発生した問題(主に邪獣(じゃじゅう)など、神々の世界と呼ばれる場所からの依頼で、他国が直接関与しないもの)を解決する『軍事局』


ジャンヌを局長として、国防におけるすべてを担い、あらゆる脅威を排除し、国内の治安を守る『保安局』


そしてアイクを局長とする諜報、暗殺、破壊工作などを行い、秘密裏に敵国に侵入しその国の攻略の鍵を見つける『情報局』


この3つの組織が互いに支え合い、目的のために日々注力している。


今回の異能者強化システムの奪取は、どちらかといえばフェイの軍事局ではなく、アイクの情報局の管轄だ。それなのにアイクはフェイが行くべきだという。


「なに、ただの勘だよ。ついでに今日の深夜、ランズールの外壁に張り込んでみるといい。きっとこの任務は、フェイにとってとてつもなく重要なものになるよ。」


ニヤリと笑うアイクに、フェイはため息を吐く。


「了解した。貴様の勘はなんだかんだ言って当たることが多い。今回は俺が出る。」


そう言うと、フェイは席を立つ。ジャンヌ、フローラ、メイもフェイに追随するようにして立つ。


「支度をお手伝いしますね。」


「パパ、ばいばいするんだよ。」


「妾も見送らせてもらうぞ、フェイよ。」


そしてぞろぞろと部屋を出ていった。


◇ ◇ ◇


午前八時四十分、アルアリア帝国王城から一筋の光が飛び立った。その光が向かう先は商業都市ランズール。奇しくもそこは紅の悪魔も向かう場所。果たして、この結果がどのような事件をもたらすのか、それは神にも、運命にも分からないものだった。


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