ナベシマざまぁww
スッキリ!スッキリ!な今回!
「おい島田!さっさと歩け!」
島田…?
あっ僕のことか。数年振りに自分の本名を聞いたから忘れていた。
「あのーすみません。僕のことナベシマって呼んでもらっても良いですか?」
「お前の本名は“島田ナル”だろ。ふっ…お前が法廷で無罪を勝ち取ったらいくらでも呼んでやる」と刑務官は僕のことを睨みつけながら言った。くそ。低月給の国の犬が何を偉そうにしているんだ。
はぁークソ最悪だ。まさか日本の警察にも捕まるとは。それに1番最悪なのは僕がサンフランシスコ警察に身柄を拘束されている間にコレクションが回収されたことだ。
クソ。これじゃあジジィ共を脅す道具はもう残っていない。あぁ…だから僕は逮捕されたのか。クソったれ。
女達は保護されたし携帯も取り上げられた。
クソクソクソ。女の裸の動画が、ジジイ達のセックス動画さえあればいくらでも脅せるのに。くそ。
売春防止法違反。銃刀法違反。大麻所持。誘拐監禁。くそくそ。こんなんで執行猶予が取れるわけないじゃないか。
「くそ!」
「おい!言動に慎め!」
法廷に入り僕は弁護人席近くの長椅子に座らされた。検察官、弁護人がぞろぞろと入っていき人が増えていく。酸素が薄くなっていく。
僕は目をつぶった。何か違う他のことを考えよう。
あぁ…法廷に来るのは人生で2回目か。そうだ久保ヒカルの裁判だ。鮎川の嫁と娘をレイプして殺した男。僕の秘めた力を気づかせてくれた男。
そう考えると法廷も悪くないなと思ってしまう。
それに…久保ヒカルの裁判で鮎川に出会ったんだ。嫁と娘を殺されて復讐に燃える男。ははは彼が復讐に失敗して泣き叫ぶ姿が見たかったなぁ。もう死んじゃったかな鮎川。
はは…想像したら勃ってきた。これをオカズに人生やっていけそうだ。僕はそう考えながら裁判が始まるまでの時間を潰そうとしていた。
その時だった。
「やったじゃんイダ。席ガラガラだよ」
「ふっ…こんな干からびた男の裁判見たってつまらないもんな」
なっ…その声は…振り向こうと思っても振り向けない。全身が硬直している。額からは汗が流れ落ちる。
俺が1番聞きたくない声。会いたくない声。
まさかだ…まさか…?
冬梅桜と鮎川右京…。
「よぉナベシマ…あ、ナルくんか❤︎」
冬梅桜の、女にしては低い声が耳に響く。
クソ。僕の顔面も計画も滅茶苦茶にした女が…調子乗りやがって。クソ肉便器め。それに…それに…なんでお前もいるんだよ。鮎川右京!
久保ヒカルは出所したんだろう。ヒットマン達が先に殺したのか…?いや自衛隊上がりのお前がそんなヘマはしないだろう。愛する嫁と娘を殺された復讐は必ずやり遂げるだろう。
僕のゲームは…計画は上手く行かなかったのか?
まさか…冬梅桜が止めたのか。あの化け物女!
なんで!なんでだよ!くそ!くそ!
「くそ!」
思わず声に出してしまい刑務官に再び怒られた。僕は恐怖のあまり後ろを振り向けなかった。身体が拒否していた。
冬梅桜の姿を再び見ることを身体が脳が心が全てが拒否している。これは…洗脳なのか…。
あぁもうどうでも良い。後ろを振り返らずいつものナベシマを見せつけて裁判は終わらせよう。
どうせ僕は実刑だ。そうなったら暫くこいつらと会うこともない。
早く時間が過ぎ…
「あぁ良かった。こっちですよ!久保さん!」
冬梅桜からその名前を聞いて僕の身体は反射的に後ろを向いてしまった。
久保…久保…久保ヒカルだ。俺の目の前にいるのは久保ヒカルで間違いなかった。8年振りの再会だった。端正な顔立ちにほうれい線の皺は年不相応に刻まれていた。
いや…違う。そこじゃない。どうしてお前が。
「なんで鮎川といるんだよ!!!」俺はついに叫んでしまった。
鮎川は手を組み足を組み、僕の方を見てニヤリと笑った。
そして刑務官が必死に僕の肩を押さえ座らせた。それから僕が傍聴席側を振り向こうとすると刑務官が制止した。
全身から汗が止まらなかった。法廷は冷房が効きすぎている。どんどん悪寒が激しくなっていく。
「お待たせしました久保さん、それに日高検事も」と黒瀬の声。
「姉様…マシロ静かにできるでしょうか」と殺人マニアの声。
「ふぅ…ちょっと判事くるの遅くない?」と瀬戸夏美の声。
「全く俺たちお巡りさんは忙しいんだよ。早く始まれよ」と刑事達の声。
不愉快な声がどんどん耳元に溜まっていく。
この声にトドメを刺したのは
「ヒカル…もう大丈夫だよ」
と言ったあの女の声だった。
刑務官の制止を振り払って、俺は再び傍聴席を振り返った。
間違いない。あの女だ。
久保ヒカルの彼女。名前すら忘れたあの女。
久保ヒカルの心が壊れる原因となった、レイプされた女。僕がレイプした女。柔軟剤くさい便器女。
女は久保ヒカルの手を強く握りしめていた。
なんでだよ。なんでお前ら揃いも揃って楽しそうに元通りになっているんだよ。
自分には人を陥れる才能があると思っていた。自分が囁けば誰でも思い通りに操れると思っていた。違うのか。違っていたのか。僕のさ、才能は…。
その時、冬梅桜は立ち上がった。
そして「お前は何も持ってないんだよ島田ナルくん❤︎」と冬梅桜が両手をあげてニッコリと不敵に笑った。
あの日、銃で両手に穴を空けられても笑っていた冬梅桜の顔がフラッシュバックした。僕はその笑顔を見て自我を保つことがもう出来なくなっていた。
「ああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
と雄叫びを上げ僕の意識は遥か遠くに飛んでいった。
もうすぐ終わってしまう。後3話かな。