猛獣退治④ー場数慣れした女ー
マシロちゃん大活躍回
「一緒にコイツを殺そうよ。冬梅。」と鮎川は久保ヒカルを見つめながら言った。
私はいつも見てきたイダの笑顔に気が引っ張られそうになった。それでも私はすぐに立ち直った。マシロが隣にいるのが大きかった。
「ダメです。私は鮎川を止めてイダと一緒に帰ります」
左手のアイスピックを鮎川右京に向かって真っ直ぐ突き立てた。
さっき吹き飛ばされたマシロも立ち上がり、バットを両手に構えた。
そんな様子の私たちに「来い。」と鮎川右京は無表情で言った。その顔に少し胸が苦しくなった。
開始の合図はマシロちゃんの吐いた“フッ”という息。それが聞こえた瞬間3者が一斉に飛びかかった。
まず最初に仕掛けたのはマシロだった。左手の木製バットを鮎川に向かってぶん投げた。鮎川はそれを躱そうと重心を右に移動した。
その瞬間マシロは足につけたサイバイバルナイフを取り出し、鮎川の目を狙って襲いかかった。本気で殺りにきてる。
「流石だよマシロ」と鮎川は言って、ナイフを持ったマシロの左手を掴もうとした。マシロも私も佐々木さんの折られた肘を思い出した。
そしてマシロは左手を鮎川に捕まれた瞬間、右手に持っていた金属バットで自分の左手もろとも殴った。
マシロのバットは鮎川の小指にも当たったようだ。恐らく突き指程度だ。マシロちゃんの左手はもう使えない…。
私は鮎川が小指に気を取られた瞬間を見落とさなかった。右手の物干し竿で鮎川の金的を突き、アイスピックで鮎川の左目を刺そうとした。
「チッ」外した。鮎川の白い頬からまっすぐ赤い線が引かれ血が垂れてきた。
「一回、距離を取れマシロ!!」
「はい!!」
鮎川はマシロに殴られた小指と、私に斬られた頬をゆっくりさすった。
「うん上出来だよ。俺が教えただけある。男と戦う時は目と金的だ。あとは少しの自己犠牲だな」
「イイダ様、質問なんですが、ここでマシロ達を殺すおつもりなんですか?」とマシロちゃんは聞いた。
「あぁ」
「未練は?」
「ないな。イダは死んだんだ。それに俺は罪悪感など感じる前にお前たちと久保ヒカルを殺したら自害する。」
「あら皆で仲良くご臨終エンドですね」とマシロちゃんはニッコリ笑った。流石、暗殺部隊としてイダに育てられだけある。場数が違う。
「じゃあ、どうして最初から拳銃を使わないんですか?」
「お前らに拳銃を使うまでもない。」
「そんなこと言って殺すのが怖いんでしょ。ヒットマン達も誰1人殺せてないじゃないですか?」
「マシロちゃん…?」
どうしてこのタイミングで鮎川のことを煽るの?今この人を刺激するのは逆効果じゃ…。
「試してみるか?」と言って鮎川は胸元から拳銃を取り出し、マシロに向かって突きつけた。
「マシロちゃん!!」
「わぁ〜イダ様に銃を向けてもらえるなんて最高ですね」とマシロちゃんは、手に持っていたバットを地面に置き一歩ずつ鮎川のもとに近づいて行った。
そして鮎川の銃はマシロのおでこにピッタリとくっついた。
「マシロ…撃つぞ?」
鮎川は顔色一つ変えずに言った。
「ええお願いします!」
鮎川が引き金を引こうとした瞬間、パンと音が鳴った。
それと同時に「ぎゃああああああ!!!」という声が聞こえた。この声の主は久保ヒカルだった。久保ヒカルの足からは血が出ていた。
「あらぁイイダ様が撃たないから、マシロが先に引き金を引いてしまいました。」と言ってマシロちゃんは右手で銃をクルクル回した。
「いつ銃を?」
「さっき!チンピラから強奪です!」と言いながら体勢を変えて、サバイバルナイフを鮎川の左肩に向かって刺そうとした。
「ううっ!!!」
だが、鮎川の方が一歩動くのが早かった。マシロは鮎川に首を掴まれ空中に上げられた。
「お前!!俺のものに何をしている!!!!」
鮎川は声を荒げた。
「あはっ…はっ…はっ….ひゅ….」
マシロは苦しそうに足をバタバタとさせていた。両手で鮎川の手を掴み、拘束を解こうしたかが不可能だった。
「俺がコイツを殺すんだ!!手を出すんじゃねぇよ!!!」
声を荒げるイダを初めて見た。私は怖くて動けなかった。でも、今下手に刺激したらマシロちゃんが危ない。
「イダやめてよ!!!」と私は叫んだ。
「コイツは俺がじっくり… !じっくり殺さなきゃいけないのに!!!何をお前は!!」と言ってマシロの首根っこを掴んで、思いっきり地面に叩きつけた。
マシロちゃんはピクリとも動かなかった。
「マシロちゃん…?」
私はマシロちゃんの元に駆け寄り、容態を確認した。よし生きてる。大丈夫。かろうじてだけど。
「マシロちゃん頼むよ」と言って私はゆっくり立ち上がり、真っ直ぐ鮎川の方を見た。鮎川の目は血走り、息は荒かった。腕や頭などの肌が露出している部分は血管が浮き出ていた。
もうあの日のイダの姿はどこにも無かった。
目の前の猛獣は今にでも私を殺そうとしている。
私はそんな猛獣に笑顔で言った。
「イダ…もう大丈夫だよ。」
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