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猛獣退治①ー肩慣らしー

 「おいヤバイな。これ撤退するか?」


 「馬鹿。こんな賞金目の前にして逃げられるかよ」


 「でもヤベーだろ。あの男。もう50人くらい倒してるぞ」


「大丈夫だ。あいつも人間。スタミナが切れた時を狙えば殺れる。」


「にしても北海道クソ寒いな。雪もやばいし」


「あぁ、耳のあたりキンキンになってもう感覚ねぇよな?」


「もっと防寒しとけば良かったよ」



パァン!!


「はぁーまた銃声。お前も銃で戦うのか?」



「…」


「おい…返事しろ….や」


「はーいマシロでーす!!」


「ぐはッ!!」







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 マシロちゃんと佐々木刑事が先頭になって、倉庫周辺にいる男達を襲った。


 まずマシロが当たりをつけずに視界に入ったヒットマン達をバットで殴り倒す。


 そのおこぼれを佐々木刑事が警棒、もしくは得意の柔道で倒す。


 私はそんな2人のサポート係だった。


 マシロや佐々木刑事の相手が2人に増えたら、私が入る。持っているアルミの物干し竿を大振に振り回し、相手が距離を作ろうと軸脚を後ろに下げた瞬間を狙ってマシロと佐々木刑事がやる。


 この動きがルーティーン化した。事前に打ち合わせはしていないが、やっていく中で出来上がった。実戦ってそんなもんだ。


 そして、私でも補え切れない時は瀬戸夏美が後方からゴム弾入りライフルで狙撃した。痛いところに手が届くような瀬戸夏美の射撃は惚れ惚れするものだった。


「マシロ今何人やった!?」

 

「30…40くらいです!!」


「冬梅さん後20くらいです!」


「よし!いくぞ!!」


 私たち3人はどんどん倉庫の入り口付近に近づいて行った。


 雪国出身のヒットマンが少なかったのか。アイスバーン化した道や、雪でボコボコになった道に皆慣れていないようだった。


 恐らく関東育ちの佐々木さんも、ナベシマとやった時よりもどこかキレがない。雪に慣れていないのか。あまり本調子じゃないのか。


 それに比べて私とマシロちゃんは体がよく動いた。


 足元がツルツルの氷の時は助走に使い、フカフカの雪の時はしっかりと踏み込んで雪を押し固めた上で動いた。


 冷たく凍りつく空気を肺に入れ、そして脳を身体を動かした。この札幌で育った私とマシロにはこの土地は有利だった。



 19..17…15…ヒットマン達はどんどん倒れていく。



いける。


会える。鮎川に。いやイダに。




 「ねぇ冬梅」




「“会ってどうするの?”」


「“あの人の復讐を止めてどうるの?”」


「“なんで戦っているの?”」




 心の中で声が聞こえてくる。それはイダの声にも聞こえたし、藤田の声にも聞こえた。そして自分の声にも聞こえた。私は心に迷いがある。何故ここまでしているのか。レイプ犯を社会的に物理的に何度も殺してきたじゃないか。それなのにどうしてイダのは止めようとしているんだ。


なんで、私は何故…




「姉様!!」


 マシロちゃんの叫び声で我に帰った。目の前の男がナイフを持って飛び込んできている。


 私は体勢を崩して尻餅をついてしまった。急いで左手のアイスピックを突き立てようとしたが、それよりもマシロが男の後頭部を殴りつける方が早かった。


「ごめん!マシロ!!」と私は叫んだ。


 目の前のマシロちゃんは振り返らずに、


「家族ですから」と小さい声で言った。


 は…?


 何で恥ずかしがっているんだ。


 マシロのやつ。初めて聞いたよお前の小声。出せるんじゃん。本当に可愛いやつ。




「家族だから」



 私たちが。


 そっか、そうだよ。



 私達は家族だ。血は繋がってないけど、それでも助け合って喧嘩して、突然フラっと家出して、泣いて、怒って、騒いで。


 帰る場所は無かったけど、帰る…人はいる。




 家族が苦しんでたら手を差し伸ばさなきゃ。


 私は…家族が苦しんでいるから戦うんだ。


 

 左手に巻きつけたアイスピックを目の前で振り、冷たい空気を切った。金属の研ぎ澄まされた音が心地いい。


目を瞑り、深呼吸をした。


 そして「ふっ」と軽く息を吐いて、残りの10人を一斉にアイスピックで切りかかった。


 足の筋、肩の筋を綺麗に切る。立ち上がれないように。武器を持てないように。イダが教えた技だ。


 最小限の力で最大のダメージを…


 3分ほどで全てのヒットマン達を戦闘不能にさせた。



「姉様…お見事です」


「お姉ちゃんにも見せ場がなきゃね」と私は言った。


 マシロの白い顔も私の蒼白い顔も赤く染まっている。霜焼けだ。多分。



 ようやく私達3人は倉庫に近づくことができた。倉庫の扉は閉まっており、わずかな隙間からその様子を見ることができた。


 私は左目を使って、様子を確認した。


「鮎川…」


 鮎川右京はパイプ椅子に足を広げて座り項垂れていた。顔が見えない。感覚を研ぎ澄ましているんだな。下手に近づいたら一瞬でやられる。



 そして久保ヒカルと思われる男は、手足を縄で縛られ床に倒れ混んでいた。良かった生きている。


 私は一旦倉庫内から視線を外した。バレる。いやもうバレてはいるか。


「ところで姉様…その黒いポーチには何が入っているんですか?」とマシロは両手でバットを振り回しながら聞いた。


「え」と私は言った。何の話か分からなかった。


「行く時付けてましたっけ」と佐々木刑事も不思議そうに、私の首にぶらさがるポーチに顔を近づけた。


「あ、これ…」


 作戦開始の前に中尾圭一から渡された…。私はポーチのチャックを下ろし、中身を取り出した。


「スタンガン…」

中尾圭一が私に授けたのは、どうやら護身用のミニスタンガンだったようだ。

 

 中尾圭一はあの時言った。


『彼から瞳を奪った、そう思った時に使いなさい』


 瞳を奪うね…。


 私はさっきの鮎川右京の姿を思い出した。彼にスタンガンが効く姿が想像出来ない。もちろん私が彼から瞳を奪う姿もだ。ダメだ。私には要らない。


 私はスタンガンの入ったポーチをマシロの首にかけた。


「姉様、なんですか?」

 

「マシロにあげる」


「えぇ〜」


 日がオレンジに染まってきた。屋根にかかる氷柱(つらら)がオレンジの光を吸い込みキラキラと輝いている。


 「さぁ猛獣退治だよ」


 私は笑顔でそう言った。

 


誤字訂正してくれた方、ありがとうございます。お手数をおかけしてしまい申し訳ございません。


本当に色々な人の助けがあってこの作品が出来ているんだなと痛感します。いつもありがとうございます。


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