05 セーター
ハリハルタのギルドでキリマズラの納品を終えたコウメイは、マイルズの家に向かう前に買い物をと町をぶらついた。
食料品店で取り寄せを頼んでいた香辛料を受け取り、農村の直売でこの時期最後のエリンを十個ほどをまとめ買いし、雑貨屋でシーツ用の布を四人分注文する。
「この品質だと、取り寄せだね。半月はかかるよ」
コウメイが注文したのは、富豪が愛用する薄くて丈夫で肌触りの良い布だ。リアグレンからの取り寄せになるのはわかっていたので、それで良いと答えた。次に島に向かうのが自分ならば、寄り道して購入してくるのだが、シュウにシーツの目利きはさせられない。
他に何かめぼしい品はないかと店内を見回したコウメイは、前回は無かった張り紙を見つけた。
『セーター編みます。毛糸の持ち込み歓迎。隠れ羊の毛買い取りします』
張り紙の側には見本と思われる一着が展示されていた。染色していない毛糸のセーターは、編み目も均一でしっかりしているし、飾り編みがしゃれていて目を引いた。
「どうだい、ウチの婆さんの手だ。冬は一着あるとあったかいぜ」
店主の老いた母親が、秋から初冬にかけて注文を取っているのだという。
「セーターじゃなくて、ベストでもいいか?」
「もちろんだ。袖なしなら時間もかからない。毛糸はどうする? うちが扱ってる色は茶と緑と青だ。染色前の生成り糸より高くつくが、色糸の飾りはあったほうがいいぜ」
襟や袖の縁取りや、胸のあたりに一列だけ色を変えて編むと個性が出せる、と店主がすすめる。
「注文は仲間にどんなのがいいか聞いてからだな」
そう言ってコウメイは雑貨屋を出た。
セーターの話をすると、マイルズも三着ほど持っていると言った。町着用のセーターとベストは厚手、討伐時に革防具の下に着るのは薄手のベストだ。
「毛糸の服は一着は持っておいたほうがいいぞ。このあたりの冷え込みは厳しいんだ。それと雑貨屋の婆さんの手は早いが、この時期は注文が殺到する。早めに頼んでおいたほうがいいぞ」
「なら問い合わせてみるかな」
スープを煮込んでいる間に、魔紙を飛ばして確認を取る。シュウは茶と青の毛糸を差し色にしたベスト、アキラは生成りのセーター、リンウッドは前開きのカーデガン、色は何でも良いとのことだった。コウメイはセーターとベストを注文すると決めた。セーターは丸襟の部分を広くして、ベストはV襟の部分に茶色の毛糸を使う。
「そういや、隠れ羊の毛を買い取るって書いてあったが、このあたりに生息してるのか?」
深魔の森では見た覚えがないと問うと、ハリハルタの東にある山裾の森にいるとマイルズが教えてくれた。コウメイが羊の毛と編み賃を相殺するつもりだと知り、マイルズが慌てて止める。
「毛刈りは春になってからだぞ。今の時期に毛を剥いだら、隠れ羊が凍え死ぬ」
「あぁ、それはそうか」
翌日、コウメイは朝一番に五着分の毛糸の服を発注し、深魔の森に帰っていった。