04 レギルのタルトタタン
キリマズラの根を求めて毎日のように森を探索するアキラとリンウッドは、その日、野生のレギルの木を見つけた。今日のおやつ代わりにと数個をもぎ穫る。マントの端で軽く拭いて囓ったそれは、思っていたのと少し違う後味を残した。
「ちょっと酸味が強すぎましたね」
「硬いな」
小ぶりでキュッと引き締まった果実は、甘みのあとにくる酸味がとても強かった。それに水分が少なく硬いため、みずみずしさは楽しめない。野生種ならこんなものだが、最近は品種改良された果物ばかりを食べていたため、舌が物足りないと訴えている。
「捨てて帰るか」
「もったいないですね」
「では責任をもって食え」
「……コウメイに渡せば、食べられるようになるかも?」
「なるほど、それはいいな」
コウメイの作る菓子を気に入っているリンウッドは、それならもっとたくさん持ち帰ろうと、アキラを急かす。
「周囲に人の気配はない、座布団を使って高いところのも全部もいでこい」
「動物たちの食料を強奪するのは気が引けますね」
さすがに取り尽くすのは遠慮したが、キリマズラの根を入れる予定の荷袋にまでぎっしりと野生レギルの実を詰めて持ち帰った。
「硬くて酸っぱいレギルねぇ」
生食に向かないレギルを苦笑いで受け取ったコウメイは、翌日、タルトタタンをおやつとして出した。
「うめー! これ、うめーよ!!」
「レギルが大きくて、食べ応えがあるな」
「香ばしくて美味しい……サツキのとは少し違うが、これもいい」
「サツキちゃんが作ってたのって、どんなのなんだ?」
コウメイが作ったのはゴロリと大きく切ったレギルを、じっくりと煮込んでから焼いている。だがサツキが作っていたのは、キャラメリゼした薄切りのリンゴを美しく並べたものだったらしい。
「なるほど、じゃあ今度はサツキちゃんっぽく作ってみるか」
タルトタタンだけでなく、レギルパイやジャム、コンポートも作りたい。
「甘芋が残ってたから、レギルと甘芋のパイもいいし、茶巾絞りなんかもできそうだな」
「明日はそれにしてくれ」
芋と聞いて黙っていないリンウッドが、甘芋とレギルの菓子がいいと強く迫った。
「コーメイって菓子作りも上手だよなー。よし、俺も果物見つけたら土産にするか」
期待して待っててくれ、と張り切るシュウに、アキラは苦い顔で釘を刺した。
「毒苺は持ち帰るなよ!」