21 迷惑な土産
「たっだいまー」
予定よりも三日早くシュウがナナクシャール島から戻ってきた。
大きな声に誘われるように薬草畑から顔を上げたアキラは、シュウの両肩に乗っている巨大な鳥の足を見て仰け反った。羽根と血と土で汚れたシュウから、コウメイは取り込んだばかりの洗濯物の籠を遠ざける。
「おまえ、何を背負ってやがる?」
「チキンの丸焼き」
「生のようだが?」
両足を肩に担ぎ、下にした駿足鳥の首から、ぽたり、ぽたりと血が落ちている。シュウのたどってきた道にこれらが痕跡を残しているのだろう。
「の材料だ。これで丸焼き作ってくれ!」
アキラはため息をつき、コウメイは「オーブンの予定が」と呻いた。
「血抜きしながら移動するなとあれほど言っただろうが」
「他の冒険者に迷惑がかかるだろう」
「首斬ったのは森に入ってからだし、サガスト側の奥には冒険者がいねーから心配ねーよ」
一応配慮はしているようだと安心した二人だが、それでも万が一ということがある。他の魔物を呼び寄せないよう処理してから移動しろと説教した。
立派な食材の土産を喜んでもらえないシュウは不満そうだ。
「けどよー、駿足鳥って生け捕り難しーし、首斬ったら猛ダッシュするし。血を振り撒くんなら森の中のほうが安全だろー」
平原や農村や街道の近くで血を振り撒けば、銀狼が集まって村や旅人を襲いかねない。少しでも人里離れた場所を選び、シュウなりに周辺住民の安全に配慮したのだと主張する。
「そんなにまでして駿足鳥の丸焼きが食べたかったのか?」
「あたりめーだろ。クリスマスだぜ!」
クル鳥や縞柄鳥では駄目なのかと問うと、大きくなければ食べ応えがないと胸を張る。
「ローストビーフを用意してたんだぞ」
「それも食う。けどクリスマスはチキンって決まってんの」
「……まあ、材料は無駄にできねぇし、しかたねぇ」
「だろ?」
ニヤリと笑ったシュウは、背負っていた駿足鳥をコウメイに押しつけた。食材を無駄にできない性分を見抜かれ、そこに付け込まれたと知ったコウメイは、むっとしてシュウの後ろ首を掴む。
「いいか、オーブンの予定を変更して丸焼きを作るんだ、てめぇも手伝えよ」
「俺、長旅で疲れてんだけどー」
「疲れてるヤツは駿足鳥を狩ってきたりしない」
「じゃあ風呂入った後で」
「どうせ汚れるんだ、先にコイツの羽をむしれ」
「えー」
面倒くさい、という顔をしたシュウの頬に爪が食い込み、ギリギリと捻られた。
「痛てーって、イダイっ、コーメイ!」
「羽をむしれ」
「わかったからー、毟る、真っ裸にするから」
「あと丸芋の皮むきと若皮豆の筋取りと、紫ギネのみじん切りもだ、手伝え」
「手伝う、手伝うから、俺のほっぺたがちぎれる前に手を離してくれー」
言質をとったコウメイはシュウを開放し、駿足鳥を突き返した。ヒリヒリと痛みの残る頬を撫でながら、シュウは駿足鳥を抱えなおす。
「シュウ、羽毛や羽根は加工するから丁寧に扱えよ、風切り羽と綿羽を分けてから」
「おまえら注文が多すぎ!」
羽毛布団を諦めていないのか、あるいは別の用途があるのか、アキラもシュウに細かな指示を出す。
「最初に無茶な注文をつけたのはどっちだ」
「丸焼きが食いたかったらキリキリ働け」
「アキラの誕生日に間に合うようにって、頑張って帰ってきたのに、ひでーよ」
「……プレゼントは手間暇かからない物が良かった」
「丸焼きは自分のためだろうが」
「お祝いとクリスマス、一石二鳥な感じ?」
鳥だけに、と誤魔化すように笑ったシュウに釣られて、コウメイとアキラも頬をゆるませた。
「おかえり」
「お疲れ。丸焼きのためにもう一働きがんばれ」
「おう、ただいまっ」




