20 便利魔道家電の憂鬱
買い付けてきた食材を使い、コウメイはシュウが望んでいるであろうふわふわのスポンジケーキを焼きはじめる。手伝わされているアキラは不機嫌さを隠さない。
「泡立て方が足りねぇぞ」
「……サツキよりも人使いが荒いぞ」
「しゃあねぇだろ、この品質のハギ粉でふわふわにしようとしたら、とにかくキメが細かくてしっかり泡立てなきゃならねぇんだよ」
形状を指定して作らせた泡立て器は、この世界の調理器具に比べて泡立ちが良い。だがさすがに人力には限界があった。やさしい泡に、とか、もっと速く均一に、とか。注文の多いコウメイにうんざりのアキラは、泡立てる魔道具があればと唸った。
「前にリンウッドさんに何度も頼んでるけど、作ってくれねぇんだよな」
再三頼んでいるが、調理家電には興味がのらないのか後回しにされ続けている。
「泡立て器を使わないと作れない甘芋菓子があると言えば作ってくれるんじゃないか?」
「それが思い浮かばねぇんだよな」
甘芋の菓子はアキラに手伝わせて卵を泡立てる必要のない物ばかりだ。
「何とか説得してくれ」
「そうだな、試しに今日のおやつで釣ってみるか」
スポンジ生地を魔道オーブンに入れたコウメイは、再び卵をアキラに泡立てさせた。スポンジケーキと同じくらいふんわりとした生地をフライパンに流し入れる。
「パンケーキか」
「ふわふわのヤツな」
焼き加減を見ながらコレ豆茶を入れる。できたてを食べさせて魔道泡立て器の重要性を訴えたいからと、アキラに呼びに行かせた。
蓋をして蒸し焼きにし、ひっくり返して再び蓋をする。その合間に皿とカップを用意し、オーブンの様子も確認する。
「蜂蜜とバターと、コリンのコンポートを添えるかな」
勝手口から入ってきたリンウッドは、空の皿を見てガッカリしたように言った。
「なんだ、まだ出来てないじゃないか」
「すぐだからテーブルで待ってろよ。アキ、コレ豆茶を頼む」
リビングから漂ってくるコレ豆茶の香りと、フライパンで焼き上がるパンケーキの甘くほのかな香りがまじり、誰かの空腹を刺激した。
くるる、と鳴った腹の音に急かされるようにして、コウメイはふっくらと焼き上がったパンケーキを皿に盛り付け、コリンのコンポートを脇に添える。バターと蜂蜜はお好みでと別に添えた。
「ほほう、変わったパンだな」
「パンケーキだよ。すげぇやわらかいんだ」
「うむ、口の中で溶けて消えるようだ。実に変わった菓子だが、美味い」
「だろ。このふわふわは卵の泡立てが重要なんだ」
蜂蜜をたっぷり、バターは少なめのリンウッドは、あっという間に食べ終わっていた。少々物足りない様子でコレ豆茶を飲んでいたので、アキラは自分の分を差し出して説得にかかる。
「これを作るのに私が風魔法で泡立てているんですよ」
「ほう、アキラがかね」
「もっと気軽にふわふわの菓子を食べられるように、魔道泡立て器を作ってもらえませんか?」
「今焼いてるスポンジケーキも、アキがいねぇと作れねぇんだ」
明後日の酒宴で出すクリームのケーキも、卵の泡立てがなくては完成しない。ふわふわのスポンジケーキを気軽に楽しむためにも、魔道調理器具を作って欲しいとアキラが頼んだ。
「泡立てるくらい、アキラが手伝えば済むじゃないか」
「……」
アキラは言葉に詰まった。それが面倒だから頼んでいるのだ。料理という苦手分野で、完成度を左右するような重要な工程を任されるのはプレッシャーでしかない。簡単な作業なら手伝ってもいいが、卵の泡立てからは解放されたかった。
「酒の染みたあの焼き菓子は、泡立てが必要か?」
「いや、アレは手伝ってもらってねぇぜ」
「甘芋の菓子のは?」
「そっちも手伝いはいらねぇ」
アキラに泡立てを頼むのは年に数回、誰かの誕生日を祝う時くらいだと言うと、リンウッドは弟子の不精を咎めるように見た。
「毎週、毎月というならともかく、その程度くらいは手伝ってやれ。それが嫌ならアキラが魔道泡立て器を作ればいい」
アキラは無言で視線を逸らした。作れないから頼んでいるのである。年に数回くらい、と言われてしまえばそれ以上強くは返せなかった。
「悪いな、スポンジケーキのためだ、年に片手以下だからこれからも手伝ってくれ、な?」
そう言ってコレ豆茶のお代わりを注ぐコウメイの笑顔を、アキラは無性に腹立たしく感じたのだった。




