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19 暴れ牛の逆襲



 無理を押して大陸に戻ってきたシュウは、立ち枯れした草の陰に身を潜め、駿足鳥の動きを目で追っていた。

 サガストまでもう少しという街道途中で駿足鳥の群れを見つけたのは幸運だった。

 草原には駿足鳥だけでなく、暴れ牛の群れもいる。枯れ草の陰には草原モグラの巣穴もある。どの肉も狩り放題だが、今日のシュウの目的はただ一つ。


「クリスマスにはでっかい鳥の丸焼きって決まってんだよ!」


 いつか食べた駿足鳥の丸焼きはとても美味しかった。パリパリの皮は香ばしくて美味いし、香草で風味付けされた肉は柔らかくてジューシーだし、詰め物の丸芋と粒ハギは肉の旨味が染みて絶品だった。


「あれ、また食いてーよなー」


 アキラの誕生日もあるのだし、コウメイはちゃんとケーキも料理も用意しているだろう。だが肉料理は怪しい。出かける前に肉、肉とうるさいほどに連呼しておいたが、アキラの希望を優先していれば、コウメイのことだ、あっさりとした角ウサギ肉料理になるにきまっている。


「アキラの誕生日はソレでいーけど、クリスマスは鳥の丸焼き以外は認めねーからな」


 そのためにも立派な駿足鳥を狩って帰らねばならない。


「コウメイは食材をぜってー無駄にしねーもんな」


 材料からそろえなければならない場合は難色を示すが、食材が揃っていればブツブツ言いながらもちゃんと望んだ料理を作ってくれるのだ。


「お、あの鳥、いい腿してるじゃねーか」


 引き締まった、だがむっちりと厚みのある駿足鳥に狙いを定めた。

 駿足鳥と身を潜めるシュウの間には何の障害もない。

 駿足鳥の狩りはそれほど難しくはない。逃げ足は速いが、駿足鳥が速度が増すのは走りはじめた後だ。瞬発力の勝るシュウなら逃げられる前に首を斬り落とせる。その場で押さえつけ、絶命後の疾走を防げば完璧だ。


「あの絶叫は耳にいてーけど、丸焼きのためだ、耐えてみせる」


 シュウは短刀を抜き、間合いを計る。

 駿足鳥が背を向けた。

 今だ。

 枯れ草の間から飛び出したシュウが、短刀を振りかぶる。

 鋭く振り下ろし、刃先が首に刺さる寸前だった。

 ドドドドド、と猛スピードで突進してきた暴れ牛の角が、シュウの脇腹を狙っていた。


「うおぉっ、と」


 暴れ牛の群れとシュウに気付いた駿足鳥が逃走する。

 シュウはギリギリで暴れ牛の角をかわして枯れ草の中に落ちた。


「くそー、タイミング悪いなー」


 駿足鳥に気を取られすぎて暴れ牛の存在を忘れたのは失敗だった。気を取り直したシュウは、別の駿足鳥に狙いを定め再び枯れ草に身を潜めた。

 暴れ牛との距離は問題なし。

 じりじりと迫り、死角から襲いかかる。


「モゴォォォォォォーっ」

「ギャウ」


 暴れ牛らが一斉に漏らした鼻息に驚いた駿足鳥は、バサバサと羽ばたいてシュウの剣から逃れた。


「何なんだよー」


 一度ならず二度までも暴れ牛に狩りを邪魔されたのは偶然だろうか。

 シュウは群れに目を向ける。その中にシュウの見知った暴れ牛がいた。群れの中では小柄なその牛は、左角の先が欠けている。深魔の森に引っ越して最初の狩りで、シュウの攻撃から逃げのびた一頭だ。それ以来、角の欠けた暴れ牛のいる群れを狙ってはリベンジを目論んでいるが、いまだ決着はついていない。


「――まさか、ね」


 シュウは視界の隅に欠け角を入れたまま、新たな駿足鳥に狙いを定めた。気配を殺し、死角に回り込んで距離を詰める。

 ここだ、というタイミングで短刀を構える。

 その瞬間だ。

 欠け角が首を振った。

 警戒とは逆方向にいた暴れ牛の集団が、一斉にシュウに向かって突進する。

 高く跳躍して一団をやり過ごしたシュウは、欠け角を振り返って睨んだ。悠然としたその様は、まるで狩りの失敗を馬鹿にしているようだ。


「まちがいねー、あいつ、わざと妨害してやがるな!」


 この瞬間、シュウの意識から駿足鳥が消えた。


「決着つけてやろーじゃねーか」


 短刀をしまい、荷物の側に置いてあった大剣を手に取る。

 ぶふっ、と笑うように漏れた欠け角の荒い鼻息は、シュウの相手など欠けた角で十分だと嘲笑われているようで、頭に血が上った。


「ローストビーフにしてやるからな、覚悟しろよ!!」

「ンボォォォォォ――!!」 


 開戦の火蓋は切られた。



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