15 酒飲み友達
冒険者は酒好きだ。そのせいか、ハリハルタの商業ギルドには酒の専門部があり、小さな町だというのに、小売り専門の酒屋も複数存在している。
マイルズは空になった酒瓶を手に、なじみの小売店を訪れていた。新酒に古酒、各地の地酒と取りそろえられている酒を、味見しながら選んでゆく。一本はまだ飲んだことのない地酒がいいだろう。新酒は一本で、古酒は年代を変えて三本を見つくろう。シュウでも飲めそうな軽めの酒は、女性好みの蜜酒がいいだろうか。
酒を吟味しているマイルズの背に、後から入ってきた客の呆れ声がかけられた。
「副隊長、凄い量だな。あんた酒豪だったか?」
同じように空の酒瓶を持って買いに来たデリックが、マイルズの空瓶の数を確かめて目を見開いている。
「デリックこそ、凄い本数じゃないか」
「俺は元から質より量だ。けどあんたは味わいに重きを置いてて、量はいらねぇってタイプだったよな? いつの間に趣旨替えしたんだ?」
歳を取ってから酒量を増やすのは身体に悪いぞと忠告され、マイルズは苦笑いだ。
「一人でこれだけの量は飲まんよ。半分はコウメイが飲んだんだ」
「へえ、あいつ酒豪なのか」
「酔っ払ったところは見ていないな。どれだけ飲んでも翌朝はケロリとしているし」
「若さかね、羨ましい」
二十年近く前の記憶とほとんどかわらない容姿に思うところのあるデリックだが、そこには踏み込まないようにしていた。コウメイの若さも、シュウの身体能力も、探ってはならない一線の向こうだ。
「しかし酒類がバラバラだ。あの若造どういう趣味してるんだ?」
「これはコウメイ一人に飲ませる酒じゃない。奴らの飲み会に誘われていてな、土産用にそれぞれの好みに合わせた酒を選んだんだ」
ナナクシャール島に向かう前に立ち寄ったシュウが、十二月の末頃にアキラの誕生祝いと、彼らの故郷の祭をすると言っていた。その宴席に誘われたのだ。彼らへの手土産を考えたのだが、それが難問だった。美味い肉はシュウが狩って大量に保管しているだろうし、料理や菓子もコウメイが作るより美味いものなど手に入らない。悩みに悩んで結局酒に落ち着いたのは、コウメイが作っていないと言う理由でだ。
「あとはヴィレル酒の赤と白を二本ずつ」
「まだ買うのかよ」
「万が一ということもある」
アキラの師匠であるミシェルも招かれていれば、ヴィレル酒は外せない。彼女もずいぶんな酒豪だった。
「酒に囲まれて、羨ましいぜ。ところでその酒宴、別嬪さんの酌は期待できるのか?」
「別嬪はいるが、酌は無理だろうな」
「なんだ、つまらん。いくら酒が飲めても面白くないぜ」
「デリックも参加するか?」
コウメイに伺いを立ててみるぞ、と誘うマイルズに、彼は慌てて首を振った。
「いや、俺は美人の酌のない酒宴には出ない主義だ。それにな、あんたと違って危ない連中には近づかねぇようにしてるんだよ」
「危なくは……ないと思うが」
「あんたにとってはな。連中、団長と同じか、似た種類の生き物だろ? 向こうから近づいてくるならまだしも、こっちからは恐ろしくてごめんだね」
デリックは定番の安酒を買うと、酌をしてくれない別嬪さんによろしくな、と手を振って店を出て行った。
自ら関わりを作るなんて酔狂すぎると呆れられたマイルズは、そんなものかと小さく笑った。冒険者になりたてのころ、同じ髪の色を持つエルフに巡り会ってしまったとき、己の運命は決まってしまったのだろう。
「この一瓶は持ち帰るよ。あとは三日後に配達してくれ」
マイルズは代金を支払い、今夜の酒を抱えて店を出た。