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11 軽くてあたたかな布団探し



 この世界の寝具は毛布が基本だ。夏場は薄手になるし、冬場は厚手になる。寒冷地では二枚、三枚と重ねて調整している。

 深魔の森は冷え込みが厳しい。夜は暖炉の熱で寝室も暖かいが、朝にかけては寒さで目が覚めるほどに冷え込む。寝具に残されたわずかなぬくもりだけでは、手足の冷えはどうしようもない。


「もう無理だ、あたたかい寝具が欲しい」


 起こされる前に朝食の席についたアキラは、冷え切った指先をハギ茶のカップであたためながら訴えた。


「毛布をもう一枚増やすか?」

「重いのは嫌だ」


 アキラはすでに薄手を一枚に厚手の二枚、合計三枚を掛け布団として使っている。ずっしりとした重さは、毛布で圧着されているような感覚だ。寝返りを打つのにも苦労している。


「そんなに重くねーよ?」

「シュウは厚手の一枚しか使ってないじゃないか」


 シュウの寝室は屋根裏ということもあり、あたたかな空気がたまるため室温は下がりにくい。コウメイも暖炉に近く、薄手と厚手の二枚で寒さがしのげている。なにより基本的な筋肉量が違った。

 ぬくもりを優先すれば寝苦しさや身体のきしみを我慢しなくてはならず、軽さを優先すると凍えて眠れないのだ。


「軽い掛け布団は俺も探してるんだが、難しいんだよなぁ」

「羽毛布団にすりゃいーんじゃねーの?」

「手に入れられればな……」

「え、売ってねーの?」

「受注生産だ。しかも紹介者必須で数年待ち」


 まさに鳥の羽のように軽くてあたたかだと評判の寝具は、王都や大都市の貴族専用の高級店だけで受注販売されている。誰でも注文できるわけではなく、紹介者経由でなければ受け付けてもらえず、しかも件数を制限している。当然値段も最上級だ。


「それさー、てきとーに鳥つかまえて、羽むしって布団作ったほうが早くね?」

「普通の鳥の羽毛はそんなにあたたかくないんだぞ」

「羽毛の扱いは毛糸よりも面倒で手間かかるのに、自作なんて出来るわけねぇだろ」


 アキラも羽毛布団は諦めている。だが重い毛布に耐えるのも限界なのだ。軽くて暖かい掛け布団が欲しいと切に訴える。


「綿の布団なら頼めば作ってもらえそうだが、来年だろうな」

「……綿も厚いと重い」


 毛布とどっこいどっこいだが、試してみる価値はあるだろう。次にハリハルタに行った際に、雑貨屋で注文先をたずねることとしよう。

 しかし問題は当面の掛け布団だ。睡眠は大事だ、何とかしたいができることは少ない。


「リンウッドさんに靴下かレッグウォーマーを編んでもらうか?」


 毛糸は先日入手したものがまだ残っているし、まっすぐ編むだけでいいのだから何とかなりそうな気がした。


「そーいえばおっさん、遅くねーか?」

「いや、アキがいつもより早かっただけだ。そろそろ来るぜ」


 コウメイが朝食の準備を終えるのと同じタイミングで、リンウッドが勝手口から入ってきた。


「めずらしいな、アキラが先に起きているとは」

「寒さで目が覚めたんです。リンウッドさんはあの小屋で寒くないのですか?」


 暖房器具はシュウが運び込んだ火鉢だけ、寝台代わりの長椅子に毛布一枚という過酷な環境でよく熟睡できるものだとアキラは不思議そうだ。


「毛布なんぞ、一枚あれば十分だろうに。あれは二枚も三枚も重ねるものじゃないぞ」

「三枚でも寒いんですよ、ほら!」


 ローブをめくられ、冷え切った足先を押しつけられたリンウッドは、その冷たさに目を丸くした。


「これは血が凍るぞ。魔術陣が間違っているんじゃないのか? 後で見せなさい」

「魔術陣? 何故です?」

「毛布に描いた魔術陣だ。温度を保てていないのだから、間違いを修正すれば」

「待ってください、何故毛布に魔術陣なんです? 修正?」

「発熱の魔術陣……まさか、毛布に描いていないのか?」


 コウメイは苦笑い、シュウはぽかんと口を開けて、二人のやりとりを見ていた。


「発熱の、魔術陣……!?」


 暖をとるために握りしめたカップが、テーブルにぶつかってカタカタと音を立てている。


「ミシェルの教書の最初の方に書かれているだろう……読んでないのか、そうか」


 基本中の基本を飛ばして読みすすめたアキラのミスである。

 その日、アキラは発熱の魔術陣(電気毛布)を手に入れた。


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