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反響

作者: 泉田清

 夜。瞼を青い光が叩いた。目を開ける。空気清浄機の青い光が暗闇に沈んだ部屋を照らしている。空気清浄機がこんなに発光するなんて。


 かび臭い布団。見覚えのない部屋。一時的な記憶喪失に陥り、ここがどこか、何秒か考える。カーテンから月の光が漏れていた。闇の中で慎重に歩みを進め、そっとカーテンを開ける。道路向かいの公園が見えた。月の光だと思っていたのは街灯の光。夜の公園を照らす。何か異常がないか、素早く辺りを見渡す。午前三時。何者もいるはずがない。ホッとして布団に戻り、横になり、目を瞑った。 

 ここは友人の家。「あまり広くないな」が、初めて訪れた時の感想だ。友人に招かれ、二人で酒を飲み、泊めてもらった。庭先にマイ・カーが停めてある。マイ・カーを停め、降りた時(夕方)、公園で男の子たちが遊んでいた。わざわざ外で、それぞれゲーム機を持ち寄って遊んでいた。バタン。マイ・カーのドアを閉める、皆が一斉にこちらに目をやる。「こんにちわ」声をかけたが、ジロリ、こちらを一瞥してすぐ皆ゲーム機に戻った。


 「どうも、お世話になりました」。肌寒い早朝、礼をいって友人宅を辞した。「実家への用事」のために。チューイ、チューイ!頭上で囀りが聞こえた。チューイ、チューイ、チュルチュルチュル!オナガの群れがあちらからこちらへ、滑るように飛んでいく。薄い水色の羽が真っ青な秋晴れの空に映える。今度はこちらからあちらへ、頭上で旋回したあと、いずこかへ飛び去った。いい休みだ、やっとそう思えた。

 「実家への用事」は嘘だ、「ゆっくりしていけよ!」強引に引き留めようとする友人への。サッサと帰ってパソコンの前に座っているほうがいい、或いは横になって本を読むか。定期的に相手をするのは義理があるからだった。彼のおかげで今の職にありついた。これくらいのことはしなくてはなるまい。


 数日前。

 山の上のお客さんに会いに行った。用を終え、公用車で山道を下る。途中、開けた場所に駐車場があった。公用車を停め車を降りる。バサバサバサ!近くのクリの木に止まっていた鳥の群れが、驚いて飛び去った。見覚えのない薄い水色の羽、長い尾羽、後で調べるとオナガという鳥だと分かった。どんな声で鳴くのだろう。

 職場に戻ると「週末、うち来いよ!」友人が言った。友人は何年か前離婚した、今は持ち家で独り暮らし。「ああ、いいよ」気が進まなかったが断ることはできない。職場に酸っぱい臭いが漂う。午前はいいが午後になるともうダメだ。友人はワキガである。ワキガのせいで離婚した、そう揶揄するものもあるが、憶測でしかないのだった。


 実家の前を通り過ぎ、アパートの独り部屋を目指した。友人の誘いさえなかったら!街へ出て駅前の家電量販店に行ったのに。パソコン売り場をうろつきたかった。犇めく買い物客たちに混ざるのもいい。「こんなに若者が居たのか」などと、地元の田舎との違いを肌で感じたりして。若い娘や妙齢の婦人を盗み見て。中高年にはもううんざりだ、自分が中高年なのにも。ルームミラーをみる。キラキラと、我が頭髪の白髪が煌めいた。銀色の髪の毛が随分多くなった。すべて銀色になればカッコイイと思う。そうなるのは恐らく七十とか八十とかだろう。


 我が愛しの独り部屋、は驚くほど狭かった。「あまり広くないな」友人宅で思った事が恥ずかしくなるほど。ドアを閉めてすぐ、換気扇を点ける。生ゴミが臭った。やはり空気清浄機は必要かもしれない。自分がいないところで「生ゴミさん」と呼ばれている可能性が出てきた。別にかまわないが。

 天窓から青い空が覗いている、まだ今日は半日以上残っている、とりあえず横になろう。目を瞑る。心地よい静寂。何の音もない。チューイ、チューイ、チュルチュルチュル!まだ耳に、オナガたちの鳴き声が残っていた。

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