あ~た~らしい朝がきた
目を覚ます頃にはおばあは先に起きて何やら作業をしていた。
ご飯でも作っているのだろうか。
おばあの傍にいくと
「おはよう。よく眠れたかい」
と優しく声をかけてくれたので
「ん。」
と返事をしておいた。実際には床で寝ているのであまり良い寝心地では無かったのだが。
目覚まし無しでこんなに早くに起きたのもきっとそのせい。
「ごはん?」
お、ちゃんと言えた。
テントの端に低めのテーブルがありその上になべらしき物が金属の板の上に乗って湯気を立てている。
こちらからはギリギリ見えないがスープだろうか。その横にパンが乗ってる。これは昨日買ったパンだろう。
「そうよ~。朝ごはんもうすぐ出来るからそっちで待っててね」
4畳くらいのテントの左側が寝室で右側がキッチンになっているようだ。ちゃんとした隔たりがあるわけではないので大体。家具や荷物はあまりない。
さっきまで包まっていた布を畳んで脇によせる。机は見当たらないが床に置いて食べるのだろうか。
そんなことを考えているとおばあがこちらへやってきた。
キッチン側に置いてあった一辺30cmくらいの木の板、5枚ほど重なっているものと一緒に。
何をするのかぼんやりと眺めていたら、おばあの手元が淡く光り出したのが目に入った。
そして木の板が勝手に形を変えていく。
(!!!)
2枚が脚になり3枚の板で出来たテーブルになった。
「すごぉい!おばあすごぉい!!」
思わず手を叩いて称賛する。
魔法!凄い!便利!
魔法の素晴らしさの余韻に浸っているとおばあが声をかけてきた。
「まぁまぁ褒めてくれてありがとね。でもいつもやってるだろうに、ルノは時々大袈裟に喜んでくれるわねぇ」
——ギクッ。
内心冷や汗が止まらない。確かに意識を取り戻したのは昨日だが、それまでは普通に暮らしていたのだ。さも普通の事のようにしれっと過ごさなければ怪しまれてしまう。
よくよく考えれば分かることなのに浮かれて見落としていた。
生活魔法をみて喜んでいる場合ではない。と言うか、その時どきで同じ反応してたのか過去の自分よ。
「しょ、そうかなぁ(てへへ)」
上手いこと言い訳も思いつかなかったのでニコニコしておいた。
幸い、あまり気に止めていないようで、すぐ朝食準備に戻っていった。
追い出される事にならずとてもホッとした。
朝食はパンとくず野菜のスープ。
塩味が無いのだが塩と言うのは貴重なのだろうか。パンは見た目より重量がありとても硬かった。
これもクフと同様スープに浸して柔らかくしてから食べるらしい。
早く食事の改善をしたい。日本の白くて柔らかなふわっふわなパンが恋しい。珍しいかもしれないが僕はご飯よりパン派だった。
食事を終えるとおばあは大きめの桶に食器を入れて、それを持って僕と共にテントの外に出た。
今日は晴れていて暑すぎず寒すぎず気持ちがいい。
そんな事を思っていると、またおばあの手が淡く光りだした。
また魔法がみれる!と嬉しく思いながらも
今度は声にも顔に出さないよう気をつけながら凝視する。
手の周りに水が生まれる。それを食器の入った桶の中に入れ水の流れを作る。上手く当たらないように流れを調節しているのか、ガラガラという大きな音はしない。
暫くして流れが止まり水だけが宙に浮き地面へと吸い込まれていった。
洗浄と乾燥がいっぺんに終わってしまった。
「ちょっと外で待っててね」
おばあはそう言うと食器を中へと片付けに行ってすぐに外に戻ってきた。先程のように手元が光り桶に水が張られた。
「身体を綺麗にするから洋服を脱いでねぇ」
なるほど、お風呂の時間か。朝に入るのには意味があるのだろうか。
そんな子供の身体誰も気にしないから~、と言われても周りの目が気になってしまう。
言われた通り着ていた洋服を脱ぎ大事な部分はさり気なく隠しつつ桶の中に入りしゃがむ。あ、今世では女の子だから上も隠さないといけないのか。
膨らみもくそもないし子供の身体なんてそもそも隠す必要性も無い気がするが、こういうのは今のうちから矯正しておかないと。
そこで僕は気がついた。水を張った桶を覗き込めば自分の顔が確認出来る!と。
もし顔に関する要望が通っていれば、他の要望も通っている可能性に期待できる。
これは早く確認しなくては。
ルノは桶から出たあとおばあに頼んで水を捨てるのを少し待って貰った。覗き込んだ先には幼いながらも容姿の整った子供が写っていた。
(か、か、か、かわいいっ!!)
思わず自分の顔を触る。目は・・・二重。鼻も高い。いーっ、と指で口の端を引っ張る。歯もガタガタではない。
要望は通っていた。性別は違えど整っているし、このままいけばモテそうである。
モテそうである……モテ…男にモテてもな……。
なんで性別まで願わなかったんだ!!!!過去の自分よ!!!!
やり直したい!!!(2度目)
整っていればちやほやくらいはされるか……?
いや、でもそうゆうことは出来ないだろうし、生殺し!?
…それでも出来ない事はない?
こんだけ綺麗なら性別とか関係なくないか。
ちやほやされれば一応ハーレムは叶えられるし。
でも結局なぁ……。
桶を眺めては頭を抱え、また眺めては頭を抱える姿をおばあは眺めていた。
その顔は少し憂いを帯びていて、実は更なる問題があることをルノは後に知ることになる。
気付いたら2週間も経っていて
もしかしたら次元の狭間に迷いこんでいたかもしれない…。