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異世界転生したから王道を歩みたい  作者: さくろすけ
始まりの街
3/5

一瞬の栄光とはいうけれども一瞬過ぎやしませんか?

 ぼんやりと意識が上がってくる。



「・・・・!!!!」



 大きな声にびっくりした。僕がびっくりすると更に声の主は大きな声を上げる。

 

 うるさいなぁ。


 そう思いながらも他に考えることがある、と心をなだめる。

 すると声の主も徐々に落ち着きを取り戻してくるようで声が小さくなる。



「・・・・・・。」



 薄々気付いていたが声の主は自分だったようだ。

 赤ちゃんが自分の声にびっくりして更に大泣きすることがあるらしいが

 28歳の赤ちゃん()も同じことに陥るとは……。




 僕は無事に生まれたようだ。

 周りを見渡そうとするが力が入らない。視界もぼやけているし誰か抱っこされているのは分かるがそれ以外は分からない。


 周りには他にも誰かいて何かを話ているようだが言葉も全然わからないから状況が理解できない。

 こんなことなら鑑定スキルとか翻訳スキルとかお役立ち能力を貰っておくんだった。




 突然ムギュッと口元に何かを押し付けられた。


(ぐほぉおおふぉ!!なに!いきなり赤ちゃん()に何するんだよ!そんなことしたら窒息してしま……ん?)


 何かを押し付けられた際、口についた液体を舐めてみる。

 ちょっと薄い。特別美味くはない。だけど、なんか癖になるな、これ。

 何が起こっているのか分からないけど丁度お腹もすいてる気がするし腹ごしらえをしておこう。

 上手い具合に生まれたからと言ってこの先何があるか分らないからな。


 まぁでも僕の異世界覇道がこれから始まると思うとわくわくが止まらない!





 そこでぼくの記憶はプツリと途切れた。




 ——————




 ぼんやりと意識が上がってくる。

(この感覚も慣れたものだな……寝てしまったのだろうか。そうだ!誕生の記念に高らかに僕と言う存在を示しておこう!スタートバシっと決めるのはとても大事だろう)



 

「んっらぁ!いせきゃぁっいっにぃおっっる!!」

(よっしゃあ!異世界最強に俺はなる!!)


 

 目の前には人の行き来。


 大きめな道の脇で高らかに片手を上げて意味不明な言葉を発する僕。



 目の前の道を歩いている人からの怪訝な視線とは別に、すぐ隣からも視線を感じる。

 硬直しながらゆっくり隣をみると何年も着ていそうな薄汚れたローブで身を覆ったやせ細ったおばあさん。

 目の前には金属の凹みまくったお椀がおいてあった。


(なんだ、なぜ僕は赤ちゃんじゃない。と言うかこのおばあさん物乞いか?何で隣にいるんだ。とにかく早くこの場から離れよう)


 そう思って立ち去ろうとしたが、自身の洋服が目に入り驚いた。

 隣のおばあさんに負けないくらい着古した洋服を着ていた。臭そう。というか、鼻が麻痺しているだけでおそらく臭いはきついのではないだろうか。腕や脚もよくみると細い。

 身体の大きさから判断すると大体3歳児くらいだろうか。



 少しの間硬直し頭をフル回転させて結論に至った。



 もしかして、捨てられたのか……?



 なぜ捨てられたのかは分からないが道端で物乞いのようなことをしているということはそういう事なんだろう。

 いや、実際にしているのかはまだ分からないが、おばあさんとぼくは同じ境遇にいるような気がする。

 母親らしき人も見当たらないし。


 隣のおばあさんが詳しく知っているかもしれないと思い、話しかけてみた。




「んの…………なんぇ、ここ、いう?」

 (あのぉ、なんで僕はここにいるのでしょうか)



 舌が上手く使えない。考えていた言葉と発せられた言葉が全然違う。とても拙い言葉になってしまった。

 思ったことをそのまま言葉には出来なかった結果、単語の繋ぎ合わせのようになってしまった。

 もしかしたら身長がそこそこあるだけで3歳にも満たないのかもしれない。

 だが日本語ではない言語を自然と話している自分に驚いた。

 

 もしかしたら僕自身としての記憶は目覚め以降思い出せないが、記憶に残っていないだけで学習はその時々の僕がしてきていたのかもしれない。



「あら、びっくりした。飽きちゃった?もうちょっとだけ待っててね、今日はルノの手伝いもあっていつもより多めに集まってるのよ。ありがとね。あと少ししたらおばあとお家に帰りましょうね」



 僕はルノと呼ばれているらしい。言葉も理解できる。

 このおばあさんーおばあーと一緒に住んでいるみたいだ。

 確かに足元をみると僕の方までボロ布、もとい風呂敷が伸びている。

 

 この様子じゃ住んでるとは言うものの家があるのかどうかは怪しいところだけど……。

 なんせその日のご飯は他人のお零れ次第、という生活をしているみたいなのだから。



 とりあえずその場に座った。3歳児が一人で街に出ても何も出来ることは無いだろう。

 というか、どこか分からないところで迷った日には死の危険性もあるので、大人しくしておく。

 子供が居ると同情を買えるのか、おばあが言った通りそこそこ小銭が投げられていく。

 そのたびにおばあが感謝の言葉と礼を返していた。

 

 僕も何もしないのは気まずいのでおばあの真似をして軽くお辞儀をしておいた。




 日が陰り出した頃おばあが腰を上げた。


「いつもより多く集まったから今からご飯を買いに行こうと思うのだけどルノはどうする?飽きたなら先に家のほうに戻っててもいいけど一緒に来るかい?」



 (……え。いや!いやいやいや。そもそも家知らないし3歳児が一人で街中歩くとか無理でしょ!てか、この世界の子供ってそんなにアクティブなの!?僕がおかしいの!?子供いなかったから分からなかっただけで3歳児ってそのくらいやってのけるわけ??)




「や。ぃく!」




 内心驚いたことを顔に出さないようにしてルクは答えた。

 おばあの側を離れたら死が冗談ではなくなってしまう。

 せっかく転生したのに享年3ではあまりにも笑えない。



 おばあの服を掴み、離れないようにして歩いていく。おばあは腰を曲げ杖をつきながらゆっくり歩くので、3歳児の歩幅でも遅れなることなくついていく事が出来た。


 せめていつもの行動範囲だけでも記憶しようと街並みを注意深く見渡しながら歩く。

 身長が低いせいで人の行き来が多いところは中々見通しが悪かったが、高い位置に看板があったりもしたので何とかあの大きな通りからこの商店街までは記憶出来たと思う。



 おばあが連れてきてくれた通りの両脇には様々な露店が並んでいる。ここからだと向こう端が見えないから割と大きな通りだ。

 ゴチャゴチャしていてちょっと見づらいが活気がある。

 よくよく見てみると家の中と外で売ってる物が違うところもある。店員さんらしき人もそれぞれ居るし、別々のお店だろうか。

 確か地球でもそんな売り方をしている地域があった気がする。



「ばあさんいらっしゃい!今日分はもう渡したと思うがどうかしたのか?お、今日はこいつも一緒か」


 おばあが立ち止まった店の熊のようなおっちゃんが元気よく声をかけてきた。

 こんな浮浪者にも隔てなく接してくれるんだな……。

 ちょっと見た目が怖いのでおばあの後ろに隠れながらそんなことを考えていた。

 ただ優しくしてくれるのはこの店主だけのようだ。あまり良い目でみられていないことが周りの視線からわかる。



「今日はルノのおかげで多めに施しを得られてね。あれとそれと……」



 おばあはいくつか商品を頼んでいるようだが聞き慣れない言葉ばかりで何を頼んでいるのかは分からなかった。

 小銭を何枚か店のおっちゃんに渡して品物を受け取る。

 見える限りパンと野菜?と……あとはよくわからなかった。



「ほれ!今日のVIP様にサービスだ!」



 そう言って店のおっちゃんは木の棒を渡してきた。



(何これ。ただの木の棒みたいだけど……まさかここにきて嫌がらせじゃないだろうなぁ。浮浪者だからって木を食べたりしないぞ)



 なぜ木の棒を渡されたのか分からず怪訝な顔をしていると

「なんだ暫く食わんから忘れちまったのか?これはキビスの小枝だ。口に突っ込んで軽く噛んでると甘みがでてくる。小枝だが甘みは暫く感じられるだろうよ。ちびっこのおやつにはぴったりさ!いっぱい食いたきゃ早く大きくなってばあさんの代わりにいっぱい稼ぐこった!」



 なるほど、地球で言うサトウキビみたいなものか。確かに子供のおやつにピッタリかもしれない。そう思って軽く噛むとやや甘みのある汁が口の中に広がった。

 

 ……うん。分かってはいたが甘味を知っている身からすると相当味気ない。



 ふと顔を上げるとおっちゃんがニッコリ笑いかけてきたので

「おっちゃ、あんがと」



 焦ってお礼を述べる。

 危ない、言い忘れるところだった。

 浮浪者と言えど、いや、浮浪者だからこそ礼を欠いてはいけない。

 尖った生き方をしていては今はまだ跳ね除けるだけの力がない。ただただ生きづらくなってしまう。

 そうでなくても、分け隔てなく接してくれるおっちゃんとはこれからも良い関係を築いていきたい。

 感謝の気持ちと言うのはその都度きちんと伝えるに限る。




「ルノ、帰りましょうか」



 おばあが下を向きにっこり笑いかけてきた。



 その優し気な笑みに心が温かくなったのはいいが、考えなくてはいけないことが山積みな気しかしない。

 


 ……まだリスタート可能でしょうか。

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