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異世界転生したから王道を歩みたい  作者: さくろすけ
始まりの街
1/5

知らない天井だけど知ってる展開

 ゆっくりと意識が浮かんでくる。

 目を覚まし周りを見渡すと一面真っ白。果ては靄がかかり地平線まではみえない。

 見えないが、視界を遮るもは一切無く、まるで世界がどこまでも続いているかのように錯覚させられる。


「ここは……」


 未だにぼんやりする思考。億劫に感じつつも直前までの記憶を思い起そうと脳みそを回転させる。


 僕は瀧咲 志真。28歳アルバイター。

 昨日までの記憶は辛うじてある。普通のどこにでもあるありふれた人生を歩む一般人だ。

 波乱万丈からはほど遠い。両親がいてそれなりに愛されていたと思う。

 成績は真ん中より少しいい程度。いじめられることも目立つことも無く学校を卒業。

 会社に就職するも、もう少し自由に使える時間が欲しいと1年で退職。

 アルバイトでお金を稼ぎつつ趣味のアニメや漫画、ゲームを楽しみながらなんとなくダラダラ過ごす日々。


 そう、まさに凡人とは僕のことを言うのだろう。

 通りすがりのAにもBにもなれない、一体どれほどの数字や文字の組み合わせがあれば僕という存在が認識されるのか。


「はぁ」


 答えの出ないような事を考えるのが癖になっているせいで自然に溜息が出る。

 何千何億という人口が居てはその他大勢に認識されるのも当たり前だし、そもそも誰に認識されたいのか、好きな子か?有名人か?それとも未だ見ぬ神なのか。


 いつもの癖でまた答えの出ないような自問自答を繰り返してしまう。



 本人は気付いていないが、そもそもいつもと変わらない行動を取っている時点で本当はおかしい話なのだ。

 見たこともない空間に居て経験したことのない状況に陥っている。

 普段なら慌てる行動こそが通常の行動と言える。

 どう考えても落ち着き過ぎている。




『目が覚めましたね』



 僕は突然の声に少し驚きキョロキョロと周りを見渡した。

 その声はこの空間全体に響き渡るように聞こえてきた。

 誰が発しているのか、どこから発せられているのかは分からなかった。

 

 天からの声と言うのがあるとすればこんな感じなんだろう。

 ただ、女神と言われて連想するような慈しみのある優しい声ではなくどこか機械的な、アナウンスの音声にも似た声だ。


『貴方は本日その生涯を閉じました。精神に影響が出ないよう死の直前の記憶は例外なく全員から消させて頂いております。また、混乱されて話が進まなくなることを避けるため、ここの空間に居る間は興奮に関する伝達情報を一部改変・消去させて頂いております。』



 志真が取り乱すでもなく普段通りに振る舞えたのはこの未知なる作用が原因だったらしい。



 それにしても、死後の世界というのが本当にあったとは驚きだ。僕としては脳みその停止と共に無に帰るものだと思っていた。前世の記憶がある、なんて話を聞いたことはあるが魂と言うものがあるとは到底思えなかった。そんでもってそれがリサイクルされるっていうシステムも信じられない。

 この手の話は答えが出ないにも関わらず遥か昔から現代に至るまで様々な人が議論し、想像してきた永遠のテーマの1つではないだろうか。


 もし死ぬ前に戻れるのなら答えを全世界の人に教えてあげたい。



 もう少しだけ、人生は続いてますよって。



 ―――――――――




 地獄だ天国だと言うのは結局のところ世界の変更。あるいは入れ物の交換。異世界転生も然り。

 死んだら魂は消滅すると思っていたが実はそうではないようだ。


 このあとどんな運命が待っているのか。流石にこの空間にずっといるわけでもないだろう。

 自分以外誰ひとりとしていない。死者がこの空間を訪れるのならばどんなに開けた空間であろうとも目につかないのはおかしな話だ。

 よくある物語のように僕は"神"に"選ばれた"のだろうか。


 どんな選択を迫られるのか。

 昂る気持ちと少しの不安に包まれているぼくに天の声は続けた。




 『死後皆様には選択権が与えられます。

まず第一に他の世界への誕生です。第二に同じ世界への誕生です。第三に消滅です。

 尚、記憶は持ち越し・消去どちらを選んで頂いても構いません。ただし持ち越しにした場合、次の生ではこちらからの"お願い"に定期的に応えて頂く事になります。"お願い"遂行の為、誕生とは言いましたが"行動可能な身体"への新たな誕生を基本とさせて頂いております。こちらで用意させていただく生命体ー構成自体はその世界に沿ったものーに魂を定着させ誕生とさせて頂きます。

 また、遂行には期限が設けてありまして、その期間に遂行出来なかった場合再度この場に戻ってきて頂くこととなります。

 同じ世界への誕生も同様ですが、大きな齟齬が生まれないよう現在よりもそれなりに未来への誕生となります。』



 志真は考える。

とりあえず消滅は無いな。同じ世界への誕生も。未来だと家族がどうこうってレベルの話ではないだろうし、そもそもあまり惹かれない。

 というのも、ゲームに漫画にアニメに小説等広く浅く派ではあったが志真はれっきとしたヲタクと呼ばれる人種だった。

 現実的なものよりもファンタジーな世界観のものを好み、自分を投影しては夢をみていた。

 そう、そして誰もが一度は考えたことがあるであろうことに志真は28歳になった今でも憧れていた。




 一度でいいから異世界転生して世界の主人公になってみたい。




 ―――――――――




「質問なんですけど、他の世界っていうと魔法を使える世界もあるのでしょうか」




 迷わずこの質問をした。実際どこも地球と変わらないのならば地球の未来でもいいし、ランダムでもいい。

そのくらい志真にとっては重要度の高い質問だった。


記憶を持ち越した所で天才になるわけではない。

少しは有利かもしれないが、世界の主人公になる為には圧倒的に抜きん出た何かが必要だ。

志真は新しい可能性を見出したかったし、それを魔法に求めた。



『はい、ございます。元いた世界と同じ技術が発達した世界。別の技術や能力の発達した世界。あるいは皆様の歩んできた世界の別の可能性だった世界。恐らく皆様には想像も及ばぬような世界が無数にございます。その中の1つに誕生して頂きます。』



 何となく理解は出来た。

 実は平行世界ーパラレルワールドーというのが本当に存在していて、この声の主は案内人と言うのわけだ。

 せっかく新しい人生を送るのならば、叶わぬ夢でもあった魔法がある世界への転生をお願いしたい。


 更に言うならばある程度の力を与えて欲しい。

 所謂"チート"と呼ばれる力だ。それを持たないとまた世界に埋もれてしまう。幸せになれるかどうかは別として次の生では個として名を馳せて行きたい。


 とりあえずもう1つ気になることがあったのでそちらを先に尋ねてみた。



「記憶の継承をするとして、そちらの言う"お願い"って言うのは一体どんな内容なんですか。」




ぼくは天の声の説明を聞いた時にとりあえず2つ浮かんだ。

1つは魔法の有無。そして、もう1つがこの"お願い"。

"お願い"が無ければほぼ100%の人が記憶の継承をして次の生に向かうだろう。

世界が無数にあるとしても生命の誕生から永遠に繰り返し記憶の継承が為されているのならば、記憶持ちの人類に出逢ってもおかしくはなかったのではないかと。

 もしくは突出して凄い奴が居てもおかしくはないのでは。それこそ神になるような・・・・・・。


 運良く? 運悪く? 元の世界では出逢わなかったとしても何となくこの条件には嫌な予感しかしない。



『存在する全ての世界の存続、それを円滑に行うのが我々の仕事であり存在理由です。ただし直接の大幅な改変は出来ません。

生命が我々の存在に気づかない程度の範囲でしか影響が与えられないのです。

それこそ破滅を望むものが力を持ったからと言って強制的に止めることは出来ないのです。

そうなればその世界は滅びを待つのみとなります。』




 「・・・・・・なるほど。」


そこで記憶の継承したままの人間に指示を出し、少しでも良い方向へ向かわせるわけだ。

 地球でも公になっていないだけで実は調律者なる人物が暗躍していたのだろうか。

 だが分からないこともある。なぜ期限付きなんだろう。

期限があっては「あともう少しだったのに!」なんてことにもなりかねない。



 それぞれ個人によって解決の早さや質も違うだろう。

「ある組織を潰せ」という任務があったとする。大っぴらに全員皆殺しで粛清する方法もあれば、時間を掛けて内部を侵食していき乗っ取る方法もある。

到達地点は同じだが手段が違う。手段が違えばそれにかかる時間も変わるだろう。

どちらが良いかは好みによるかもしれないが、最適解を求めるならば出来るだけ選択肢は多いに越したことはない。

それを一定の期限を設けてしまったら取れる手段も限られてしまうだろうし、焦りから失敗の誘発にも繋がりかねない。

それに、もう少しで達成という所で死んでしまっては本末転倒な気がする。




「期限を設けてしまっては取れる手段に制限がつく場合もあると思うのですが、変更は可能なのでしょうか。」



 すぐに天の声は返事をする。



『期限は絶対ですが変更は可能です。我々は常に全ての情報を記憶しております。それはわたくしの監視下のみではありません。無数にして個なのです。

もし大幅な期限の改正を望まれる場合にはその方法と必要な期限を書き出し、もしくは呟いて頂きそれが我々の知識の中で"妥当"と判断されましたら改訂が行われます。

期限を設けなければ1つの"お願い"に一生を掛けてしまう可能性も生まれてしまいます。そうなっては軌道修正が手遅れとなる危険性もあります。

なのであらかじめ期限を設けることで危険性を回避することとなっております。』



 言いたいことはわかった。


要はさぼるやつは容赦なく切り捨てるぞってことだ。

 確かに仕事が遅いやつにいつまでも任せているほどその世界の情勢は甘くないのかもしれない。

 もしくは普通に生まれたわけじゃないのに平凡に暮らせると思うなよ、ということだろうか。

 どちらにせよ自由は制限されるわけだ。力の対価としては妥当なのかもしれないがそれでは困る。

 なんといっても僕にはやりたいことがあるのだから。そんな仕事のような転生をしてたまるか。



「分かりました。因みに期限によって死んだ場合もう一度転生は可能なのでしょうか。その際の能力の継承はされるのでしょうか。」



 一度切りのチャンスならば死ぬ気で応えなくてはならなくなるだろう。

 もし、それが最善でなくても。他人を谷底へ貶めることになったとしても……。



『今回同様の転生が可能です。ただし、それが正しい行いをした生であった場合です。

自分の欲求のみによる他人の魂の乖離が行われた場合は即、死が訪れます。

次への記憶の継承はされず転生となります。また、それに準ずる行為も同様の判断となる場合があります。

その辺りの判断は後程我々がさせて頂きます。

能力の継承ですが、転生先で得た能力に関しては次の世界の理に反する可能性がありますので一旦リセットさせて頂きます。』



 地球で言う犯罪者は次への転生は不可能ってことか。


 だが一概に”人殺し”が皆転生不可能となるわけではないようだ。

 消してしまったほうがいい命もあるのだろう。殺さざるを得ない状況もあるだろう。その世界の文化にもよるだろう。


中々判断基準は曖昧なようだ。


 能力のほうはやはりと言うしかない。

 そもそもそんな凄いやつがいるのならそいつを一人投入するだけで事が済んでしまいかねない。

 もしくは反旗を翻される、か。



「好きな世界への転生はありがたいのですが、やはりある程度の力がなければ望むような"運命の改変"とも言える大それた事なんて出来ないと思います。

自慢じゃないですけど天才的な頭脳なんてこれっぽっちも持ち合わせていません。

流石に頭脳の変更は難しいと思いますので、この矮小な存在にそれを補えるだけの能力を授けて頂けないでしょうか。」



 思いつく範囲で丁寧に、そして自分が無能であればあるだけ大きな力を授けてくれると信じて能力のお願いをしてみた。

事実、そこらの一兵を戦争に放り入れられたからといって一騎当千を成し遂げる事なんて十中八九起こりえない。

精々数人葬れば上等、あとは肉壁になるしかないのだ。

一兵に戦況の流れを変化させろと命令したとして、それを期待するだけ無駄であるし、そんなの司令官が無能であるとしか言えない。



『確かに一理あります。わかりました。

ただし、どのような力があれば十分なのかの判断はしかねます。

我々は言うなればシステムであって全智の神では無いのです。過去起こった事象の記憶は全てしておりますが、未来の事象については結局のところ過去からの予測でしかありません。

一度生を授けたあとの能力等の変更は不可能となります。

加えて、過ぎた力も扱う能力が無ければ世界の均衡を壊しかねませんので初期値として授けることは出来ないようになっております。』



「ん?システムって言う事は別に神様がいるのですか。もしくはあなた方を作った存在……?」



 単純に疑問だった。


この声の主は神ではないのは何となく感じていた。

 よく異世界転生する際には神様と会って今のような会話をするのが一般的だ。

 だがこの天の声にはよくある転生時の神様にあるような意思というようなものが無いように感じていた。

 何かのシナリオを読んでいるかのような。実際数ある中の1つの世界が滅んだところで何も変わらないのでは無いかと感じざるを得なかった。


切羽詰まった様子もないので懇願されている感じもない、見下している様子もないし楽しんでいる感じもない。

淡々とただ仕事をこなしているだけな感じがする。



『神、というのはあなた方の世界での言葉を拝借し分かりやすく伝えた結果です。勘違いをさせてしまったのでしたら申し訳ございません。

この世界の創造主、あるいは我々の創造主、全現象を意のまま操る存在など、あなた方の思い浮かべ得る存在を神と言うのでしたら厳密には"神"というのは存在しません。』



 そんなはずはない、と僕は思った。


実際、天の声は自身をシステムのようなものと表現したし、それならば開発者がいるのが当然だ。

そうでないのならば自然発生したことになるが、こんな人智を外れたようなシステムが自然発生するわけがない(と、思う……)。



 この疑問は現段階では答えが出るものでもないので考えるのはまたあとでにしようと思う。


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