放課後
三題噺もどき―ひゃくはちじゅうなな。
お題:メロンソーダ・図書室・もどかしい
日の沈む時間が早くなってきた。
もう既に外は橙に染まっている。
「……」
視界に広がっているのは、我が校の小ぢんまりとした校庭。
その狭い校庭を、なんとなーく半分ぐらいに分けて。2つの部活が動いていた。
「……」
1つは野球部。
彼らはいつも校庭で活動してる。子供らしくもない、男らしい。野太い声が校庭中に響いている。
よくあんな大声がだせるよなぁ…。私じゃぁ、絶対無理だ。声を出すこと自体面倒だと思うのに。そんな奴が“大きな”声なんて。
「……」
もう1つは陸上部のようだ。
たいして人数がいる部活でもないが。今はアップをしているのだろうか。多分この後本格的に色々していくのだろう。詳しいことは知らないので、何とも言えないが。
「……」
今私が居るのが、校舎の3階なものだから、1人1人の表情というのは見えない。誰が誰とかそもそも知らないのもあるが。その上、この明るさだ。
夕方というか、この橙に染まっていくこの時間は。どうも視界がぼやける感覚がある。まぁ、単に目が悪いというのもあるだろうが。それでなくとも、輪郭がぼやけてはっきりとしない。
「……」
―たった1人を除いて。
「……」
校庭にぽつぽつと居る人の中で。
たった1人。
「……」
私の目を惹く人がいる。
たった1人。
「……」
その輪郭が。ぼやけることも。ブレることもなく。
はっきりと。
「……」
何か指示をしているのか、口を開いて声を上げている。指をさして、あっちにこっちに。何を言っているんだろう。さすがに野球部程大きな声ではないから、ここまでは聞こえない。できることなら、もう少し近くに行きたいものだ。
「……」
動きやすいようにか、ラフなジャージ姿である。
この部活の時間にしか見られない姿だ。普段はもちろん、きっちりと着ているから。
その姿もその姿で、好きなのだが。その、きっちりとした格好と比べて、今のジャージ姿は、ほんの少しぬけている感というか、なんというか。何とも云われぬ可愛さがあって。
見ていて飽きないのだ。
「……」
何回見ても。
―いいなぁ。
なんてことを思ってしまう。
「……」
ここ最近。ずっとこうしているはずなのに。
「……」
何回見ても。何度見ても。
毎日見ても。
「……」
そんな風に思えるのだから。
この心はなんというか。
「……」
校舎の3階。
その端にある。
図書室。
「……」
ここから毎日見ている。
「……」
元々、放課後に1人で勉強するために利用していたのだが。最近ではすっかり、あの人を見るために来ているみたいになっていて。
「……」
校庭に面しているこの校舎。
時間によっては日が直接入ってくるから、こんな所に図書室…と思いはしたが。ま、ちゃんとそれなりの対策はしているようだし。私には正直関係ないし。
―それよりも。
今は、あの人のことで頭がいっぱいだし。
「……」
机に肘をついて。手のひらに顎を乗せて。
眩しい光に耐えながら。
校庭に立つあの人を眺める。
「……」
申し訳程度に開かれたノートは、何も書かれていない。
「……」
もう片方の手は。手持ち無沙汰に。
いつの間にか、筆箱にかかるキーホルダーを無意識にいじっていた。
「……」
大き目のメロンソーダを模したもの。
緑が綺麗でかわいくて。お気に入り。
―あの人の好物。
「……」
チェーンがこすれ、カチャリと音がした。
図書室の奥の方にいるから、たいして響きはしていないと思うが。
人がいないせいもあってか、想っていた以上の大きさをもって耳に届く。
そのタイミングで、無意識に触っていたことに気づき。なんとなく、触るのをやめた。
「……」
シンとした空気が広がる。
その中で1人。
あの人をじっと見つめる。
「……」
ただ見つめている。
「……」
私は。
この時間が。
この瞬間が。
好きなのだ。
「……」
もどかしい思いに苛まれている。
この瞬間が。
「……」
ただこうやって。
遠くから見つめるだけで。
それだけ。