アカウミガメの産卵
初めて、アカウミガメの産卵に出会った。波打ち際から十五メートルぐらいの砂
浜だ。
しばらくして別の散歩人がやって来た。
「さっきと同じだ」
二十分ほど前にここを通って、引き返してきたのだという。
「おい、どうした」
一声あげて、散歩人は甲羅の尻を持ち上げた。
「産んでる」
砂浜に膝をついた散歩人の肩越しに、砂まみれの白色のアカウミガメの卵が、二、三個見える。
「ほら。海へ帰れよ」
カメは力無く後ろ足を動かしている。産卵穴に砂をかける仕草だ。
「かけてやったが」
翌朝、散歩人は波打ち際の昨日の産卵穴を移植ゴテで掘っていた。
「ここじゃ、波に洗われる」
コンビニのビニール袋に四、五十個の卵がぼんやりと光っている。
波打ち際から三十メートルほど離れた、砂防ブロックの下に新たな穴を掘っていた。
「一つ二つ…」
五十個を超えたところで、残りをいっぺんに砂の穴に落とし込んだ。
二人は黙って、別々に歩き出した。そこは浜昼顔のお花畑の真ん中だった。