第2話
「ところでさ、ウィアさん」
「なんだ」
「……ここって、どこ?」
そう。
なんか図書室っぽいけど本が浮いてたりする異世界空間っぽいこの場所がどこなのか、オレにはさっぱりわからないのだ。
……いや、ウィアさんが居るという点で、推測できるものはあるけど。それだって母さんから聞いただけの不確かなものだし。
風香におやすみーって手を振って、自分の部屋に戻って布団をかぶって目を閉じたところでオレの記憶は途切れている。
つまり、なんでここに居るのかさっぱりわかんないのだ。大事なことだから二回言った。
「ここはヒョウ様がかつて眠っていた砦の一室で、書斎として使っている部屋だな」
「砦」
「ああ」
「霊峰の中腹でひっそり隠されてるっていう、あの砦?」
「その砦だ」
やっぱり完全に異世界じゃんどうやって帰ろう……。お父さん迎えに来てくれるかな……。
途方にくれたのが顔に出ていたのか、ウィアさんは「帰りたいか?」と聞いて来た。
「うん、帰りたい」
「……なら、一晩経てば帰れると思うぞ」
「え?」
彼女がつっかえつっかえ、あまり説明は上手く無いんだ、とぼやきながらも説明してくれたところによると。
オレは今、幽体離脱のような状態でこちらの世界に来ているらしい。
眠っている間にこちらの世界に来てしまった、ということで……肉体は普通に、ベッドで寝ているだろう、と。
だから、肉体が目覚める……朝になったら、自然と帰れるだろう、と。
目が覚めなくても、父さんか風香が起こしに来そうだしね……時奈(妹)ならともかく、風香はあんまり起きないとぐわんぐわん体を揺らして起こしてくる。
「じゃあ、あっちが朝になるまで、お世話になります」
そう言って頭を下げると、ウィアさんはうっ、と呻いて。
「いや、そうなるか……そうだよな……」
「ダメ、かな?」
「いやっ、なんでもない! 構わないぞ!」
ぶつぶつ呟く姿に「もしかして乗り気じゃないのかな?」と思って首を傾げてみると、ウィアさんは顔を赤くしてぶんぶん首を振って。
……失礼だけど、もしかしてこの人、案外ちょろい?
オレの顔が良い方なのは自覚してるし、かっこよく、もしくは可愛く見せる方法も知っているけど……こんなに効果抜群なのは初めてな気がする。
■
一晩明けて。
「ねえウィアさん」
「なんだ?」
出会ってすぐの時よりも幾分か柔らかくなった声音に嬉しくなりながら、オレはにこ、と彼女に笑いかけて。
「好きです」
「ああそうか…………待て、今なんて言った?」
がばっと顔をあげたウィアさんに、蕩けるような笑顔を向ける。
「もちろん、お嫁さんにしたいって意味の大好きだよ?」
「は???」
「大人になったら絶対迎えに来るから、それまで待っててくださいね、ウィアさん」
ダメ押しで、ちゅ、とウィアさんの頬に口づける。
唇は無断で奪っちゃいけないからね。いや、頬だってダメだと思うけど。
……我ながら気障なことをしてるなあ、ほんと。
目を見開いているウィアさんの顔を至近距離で堪能して、にっこりと笑って。
ふ……と、意識が溶けていくのを感じた。
目覚める時間になったのだ。
またね、と言おうとしたけれど、それが言葉になったかはわからない。
でも……。
「はあああああああ!?」
そんな絶叫の声が、遠くから聞こえた気がした。
補足コーナー
・アルヴィレの顔面偏差値
姉も美少女、両親も整っている方なので顔が良いのは確か。
しかし、それ以上にひたすらにウィアの好みドストライクだったようです。