第1話
始めまして、こんにちは。
オレは空澄アルヴィレ。
こんな名前だけどれっきとした日本育ちの日本人で、異能は持ってないけど魔法は使えるちょっと特殊な家の生まれ。
氷の賢者と光の勇者の息子って言ったら、分かるかな?
どんな中二病かって言われそうだけど……事実なんだよね。
母さんはしょっちゅう異世界に召喚される人で、父さんはイキイキと彼女をサポートしている参謀。だから勇者と賢者。
……そんなオレが、今なにをしているかと言うと。
「な、何者だ!?」
「いやおねーさんこそ何者!?」
耳が尖ってるけど髪は緑色な……たぶん母さんが前に話してくれてた異世界の住人とエンカウント中です!
なんでこうなった!
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じりじりと間合いを図り、緊迫した空気が流れ。
これはいけない、とオレは口を開いた。
「あー、おねーさん」
「なんだ」
「とりあえず自己紹介しよ! だから物騒な空気しまって! オレの名前は空澄アルヴィレっていうんだけど……」
そう言って名乗ったのは、母さんたちの知り合いならこの苗字に反応してくれないかなーという打算あってのこと。
空が澄むって書いてみすみって読む、なんて苗字、珍しいからね。異世界でも珍しかったみたいだからね。
そんな計算が功を奏したのか、オレの名前を聞いた途端、(推定)エルフさんの纏う空気が一気に変わった。
「ミスミ……ということはヒョウ様とヒカル様の?」
「あ、うん。空澄光だったらうちの男前な母さんだけど」
あと、雹……旧姓雪川雹は、オレの父さんである。
「雪川光より空澄雹の方がいい」とか言って空澄家に婿入りした人なので、今は空澄姓だ。
「……あの方、母親とか出来てるのか? いや私も人のことは言えないが」
「オレも風香……あ、1歳上の姉さんね……も、母さんのことも父さんのことも大好きだけど……まあ、世の母親らしいことをしてるのは父さんかも」
「想像に容易い……」
母さんはねー……。
一人称こそ「私」と直した(と聞いた)けど、口調と言い、微妙に脳筋な考え方と言い、すごい男らしいんだよね。
あと、ズボン姿で父さんと並んでると男性同士のカップルにしか見えない。
父さんは逆に家事が得意で陰湿……じゃなくて、ええと……頭脳派タイプだから、普段のふたりを知るオレら子供たちなんかは「男女逆転カップルってこんな感じなのかな」なんて思って見ているのだけれど。
この反応的に、やっぱりこの人、母さんと父さんの知り合いなんだなあ。
エルフで、緑色の髪で、男装してる人となると……。
「ね、おねーさん」
「ん?」
「おねーさんは「ウィアさん」で合ってる?」
「ああ、確かに私はウィンカシュア・ヴァンリーベだが……ヒカル様に聞いたのか?」
「うん。ちっちゃいころに、母さんと父さんが色々話してくれたから」
そっか。この人が、ウィアさんなんだ。
「……?」
途切れた会話に不思議そうな顔をするウィアさんに、なんでもない、と手を振って。
――その時点で、もうオレの心は決まっていた。