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            *


 昨日も遅くまで警察に詰問されて、家に帰ったら十一時を回っていた。殴られたり小突かれたりした所の痛みを堪えながら、家の扉を開けると親父が待っていた。

 親父は、俺の前に立って、呼びつけたんだ。疲れ果ててた俺は何も考えずに呼ばれるままにリビングに入った。そしてソファに座らされた。

「真吾。どういうことなのか、説明してくれ。毎日毎日、警察が来て、こんな遅くまで何を話してるんだ」

 聞いたこともないような親父の声だった。こんなに穏やかな親父の声を聞いたのは、初めてだった。

 俺は、その時初めて親父に助けて欲しいと思った。それまでは、親父も、どうせ警察の味方だと思ってた。大人なんて、みんな同じだと、そう思ってた。だけど、その時は、助けてくれるのは、もう親父しかいないと思ったんだ。

 だけど、だめだった。

「真吾、悪いことしてるなら、お父さんは怒らない。話してくれ」

あ、と思った瞬間、親父も俺を疑っているとわかったんだ。親父は、親父の目は、疑っていた、俺が、犯罪を犯していると。

 もう誰も信用できないと思った時、俺は叫んでいた。何言ったかなんか、覚えてない。ただ、わめいて叫び散らして、お袋や妹のいる前で怒鳴り立てて、自分の部屋に戻ったんだ。そのまま、鍵を掛けて、ベッドにもぐり込んだ。泣いてた。泣けてきた。もう、誰も信用できないんだ。


            *


 俯いている石川君の身体は震え、嗚咽が漏れてきた。

「悔しいよ……」

誰も、信用してくれないんだ。……俺、ワルか?ちょっと、イキがってるだけだろ。ちょっと、学校サボったことがあるくらいじゃないか。それだけで、どうして犯人扱いされるんだ?どうして、みんな、俺を苛めるんだ?

 あたしは、何も答えられず、ただ、立ち尽くしていた。

 降り注ぐ太陽の光は暑いはずなのに、何も感じることができなかった。

 温度も質感も何にもない光の束が、スポットライトのように、いま、石川君を際立たせている錯覚を覚えた。

 突然、暗転して、何もかも消えてなくなってしまうような錯覚すら感じてしまう。

 「……ちくしょう」

石川君の言葉があたしたちを現実に引き戻してくれた。耳に列車の通過する音が届いてくる。全身が太陽を感じる。あたしはあたしを取り戻すことができた。

 隣のブランコに腰掛ける。ギィと音を立てて鎖が軋む。わざと音を立ててみる。ギィギィ。ノスタルジックなその音にあたしはリラックスしていた。

 ゆっくりと揺する。キィキィ。ブランコは軋みながら前後に揺れる。キィキィ。単調なリズムで軋む。

「石川君…」

問い掛けてみる。返事はない。でも、聞いている、と信じている。

「やっぱり、帰ろう…。近藤君がいなくても関係ないよ。石川君は、帰ろう。無実だって、胸を張って帰ろう」

「松原さん……」

小さな声が返ってきた。

「帰ろうよ。辛いかもしれないけど、帰ろう。……帰らなかったら、もっと辛くなるよ」

「……うん」

強い陽射しに消されてしまいそうな、小さな声だったけれど、はっきりと聞こえた。

「石川君の家って、夕雲町だったっけ?」

「…んん、もうちょっと向こう、東上岡町」

「行こう。ね」


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