白いページの中に-4
あたしはもう何も言えなかった。石川君は、泣いている?俯いたその顔は見えない。でも、その声はくぐもっていて、泣いているように聞こえる。
声を掛けようとして、掛けるべき言葉がないことに気づいた。本来なら守ってくれるはずの警察が、彼を疑っている。両親も。
あたしは?
小さくブランコが悲鳴を上げている。声にならない彼の嗚咽のように。
あたしは、いま、彼を信じているのだろうか?
空はまだ明るい。これから彼はどうするのだろう。迷いがブランコをキィキィ言わせている。
「ね、もう一度、警察に言ってみようよ。自分じゃないって」
重い気分を振り払うように明るく言ってみた。けれど次第に作り笑顔が消えてしまった。それほどまでに、ゆっくりと上げた彼の顔は、蒼白だった。彼は無言で首を振った。それから、ふっと顔を背けると立ち上がった。そして、じゃあ、と言いながら去って行った。
力なくふらふらと歩いて行くその後ろ姿に、何も言えず、彼の姿が視界に消えてしまってからも、あたしは動くことができなかった。
*
翌日も、石川君のあの姿が忘れられなかった。
ぼんやりとしていたあたしは、どの授業でも叱られた。
昼休みになっても食欲がなく、みんなとお弁当を囲みながらも食べることはできなかった。そんな様子を気づいた明ちゃんが、
「深幸ちゃん、今日は元気ないね」と問い掛けてくれた。あたしは、笑顔で応えながら、それでも食べることはできず、お弁当のふたを閉じた。
「もう食べないの?」
「ん。あんまり、食欲ないの」
「どうしたの?」
「ん。別に……」
「今日はずっとぼぉっとしてるじゃない」
隣の美枝ちゃんが心配して訊いてくれた。
「ん。ちょっとね」
そう言いながら、美枝ちゃんが去年も同じクラスなのを思い出した。
「ね、美枝ちゃん」
「なに?」
「あのね、……石川君って覚えてる?」