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白いページの中に-1


         白いページの中に


 某月某日―――晴。


 レースのカーテンが翻っている。

 反射する陽射しが、きらびやかなスペクトルを演出する。

 耳を傾けていたメロディー。静かに翻るカーテンとハーモニーを奏でている。鮮明なきらめきが室内を映えさせる。

 頬杖をやめて、ふと窓に目を向ける。白く、乱反射して輝くレースは、室内に引き籠もっている深幸にも、皓々と輝く太陽を連想させる。

 陽射しの中で輝いている埃を見つめる。白く、そして、琥珀色に輝いている。屋内を照らしながら、きらきらと舞い踊っている。

 ふぅっと、ため息を吐く。

 時間の経つことが、まるで嘘のように遅いことに、もどかしさを感じながら。



          * * *



 陽に照らされたアスファルトは、反射して白く輝いている。眩しさに目を細めながら、帰途を辿っていると、道路沿いの木々の緑は強いコントラストとなって、黒い影に見えてしまう。

 自動車が疾走していく。舞い上がる土埃を手で払い、つい立ち止まる。

 夏も近い。

 列車の通過した踏み切りを越える。子供の自転車が追い抜いていく、楽しそうな声を上げながら。

 角を曲がるとため池が見えた。そこに、さっき、踏み切りで追い抜いていった子供たちが、釣り竿を振りながら騒いでいる。漂ってくる水の香りに、懐かしさを感じる。

 池の横を通り抜けて、公園の前に差しかかると、一人の少年がブランコに座っているのを見つけた。小さな公園。ブランコと砂場と、小さな鉄棒と、土に埋め込まれたタイヤだけ。学生服姿の中学生は、そんな場所のブランコには似つかわしくなくて、つい目を向けてしまった。少年は、俯いたまま、ゆっくりと揺れている。その様子が気に掛かってちょっと覗き込んだ、その瞬間、足を止めてしまっていた。見覚えのある顔だった。

 ゆっくりと近づくと、少し離れた所に立って様子を伺った。少年は、何度か揺られて、そして、ようやく気づいて顔を上げた。

「こんにちは。石川君」

「あぁ、松原さん…」

やっぱり、去年同じクラスだった石川君だった。

「どうしたの、こんなとこで」

「ん……。ちょっとね」

「ブランコ好きなの?」

少しからかうつもりで訊ねてみたが、反応がない。全く元気がない。

「どうしたの?」

「ん……」

生返事だけが返ってくる。ためらいながら、隣のブランコに腰掛けた。

 そんなに仲が良かった訳でもない。隣の席になったことがある。美術の時同じグループになったことがある。その程度、だけど、あまりに生気のない姿が気にかかる。

「……なにか、あったの?」

ためらいながら訊ねてみる。石川君はブランコをキィキィ言わせながら、揺れている。あたしはそれ以上訊ねることもできず、ブランコを揺すってみた。

 古びたブランコは錆びついていて、鈍い音でキィキィ言っている。それが、妙に懐かしい。見上げて見ると、金具は動く部分だけ磨かれて黒光りしている。その上の空は、光のさざめきに覆われて、白く輝いている。


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