03 求婚の理由
人生初のプロポーズは、見事にスノーリアを混乱させた。
これがまだ夜会であったなら…いや、夜会でもいきなり求婚はないだろう、と世間知らずなりに判断を下す。
結婚を前提にお付き合いをしていただけませんか?ならあるだろうとはわかる。
しかし今は夜会でもなければ交際希望でもなかった。
色々すっ飛ばして、間違いなくわかりやすいほどのプロポーズだった。
もしかしたら、世間知らずな自分をからかっているのだろうか?
あまりに唐突な状況に、いたずらである可能性に思い至り、それだ!と内心で納得する。
そんな思考に陥っているとは知らず、ひたすら固まる少女に、顔を上げた青年は気まずそうに視線を泳がせた。
「…その、淑女の顔に傷を負わせた、その責任をとらせてほしいのです」
アシュエルは繋いだ手に、ほんの少しだけ力を入れた。
さ迷わせていた視線を真っ直ぐにスノーリアに向け、真剣な面持ちで、年下の少女をからかっているようには見えない。
告げられた台詞は、真摯な響きがあった。
ようやく求婚の理由が判明し、スノーリアはパチパチと瞳を瞬かせた。
この年上の男性は随分と生真面目な性質らしい。
無意識に空いている方の手で、今しがたついた傷に触れる。
多少血は出たが、さして深くもない傷だ。
このくらいの引っ掻き傷なら、一月もかからず跡も残らず治るだろう。
そんな責任を負わせる程の怪我ではない。
それに何より。
「それなら大丈夫です。自分で治しますから」
スノーリアはにっこり笑って、治癒魔法を発動させると、一瞬で傷は綺麗さっぱり消え去った。
宮廷治癒術師。それがスノーリアの王宮での地位である。