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第6章 そして帰り道

「それで、結局何だったんだ」

 飲み過ぎの頭と寝不足を抱えて後部座席に転がる新也へ、藤崎は声をかけた。

 新也は機嫌が悪い。

 あんな目にあったのだから当然とも言えた。昨夜の出来事を、藤崎に話しつつの宿からの帰り道だった。

「分かりませんよ、正体なんて」

 憮然と返す新也に何にも遭遇できなかった藤崎は不思議顔だ。

「推測くらいできるだろう」

 ほら、と何度も水を差し向けられて、しょうが無しと、新也は答えた。

「……化けてたと、思います」

「え?」

 藤崎は勢い聞き返す。

「だから、化けてたんだと思います。僕が見たのは一つ目でしたけど……多分、いろんなものに化けられるなにかですよ」

「狸や……狐の仲間だってのか?」

「分かりません」

 そうだとしたら、驚いたこと自体にも腹が立つと新也は返す。

「妖怪か、動物か……人を驚かして遊んでいるんです。だからお礼に、アレが出る年は旅館の売上が上がるんでしょう?」

 新也は今朝、女将に聞いた話を持ち出した。

 新也は不思議だったのだ。

 お祓いをちょっとすれば出現しなくなる程度のもの。なぜ完全に払ってしまわないのか。出来ないのか、しないのか。

 女将はバツが悪そうに、小声で真相を教えてくれた。信じているわけではないけれど、アレが出る年はお客様の予約が増えるんですと。

 藤崎が笑う。

「そうだな。今年もお前が入れたおかげで、自由に中にも入って遊べるようになった。これで、ますます繁盛するぞあの旅館」

 良いことをしたなと更に藤崎が笑うので、新也は頭から上着を被ってふて寝をした。


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