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第5章 尋ねてくる

 その晩のことだ。

 新也はひどく寒いので目を覚ました。

 目を開けると、自身は何と畳の上で寝ている。

 夜、食事前に引いたはずのカーテンが全開になっていた。

 そのせいで部屋の中は薄暗いものの、外の街灯の明かりか月の光が障子を通して薄く室内を照らしている。

 自分が布団へ入ったところまでは覚えていた。

 新也は思わず起き上がり、自身は寝相がそんなに悪かっただろうかと周囲を見回す。

 布団はちゃんと1式、部屋の隅に畳んで置かれていた。

 さらに目を凝らすと、藤崎は問題なく自身の布団で寝ているようだった。寝息が深い。

 しかし、何やら人の気配がした。

 クスクスと忍び笑うような声が耳元で聞こえる気がする。

 しんとした夜の冷えた空気の中、忍び笑いが空間を揺らす。

 と、水の匂いがした。

 川の匂いと言っても良いかもしれない。苔むした岩が転がる、川底の匂い。思い起こされるのはそんなイメージだ。

 同時に小さくひた、ひた、ひた、と庭を歩く音がした。

 裸足だ。裸足の……子供?

 土を踏み、草を踏み、砂利を踏んで少し立ち止まる。そして、石段をひたっと一歩登る。両手をついて、縁側へ体を持ち上げる様子がリアルに思い起こされた。

 見てはいけない。

 そう思うのに、新也の体は勝手に縁側へと動いていた。

 藤崎の布団を迂回し、障子に手をかける。耳元で笑う声は一層大きくなり、そして今や数人に増えている。

(あけて……)

 外から声が聞こえる。ゆらりと影が障子に映っていた。

(ここを、あけて)

 幼い声だ。声変わりをしていない、小学生くらいだろうか……少年の声。

 新也はゆっくりと障子にかけた指に力を込める。

 ぐっと引き開ける。

 そこには、四つん這いの和服を来た少年がいた。

 こちらをぎょろっとした一つ目が見つめる。

 少年の顔面には目と口しかなかった。

 手のひらほどもある一つ目が、月の光の下でニタァッと笑みの形に崩れる。

(……ありがとう)

 礼をいう唇が少年の耳元まで裂け上がる。

 そこには鋭く、形が不揃いの牙が大小光り、まるで魚の口腔のようだった。赤い血の色の口の中を見せて、唇を大きく開く。

 一つ目が言った。

「イタダキマス」

 そこで叫んで、新也は目が覚めた。


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