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2・隣町へ向かいます


 今回、私が提示したのはミトンのような手袋です。


チュートリアル代わりの学校を卒業した折に、選択でもらえる記念品の中に商人用の基本的なレシピがありました。


 このミトンはそのレシピで作れる物の一つで、材料も町の外で採集したり、AIキャラクターの店から安く手に入れられます。


材料とレシピを選択し、魔法を使う時の魔力のように、行動力という数値を消費してポチるだけ。


防御力はプラス1程度ですが様々な色を付けることが出来るんです。


基本の青、赤、黄、白、黒色のミトンをニージェさんに見えるように露店販売してみます。


「ニージェさんのお好きな色にしますよ」


実はお使いクエストで色々な染料を集めることが出来ました。


それを使ってみたかったんです。


今日の彼女の服はピンクです。


それに合わせてあげましょう。


 白と赤の染料を合成してピンクを作り、ミトンとそれを選択してポチると色が変わります。


ピンクのミトンをフレンド機能で送付しました。


「いいの?。 うわあ、かわいい」


彼女はさっそく装備してうれしそうに眺めています。


どんな時も女性の笑顔は心が癒されますね。


私自身はそんなかわいい女性の内に入れる気はしませんが。




 まだレベルが低いので、このミトンはごく普通の品です。


「ううん。 本当はこういうのが好きなの。


でも、ピンクなんて『ゲーム攻略に関係ないだろ』ってお友達に言われちゃうから」


ニージェさんはお友達と一緒に、ある商会に所属しています。


商会とは、ゲーム上での仲間というか、何人かで一つのグループを作って相互に助け合う組織です。


そこにはゲーム攻略の最前線にいるガチ勢というのがいまして、彼らにとってオシャレというのは無駄なものらしいです。


 しかし、このゲームでは必ずしも戦闘をする必要はないんですよ。


遠回りでも安全な道を選んだり、優秀な護衛を雇うことも出来ます。


ここは単に『異世界を旅する』ゲームなんですから。




「うれしいっ。 大切にしますね」


ニージェさんが微笑んでくれます。


「いえいえ、安物ですから。 壊れたら、また作りますよ」


このゲームの装備には耐久という数値があります。


戦闘や長旅で消耗すると壊れて無くなってしまうのです。


「大丈夫です。 町の外に出る時はちゃんと鞄の中にしまっておきますから」


真剣な顔で言われれ、私はうれしくなりました。


また作ってあげたくなりますね。


 ニージェさんも学生だそうで、これからアルバイトだと言ってログアウトしていきました。


私は手を振ってお見送りです。


「さて、今日は何をしようかな」


気が付けば、私はほぼ毎日来ています。


うーん、そんなにゲーム好きってわけじゃないのになあ。




 露店を出したまま、これからの行動を考えていると、ピコンと販売していたものが売れた音がしました。


「あ、ありがとうございます」


ぼーっとしていて、お礼を言うのが遅れました。


顔を上げるとそこにいたのは皮鎧を着た大柄な男性と、商人風の小柄な男性でした。


「手袋か。 珍しいな」


「もっと北の地方じゃないと手に入らないと思ってたが、お土産にちょうどいい」


二人の会話が聞こえてきます。


このゲームの中はAIで動いているキャラクターとプレイヤーのアバターがいますが、すぐには区別が出来ません。


「この人はあっちの人かな?」


「いや、こっち側だろう」


立ち去る二人の男性の会話は、微妙だけど私のことだったのでしょうか?。




 何がどっちだろうと思いながら客を見送っていると、またピコンと音がしました。


「お買い上げ、ありがとうございます」


今度はちゃんとタイミングに合わせて微笑みます。


「いや、礼なんていいけどさ。 君も大変だねえ。


こんな物、たいして儲けにならんだろ」


少し年上のプレイヤーでしょうか。


商人風で、レベルはかなり高そうです。


「初心者でしょ。 良かったらうちの商会に来ない?」


商会の勧誘だったようです。


「いえ、大丈夫です」


笑顔が少し強張りましたが、がんばってお断りします。




 ここがゲームの最初の町なので、初心者は他の町より多いです。


スキル上げや資金集めに奔走している姿を良く目にします。


まあ、私もその一人ですが。


「商会に入ればこんな苦労しなくていいんだよ?」


商会では初心者支援でお金を借りられたり、アイテムなどを安く入手出来ます。


それが助け合いなんだそうで。


 私は苦労するのは当たり前だと思っていますから、援助の押し売りはいりません。


「ごめんなさい。 一人で気楽にやりたいので」


「あ、そ」


相手は「チッ」と舌打ちが聞こえそうな顔で離れて行きました。


ふう。


こんな時、女性のアバターだとかなりしつこく付き纏われるみたいです。


「(ここでは)男性でよかった」


私は胸を撫で下ろし、さっさと移動することにしました。


 このゲームに参加出来る年齢制限が十八歳以上なので、皆んな大人のはずです。


それなのに大人げない者は何処にでもいますね。




 リアルの時間では夜の七時ごろでしょうか。


少しずつ町に人が増えてきたように思います。


 私は次の町へ向かう馬車の切符をすでに入手していました。


少しお高いのですが、それもゲームの要素の一つです。


それくらいの金額を稼げるようにならなければ次の町へは進めない、ということでしょう。


 広場の隅にある停車場に向かいます。


御者さんに声をかけ、切符を見せました。


馬車は相乗りです。


御者さんは六人乗りの箱馬車の扉を開けてくれました。


 停車場のある広場は、この時間は商会勧誘が激しくなります。


出発までまだ時間はありますが馬車の中に身を隠しておきましょう。




「お邪魔します」


次に入って来たのは商人風の若い女性の二人連れでした。


私はニコリと微笑むだけに留めます。


見ず知らずの男性から馴れ馴れしくされるのは、女性にとっては嫌なものですから。 


 静かに時が過ぎて行きます。


間も無く発車の時刻になって、バタバタと駆け込むように男性の三人連れが入って来ました。


「お嬢さんたちはどちらへ?」


挨拶もそこそこに三人連れの内の一人、太った体格の男性が彼女たちに話しかけます。


この馬車は隣町行きです。


他はどこも寄らないので分かり切っているはずなんですが、彼らは話すきっかけが欲しかったのでしょう。




 女性たちは顔を見合わせます。


「隣町です」


「いやいや、だからさ。 その後を聞いてるんだけど」


不躾に聞いてきたのは皮鎧を着た男性でした。


戦闘職なのか、三人連れは皆んな鎧を着ていて、真新しい皮鎧の男性はまだ若そうです。


女性たちが顔を顰めたのを見て、今度は無精髭を生やした男性が口を開きました。


「失礼した。


目的地が俺たちと一緒ならいいなと思っただけだ。


俺たちは見ての通り戦闘レベルが高いし、護衛になるよ」


何だかニヤニヤしていて気持ち悪いというのが私の印象です。


 馬車は出発したばかりで、隣町まではまだまだ時間がかかります。


「いえ、結構です。 隣町の停車場まで知り合いが迎えに来ていますから」


女性たちは身を寄せ、男たちを見ないように視線をそらしました。


「そうかい」


残念そうに髭の男性が答え、皮鎧の男性が明らかに不機嫌な顔をしています。


あれ?、これ、なんか嫌な感じがしますね。


これ以上、彼らが女性たちに絡むのであれば何とかしなくてはなりません。


私は(見かけだけでも)男性ですから。



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