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13・鉱山の町に着きました


 警戒をしなかったわけではありません。


死んだら死んだ時だと、半分諦めました。


だけど落ち着かないので、早めにトイレと水分補給を済ませて戻ります。


「ただいま戻りました」


ぼんやりと空を見上げていたアキレスさんは笑顔で応えてくれました。


「もっとゆっくりしてても良かったのに」


「いえ、ありがとうございました」


ゲームのアラームがやばいことになってたので、正直、助かりました。


「やっぱりあんた、プレイヤーか」


「そういうあなたもですね」


野営をする人間は地元民でも珍しいそうです。


「初心者なんで、十分に準備しないまま町を出てしまって」


そんな話をするとアキレスさんは笑い出します。


「あはは、こんなところでプレイヤーに会うのも珍しいが、そんなドジな奴を見るのも久しぶりだ」


このゲームは始まって五年くらいだと聞いています。


最初のころは私のような人も多かったんでしょうね。




 長くゲームをしているらしい彼から旅の注意をいくつか聞きました。


「ま、今後は気をつけるこった」


「はい」


 草原の地平線が白み始めると、アキレスさんは立ち上がります。


「楽しかったよ。 またどこかで」


「ええ、また」


アキレスさんが草むらに入って姿が消えると、馬を呼ぶ口笛が聞こえました。


そのまま馬の走る音が遠ざかって行きます。


 明るくなって容姿がはっきりすると彼の印象は変わりました。


銀色に見えた髪はきれいな白髪で、肌はサーファーのように焼けています。


釣り目気味な目が深い赤で、薄い唇がイケメンなのに悪っぽい。


一見怖い感じなのに、子供の様に甘いモノが好きなところが面白かったです。


親戚のおじさんのように色々とためになる話もしてくれました。


また会いたいと思わせる人でした。




 さて、テテのためにもがんばって町を目指します。


街道を外れるわけにはいかないので、まっすぐ走るだけなんですけどね。


しばらくして、何とか町が見えてきました。


無事に到着し、すぐに宿を探してテテを休ませます。


世話を頼み、自分は宿の食堂で軽く食事を摂りながら情報収集です。


「鉱石を探してるなら商工会で訊くのが一番いいよ」


「いやいや、買うなら工房のほうが安い」


この町で個人でも売ってもらえる工房を教えてもらって向かいます。


「ごめんください」


「ふぉああい」


大きな倉庫のような工房の奥から、大柄なおじさんが出て来ました。


山から切り出した岩から鉱石をり分けたり、大きなものを運びやすく加工する工房だそうです。


工房の中では作業音が響いてうるさいので売店のほうに移動します。




「ほお、宝石屑が欲しいのか」


おじさんは顎の髭をなでながら私の話を聞いてくれます。


「ええ、多くは買えませんが」


「ふむ」


店の隅にあるテーブルに座っていましたが、おじさんは立ち上がって大きな箱を持ってきました。


「この中にあるやつでよければ売ってやってもいい」


砕けたものなど、使えない鉱石を工芸品などにするために業者が買い取っていく箱らしいです。


「お客さんが欲しいものがあればだが」


「ありがとうございます。では見せていただいてもよろしいでしょうか」


おじさんは頷いて、使用人に「お茶を持って来い」と怒鳴りました。


「ゆっくり見てて構わん。 わしは仕事があるから、あとはこの小僧に言いつけてくれ」


お茶を運んで来た少年の頭をぐらんぐらんと撫でまわします。


「はい、よろしくお願いします」


私は少年に頭を下げ、さっそく箱の中身を確認し始めました。




 大きな箱の中には、また箱がいくつか入っていて、種類ごとに分けられていました。


「うーん、宝石屑といっても色々あるんだな」


私が独り言を呟きながら見ていると、少年は向かいの椅子にちょこんと座ります。


「お茶をどうぞ」


「うん、ありがと」


「お茶をどうぞ」


「あ、はい」


お茶を飲まないとダメらしく、 私が一口飲むまで続きました。


「あ、冷たいですね」


この世界では常温か熱い飲み物が多いので、冷たいのは珍しいのです。


少年はうれしそうに微笑みました。


「うん、俺、魔法得意」


「なるほど」


彼はこれが自慢したくて私にお茶をしつこく勧めていたんですね。


にっこり笑って飲み干します。


「ありがとう、美味しかったよ」


そして、私は少年に色々と石のことを訊きながら商品知識を蓄えていきます。




「おい、もう夕方だぞ、何してる」


おじさんが工房から戻って来ました。


「ああ、すみません。 もうそんな時間ですか」


半日以上経っていました。


私はお腹が空かないので大丈夫ですが、少年が少し目をぐるぐるしています。


「ごめんごめん、お腹空いたよね。


じゃあ、これだけお願いします」


私は染料になりそうな美しい色の欠片かけらを選び、箱から取り出してあります。


「出来れば細かく砕いて欲しいのですが」


というと不思議そうな顔をされました。


「お客さんも工芸師かい?」


「いいえ、裁縫人見習いです。 染料に使いたいので」


「そうかい。 まあいいだろう。


じゃ、明日の昼ごろにもう一度来てくれ」


私は頭を下げ、少年にも手を振って店を出ました。




 翌日、約束通りに店に伺い、染料になった宝石屑の入った瓶を受け取ります。


「確認させていただいてもいいですか?」


「ああ、もちろんだ」


お金を払う前にちゃんと確認をします。


ウエストバックから真っ白な紙を取り出して、その上に瓶から少量ずつ粉を落とします。


それを持ちあげて陽に透かしたり、匂いを嗅いだり、手に塗りつけてみたり。


「いいですね。 おいくらになりますか?」


石の値段は聞いていましたが、加工料も必要になります。


「ふん、今回は加工料はおまけしてやるよ。


こいつがやりたいってんで任せたんだ」


そういって、おじさんはあの少年の頭をまたぐらんぐらん撫でています。


「そうでしたか。ありがとう」


私がにこりと微笑むと、俯いていた少年が顔を上げました。


「良かったな。 客によっちゃ見習いにさせると嫌がられる事もあるんでな」


おじさんの言葉に少年はうれしそうに私に頭を下げてきました。


「お客さん、ありがとうございました」


「いえいえ、私もまだ見習いですから君と同じです。 がんばりましょうね」


私もおじさんと同じように頭を撫でてみました。


「うんっ、おにいさん、また来てね」


二人に見送られて店を出ます。




 翌朝、ちゃんと準備をしてから草原の町へと出発です。


今回は馬車の時間に合わせて出発し、それについて行く感じで行こうと思います。


しかし、鉱山の町を出てすぐにテテが停まりました。


馬車の姿が見えなくなりそうで焦ります。


「どうしたの?」


テテが街道を外れて歩き出しました。


「ちょ、待って」


手綱を引きますが言うことを聞いてくれません。


 まだ町が見える範囲なので大丈夫かなと思っていると、テテが停まりました。


「何があるの?」


一生懸命、鼻で草むらにある何かを突いています。


馬から降りてそこを見ると人が倒れていました。


「あ、あの、大丈夫ですか?」


マッチョな体形の男性です。


黒い髪で、横顔を見ると無精ひげが見えます。


揺すっても起きないので、仕方なく両脇の下に手を入れて、引きずるようにして町まで戻りました。


そのまま放置出来なかったのは、その男性が私のミトンを手にしていたからです。



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