クロノとシロミヤ。
「……なぁシロミヤ、好きなアニメ演出について話をしないか?」
「急だな……別にいいけどさ」
「まずは俺から。『あるキャラクターがギャグ的なこと言った時にミニキャラに変身する』アレ」
「一発目にそれ出してくる? いやまぁ分かるけど……キャラがとんちんかんなこと言ったら、2頭身キャラになるみたいなことでしょ?」
「そう!!」
「〇らら系のアニメによくある……」
「そう!!!」
「そしてぽこぽこ殴る時に鳴る可愛いSE」
「分かってるじゃん!! ……100点!! へっお前最高かよ」
「は?」
「じゃあ次はオレか……『オープニングでキャラクターがどんどん増えてくる』という演出」
「うわ、分かる!!! すげぇよ分かるよシロミヤ!!」
「何がすげぇんだよ……」
「アレな、シルエットになっているキャラクターが現れるアレ!!」
「け〇フレとか?」
「そう!! あと、悪役がサビ前で出てくるよな!! アレもシルエットだったり、それが見えるようになった時の快感!!! ああ!!! たまんねぇよなぁ!?」
「うっさ……」
「……100点!!」
「だから何その点数」
「次は俺だ!『オープニングの演出が変わる』というアレ!」
「あ、パクッた」
「パクってねーわ!! 例えばな……最終回で流れるオープニングはな、最後に後日談みたいなことをやっている時の後ろに小さく流れるんだよ!! アレ最高だろ!?」
「……悔しいけどわかる」
「そうだろう! 更に本編から違和感なくオープニングに入るやつ!! ラジカセの再生ボタン押してから始まるのは天才すぎるだろ!!」
「……〇B!」
「更にSE付きオープニング!!」
「〇ョジョ!」
「そしてバトロワ系のオープニングは、キャラが消えたり、顔にバツがつく!!」
「うわー分かるなぁ。オープニングでキャラ紹介するやつは、途中で肩書き変わったりするんだよな」
「そうっ!!! さすが!!!」
「次はオレだ。『周りだけ時間が止まる、もしくは周りだけ時間が動いている』という状態」
「……ん? よく分からないな。詳しく説明してくれ」
「そうか、例えば……前者は2人で会話しているんだ。それもとても重要な話をな。その2人だけの世界を描写するために周りが止まってたり、真っ白な空間になったりしているというシーンだ」
「なるほど、もう1つは?」
「後者はきっと主人公1人の状態なんだ。そしてその主人公は苦悩しているんだ。スクランブル交差点の中央や電車や地下鉄のホームで立ち止まっているんだ」
「なるほど」
「悩んで止まっている主人公と対比させるように、周りの人や電車は無機質に進んでいる。と、いうわけだ」
「……うわ……好き」
「あ?」
「好きだわその演出!!!」
「あ、そう」
「100点!!」
「……」
「次は俺だ! 『そのキャラが活躍した回のエンディングがそのキャラのキャラソン』」
「わかるー。恋愛系とかにありがちだよな」
「そうだな! でも日常系とかでもよくあるぞ!!」
「そしてオープニングエンディングよりも人気な曲になったりな」
「わかる!! 挿入歌もたった一度しか出てないのに、人気になるよな!」
「もうあのアニメしか思い浮かばないな」
「次はオレだな。この演出が一番好きなんだが……『実はそのキャラは死んでいて、そのキャラのセリフをカットしても違和感がない』という演出だ」
「おおっ! 良いねぇ!! まじサイコーかよ!! パネェ!」
「何だその反応……」
「でもその演出中々難しいよね。バレやすいし何より……そのキャラを認識出来ている人が1人の場合が多い」
「まぁ大体主人公だよな」
「そうだよね。サブキャラだけが見えてもしょうがないしね」
「例を挙げるなら……がっこう〇らしとかあの〇とかか?」
「あの〇は最後みんな見えるじゃん」
「ならみんなが主人公ってことだろ」
「……80点!!」
「は?」
「よし次は俺だ!『大事な事を話してる時に、電車に邪魔される』あれ!」
「ふーん。それは俺嫌いだ」
「えぇっ! 何で!! すげぇいいじゃん!!」
「いや、腹立つんだよな。大事なセリフが聞こえねぇじゃんって。告白シーンでそれしたらオレマジでキレるよ」
「いや、何言ったか分かんないからこそ考察が始まるんだろ!!」
「おーおー考察厨のお出ましだ」
「なんだァ……てめぇ……」
「おーお前の……」
\パーパッパラッパッパー/
「うわっ、吹奏楽部の練習が始まったぞ」
「じゃあ帰るか」
───
「なぁ、さっきさ俺に何て言おうとしたんだ?」
「さあな。大好きな考察でもしてたらいいんじゃないか?」
「うわぁ性格悪いなぁ」
「オレはこんな性格死んでも治らないけどな」
「ははっ、何言ってんだよシロミヤ。もう死んでるじゃねぇか」
「……は?」
「えぇ……気付いてなかったの? シロミヤの体めっちゃ薄くなってるぞ」
「えっ!? あ、う、嘘だろ……!?」
「昨日事故でぽっくり死んだらしいぞ。まさかとは思
ったが……本当に自覚してなかったのか」
「そういや今日誰もオレの話聞いてくれなかったな……うっ……クソっ……頭が痛てぇ!!」
「うわー死んだことを自覚したから、成仏しようとしてるんじゃない?」
「はぁ!? おいふざけんなよクロノッ!!!!」
「いや、落ち着けって。俺が言わなくてもどうせ明日にでも気づいて勝手に成仏するのがオチだ。そんなことアニメで何回も見た」
「ふざけんなっクロノッ!!! ……これは……これはアニメなんかじゃねぇんだよ!!」
「はぁ……あのな……落ち着けシロミヤ。実はお前の成仏は徐々に進んでいたんだ。体が薄くなっていると言ったのは嘘だ。既にお前の姿見えてないんだ」
「……っ」
「声もどんどん聞こえにくくなっている。……もう時間の問題なんだ」
「……」
「……だから……何か最後に言いたいことはあるか?」
「……エンディングの後にあるCパート。……関係の無いように見えて……実は本編と深い関わりがある……という演出」
「……120点だよ。シロミヤ」
───
次の日からシロミヤは学校に来なくなった。いや、来れなくなったと言う方が正しいだろうか。
あれからシロミヤの姿は見えない。もうこの世には存在しないのだろうか。
あれから学校に行くのは少し苦痛だけれど、それでも行かなくちゃいけないのだ。でないときっとあいつは悲しむだろうから。
俺は教室、2の6の扉を開いた。すると一斉に生徒達は俺の方を向いてくる。
俺はそんなことは気にも止めず、教壇に立つ。そして口を開いたのだった。
「……シロミヤ先生に変わって、数学を担当することになったクロノです。よろしく」